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 そしてリアーヌは咄嗟にオリバーの背中にしがみつきながら叫んでいた。


「――触らないでっ!」


 リアーヌとしてはベッティに(・・・・・)触られたくない一心で放った拒絶の言葉だったのだが、周りの護衛たちはそれを自分たちへの警告だと捉え、取り押さえようとしていたベッティから慌てて距離をとった。


「……――なによ? 私のギフトは譲渡なんでしょ⁉︎ だったら触られたって問題ないわよねぇぇぇ⁉︎」


 そう言いながら高笑いを始め、何度もリアーヌに手を差し出すベッティ。

 そんな彼女の態度に部屋にいた誰かが呟く。


「――強奪、なのか……?」


 その呟きにゴクリと唾を飲み込み、一瞬のうちに覚悟を決める護衛たち。

 しかしオリバーだけは後ろ手にリアーヌをゼクスに託すと、ニコニコと笑いながらベッティに近づいていく。


「――強奪なんですか?」

「……さぁね? 試してみる⁉︎」


 ベッティがバッとその手をオリバーのほうへ向けるが、オリバーは身じろぎもせずに笑顔を浮かべ続ける。


「……アンタも持ってないの?」

「――さぁ? 持っているかどうか、試されますか⁇」

「――そんな女守るために自分のギフト差し出すって? 護衛だかなんだか知らないけど、たかが仕事にすごい根性。 時代遅れだって気が付かないの?」

「私の時代はいつだって私が生きる今この時ですので、遅れることはないと思いますが……――どんなことをしてでもお嬢様はお守りいたします」

「――なんでそんな女……」

「おや……お嬢様の素晴らしさが分からないとは……――なんとも見る目がない……」


 気の毒そうに眉をしかめられたベッティはカッと怒りで顔を赤く染めながらオリバーにしがみ付く。


 (……え、大丈夫だよねこれ……? まさかオリバーさん本当に私なんか守るためにギフト差し出しちゃった⁉︎)


 オリバーがギフト持ちなのかどうかすら知らなかったリアーヌは、サァ……と顔色を悪くしながら二人を見守る。

 すると――……


「――痛い! やめっ離し……!」


 オリバーはベッティの手を掴み、くるりと回るように身体の向きを変え捻り上げる。

 もう片方の手で肩を抑えつつ、もがきながら悲鳴を上げている。


「――例えあなたのギフトが強奪であったとしても、私のギフト名を正確に答えられないのであれば奪うことはできない……――強奪とはそういうギフトのはずでしたね?」


 ニコリと笑いながら言うと、捻り上げているベッティの腕にさらに力を込める。

 あああっ! と、悲鳴を上げるベッティ、そしてそれに動じることなく、微笑みすら浮かべ続けているオリバーにリアーヌがほんの少しの恐怖を覚え始めた頃――

 ガチャガチャとやかましい音を立てながら部屋に入ってきたのは、銀色の甲冑を着込んだ姿の城の騎士たちだった。

 

「お下がりを!」

「後はこちらで!」


 そう声をかけながらオリバーからベッティを引き取る騎士たち。


「離して! 奪ってやる! 身体強化⁉︎ 体力増強⁉︎ 魔法だろうとなんだろうと、ギフト名さえ分かれば奪えるんだからっ!」


 そう喚き暴れるベッティの両腕を両脇から掴みながら、騎士たちはやけに明るい声を上げる。


「わざわざの自白ありがとうございまーす」

「譲渡と見せかけての強奪かよー。 あっぶねー」

「まぁまぁ……分かっていれば、やりようはいくらでもってねー」


 そんな騎士たちの様子に、ベッティは忌々しそうに舌打ちしながら暴れる。


「っ! またギフト無し⁉︎ 城の騎士のくせに無能だらけじゃないっ!」


 いくらベッティが暴れてもびくともしない騎士たちは、その言葉にケラケラと楽しげな笑い声をあげる。


「おーこわ……」

「ま、下っ端騎士ってのは合ってるけどねー」

「ほどほどでいーんだよ。 偉くなったらろくに休めもしねぇ」

「確かにー!」

「アンタたち……?」


 その返答に少しの違和感を感じたのか、ベッティは訝しげな顔つきで騎士たちを見回す。

 そんなベッティに、騎士たちは大袈裟な仕草で呆れて見せる。


「……俺たちギフト持ちだよ? しかも今君が口にしたギフト持ちも混じってる」

「――は? ウソよ……! なら、なんで……」

「君、僕らの顔ちゃんと見えるー? 強奪って、顔とギフト名が一致してないと奪えないらしいよー?」

「……はぁっ⁉︎」


 騎士たちの言葉に目を見開いて驚くベッティ。

 どうやら本人ですらその仕様を知らなかったようだった。


「――おしゃべりはいいからさっさと連れて行ってもらえるか……?」


 楽しそうに仕事をしている騎士たちに、オリバーの地を這うようなドスの効いた声がかけられる。


「――ッスね……?」

「じゃあ……その、速やかに」

「はーい、歩いてねー?」


 騎士に促されると、ベッティはハッとしたように再び抵抗をしながら喚き始めた。


「っ! なんで……なんで私ばっかり……! 私だって好きなように生きたかっただけよっ! なのに――っ!」


 そこまで言ってベッティの視線がリアーヌを捉えた。


「――そいつだって好き勝手やったじゃない……――どうして私だけ捕まるの⁉︎ そいつも捕まえなさいよっ! そいつが諸悪の根源なんだからっ! ――アンタなに隠れてんのよ⁉︎ アンタが全部めちゃくちゃにしたくせに! なんでアンタは守られて大切にされてんのよっ⁉︎」


 リアーヌは決して隠れていたわけではないのだが、ベッティのギフトが強奪だと分かった段階でオリバーがその前に立ちはだかり、隣でゼクスが守るようにその肩を抱いていて――はたから見ればリアーヌが周りの人たちの後ろに隠れ、大切に守られているように見えたのかもしれない。

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― 新着の感想 ―
おはようございます!気になりすぎてそく読んでしまいました笑。常々思うんだけど、世の中は不公平だし努力しても報われない事も多いよね、でもそれを他人のせいにしてもなんも解決しないし、なんなら負のループに落…
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