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――王城の一角に位置する牢獄塔。
その最上階のかなり豪華で、綺麗に整えられた身分の高い者たちを拘束するために作られた部屋――パラディール家のサロンと比べても遜色ないその部屋は、窓に鉄格子がはめられ扉の外にも鉄格子が設置されていなければ、牢屋であること自体を疑ってしまいそうだった。
そんな部屋で、ベッティとの面会は行われた――
ベッティが王家側の騎士や護衛の同席を拒んだので、今回は従者としてオリバーやラッフィナート家の護衛が同行し、壁際に控えている。
リアーヌは(そこまでベッティのいうこと聞く必要ある⁉︎ いくらなんだってワガママが過ぎるのでは⁉︎)と不満を持っていたが、それほどまでに王家は――レオンサイドの人間たちはベッティ以外の守護持ちを欲しており、それがリアーヌという国王陛下のお気に入りであるならば余計に都合が良かった。
そしてボスハウト家やラッフィナート家も、リアーヌが守護持ちになることにメリットを感じていた上に、自分たちの指定する護衛を同行させてもいいという言葉があったので、このベッティの言葉に異を唱えることはなかった。
「――来ていただけて嬉しいです」
ベッティは、はにかむような笑顔をゼクスに向けながら照れているかのような仕草でもじもじと膝の上に置いた手を動かした。
(……この子は貴族でもなんでもないから、こっちが礼儀に則った挨拶したって返ってこないことぐらい予想はしてたけど……――この状況下でもこんなハッキリ無視されるんだ……)
リアーヌはイラ立ちながらも、澄ました顔をとり繕ってさっさとソファーに座る。
(もういい。 さっさとコピーする。 そして帰る。 もう二度とコイツとは関わらないっ!)
リアーヌはグッと奥歯を噛み締めながら背筋を伸ばし、顔中の筋肉を駆使して綺麗な笑顔を浮かべる。
「――お元気そうで何より……早速ですが、守護のギフトをコピーさせていただけますか?」
そんなゼクスの言葉にベッティはニコリと笑いながら「その前にぃ……」と甘ったるい声で喋り始めた。
「最後になるかもしれないんですからゆっくりお話しませんか? そしたら私も気持ちよくコピーに応じれるとおもうんですぅ」
「……コピーさせる代わりに俺を呼びつけたんだと理解してたけど違った? コピーさせないつもりなら時間の無駄だから帰らせてもらいたいんだけど?」
ベッティのだ言葉に、ゼクスはわざと乱暴な仕草でソファーにもたれかかると行儀悪く足を組む。
そしてめんどくさそうな声で答えたのだが――
そんな態度のゼクスにベッティは頬を染め、瞳を潤ませながら熱っぽい吐息をもらした。
(――完全にオタクが推しに向けるソレだなぁ……――ゼクス的にはベッティを萎縮させようとか、横柄な態度を取って優位に立とうとか、そういう商人的な考えでやった気がしてるけど……――オタクにとっちゃ推しのレアな一面ありがとうございます! になるんだろうな…… あ、そういえばゼクスって好感度が上がれば上がるほど、主人公の扱いが雑くなるキャラだったわ。 ――だとしたらコレ、『えっ⁉︎ なんかゼクスからの好感度以外に高いんですけど⁉︎』とか思ってるんじゃ……?)
「そんなこと言わないでお茶でも飲んでいってよ、そのくらいいでしょ?」
リアーヌが見守る中、ベッティは甘えるようにゼクスに話しかける。
そんな態度に呆れたのか、隣にいるリアーヌへの配慮なのか、ゼクスはハッキリと顔をしかめながら長いため息をついた。
「――すまないが入れ替えを。 コレは安心して飲めない」
ゼクスは護衛の方に視線を流しながら言うが、オリバーがラッフィナート家の護衛たちを制するように歩き出しながら口を開いた。
「お茶というならば私が……――男爵は分かりませんが、お嬢様の好みは熟知しておりますので……」
(――砂糖多めなら、どんな茶葉でも美味しく飲めます! あと匂いが強いのはなんだかんだ高級な気がしてお得感に浸れます!)
慣れた手つきでオリバーが素早く入れ直したお茶に手を伸ばしたリアーヌは、すでに爽やかな香りがしていることに頬を緩めチラリとオリバーに視線を送った。
その視線に気がついたオリバーは満足そうに微笑み返しながら頭を下げ、元の場所に戻っていく。
「美味しい?」
「……はい」
ゼクスにいきなり話しかけられ、驚きながらも返事を返すリアーヌ。
先ほどとは全く違うゼクスの態度にベッティが目を丸くしているのを尻目に、リアーヌは気を抜かないよう、グッと背筋を伸ばし直した。
「すぐにお茶飲んで、さっさと帰ろうね?」
「……そうですね?」
リアーヌのほうを向きながらお茶を飲んでいるゼクスに、焦ったようなベッティの声がかかる。
「ゼクス君の夢は商人としてお父さんを超えることでしょう⁉︎」
「……急になんの話? ――俺の夢は商会を守りきること。 あとは早急なる借金返済だけど?」
そう答えながら肩をすくめたゼクスに思わずリアーヌが声をかける。
「――隙あらば黒字にしていきましょう! 今のポテンシャルならいけると思うんです!」
紅葉エリアが人々に受け、花園への来場者は大幅な右肩上がりが続いている。
それに伴い土産物屋やカフェの売り上げも右肩上がり、サンドバルの村の人口も増加の一途を辿っており、税金による収入も決して少なくはないものなるだろうといわれていた。




