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「……君がこのまま死んだって、馬鹿正直に「死んじゃいましたー」なんて発表されるわけないだろ。 生きてようが死んでようがどうだっていいんだよ。 守護のギフトを持つ者が王城に居る――それだけで他国への抑止力になるんだ。 今は近隣諸国との関係も良好。 だったらそれで充分だって考えないと、なぜ考えない?」


 ゼクスの言葉にベッティは動揺を隠すよう腕をくみ、そしてリアーヌは隠す気もないほどに盛大に目を見開いていた。


(――え、充分なわけなくない⁉︎ 他国来るよ⁉︎ レオンエンドじゃ他国と第一王子が手を組んでて攻めてくるんだよ⁉︎ そしてそれを二人力を合わせて防ぐんだよ⁉︎ ……まぁ、もうレオンエンドどころか、友情エンドにすらならないわけですが……)


 そんなことを考えていたリアーヌだったが、それはベッティも知っている知識だった。

 そのため、ゼクスの言葉に少しの不安を覚えていても、鼻を鳴らしながら挑戦的にゼクスに言い返した。


「どんなことにも絶対なんか無い。 そうなった時、守護のギフトが使えない――なんて事態、避けたいに決まってる! だったら私は安全なの!」

「……君が罪人じゃなければそんな未来もあったのかもね? ……――でもさ? 君って守護のギフトの持ち主だけど、守護のギフトを奪った張本人なんだよねぇ……そんな大罪人がなに不自由なく――なんて話、あるわけないって思わない?」

「――私は国王の妻になるのよ? しかも守護持ち! ……私にハッタリなんか通用しない!」


 ベッティはそう言いながらも、少しの不安をその顔に滲ませていたが、それを振り払うかのように強気な態度で答続ける。


「本気で理解できてないんだ……――確かに守護のギフトは魅力的だし、失いたくもないだろうけど――君が無事である必要なんかどこにあるの?」

「はぁ⁉︎ 私に酷いことした連中を助けるとでも思ってる⁉︎」


 ベッティはゼクスの言葉に不機嫌そうな様子で怒ったように答えるが、リアーヌは今のゼクスの言葉で、ある程度のことを理解してしまった。


 ――この世界は……この国の人間たちはことさら身分差を重視する。

 貴族に逆らう平民は少なく――平民よりも下の存在が奴隷そして罪人(・・)だ。

 守護のギフトを持っているとはいえ、それを盗んだ罪人の扱いがいいわけがない。

 ――元の世界であったならば“人権侵害”などと言われるようなことであっても、この国ではごく当然のこととして不遇の扱いをされる、そんな階級の人々が存在しているのだ。


「……やらなきゃ水をもらえない、腐ってない食事が貰える――とかならどう?」

「…………は?」

「確かに、貴重な守護持ち……俺もすぐには殺されないと思うけど――手足が一本や二本欠けてたって問題ないんじゃない?」


(うわぁ……やっぱりじゃん……)


 笑顔で説明しているゼクスの隣で、リアーヌは頬をひきつらせながら、顔を伏せるように視線を下げた。

 ゼクスの言葉に、ほんの少しの可能性(・・・)を感じてしまったからなのかもしれない。


「わ、私は妻になって……」

「どうせ表に出せない側妃なんだから、手や足が無くて誰も気にしませんよ。 あぁ……――逃げられることもなくなるから、むしろ好都合?」

「だ、だから! 私にそんなことしたら!」


 助けないわよっ! と、ベッティが叫ぶ前にゼクスの冷静な声がかかる。


「――その時も! ……そんなふうに元気に怒鳴れる気力が残ってれば、そんな復讐(・・)も出来るんだろうけど……――でもさ? 守護のギフトを使わない守護持ちなんか……生きてる意味あるのかなぁ? ――君はどう思う?」

「そん、なの……――ハッタリよ! そうなんでしょ⁉︎ だってそんなの……酷すぎる!」


 訴えるように叫んだベッティに、ゼクスは目玉をぐるりと回しながら、呆れたように口を開いた。


「おいおい……酷いのは君の態度のほうだ。 国の宝と言っても過言じゃない守護持ちから守護を盗んで、罪人の分際で王族と取引――しかもその取引を土壇場になって反故にする……――貴族の顔にだって泥を塗ったら命の危機なのに……――王族の顔に泥? ……今日の夜、君が不審死したとしても俺は驚かない自信があるね」


(……驚くぐらいはするんだろうけど……――納得もしちゃいそう……)


 リアーヌが気まずそうに前髪をいじりながら、そっと溜息をつく。

 この世界で生きて二十年にもなっていないというのに、随分とこの世界の価値観に馴染んでいる自分に気がついたからなのだろう。


 ゼクスの言葉を聞き、顔色を悪くするベッティは、身を守るように自分の身体に腕を巻きつけながら立ち上がる。

 護衛たちが警戒する中、どこか怯えるような様子でブツブツと独り言を言いながら、ソファーの周りをうろうろと歩き始めた。


「ウソよ……そんなこと出来るわけがない……――ありえない。 だってこれは向こうの世界で向こうの人間が作った話なのに……あんな優しい話でこんな酷いこと、起るわけが……」


(……その動揺も理解できるけど――ここで暮らしてたらゲームの中で描かれてないことなんか、わんさか出てくるって理解できそうなもんだけど……――いや、言われてることが衝撃的過ぎて、信じたくないって想いが強いのかな……?)


 リアーヌはそんなことを考えながら、ベッティにほんの少しだけ同情的な視線を向けた。

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