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「……それどっちなんだろうなぁ……――まぁ、俺としては守護のギフトもらえるだけでかなりお得だなって思ってるから、あとはリアーヌの希望通りにしてくれていいよ?」
「……じゃあ『守護』だけで」
そう答えたリアーヌの言葉にクラリーチェが顔を明るくし、レオンとフィリップもホッとしたように胸を撫で下ろす。
そんな態度を見て、リアーヌは一気にベッティから『守護』のギフトをコピーするんだという認識を強くした。
――それと同時に、ある不安が胸をよぎる。
「――逆に私のコピーが盗られる説ない?」
ビアンカに身体を寄せ、コソリとたずねる。
「――譲渡にだって同意が必要だと聞いておりますけれど?」
「そりゃそうなんだけど……こう、言葉巧みに……」
「――ここでコピーを盗られたら、クラリーチェ様の明るい結婚生活どころか、あなたの幸せな未来にまで影響するのだから気合を入れて死守なさい?」
「やろうとは思ってるけどさぁ……――そもそも、あの子私にコピーさせる気あんのかな?」
「――あるからこそ、この打診なんでしょう……?」
リアーヌたちは不安に駆られながらチラリとフィリップやレオンに視線を向けながら答えを求める。
「……ラッフィナート男爵が同行するのであれば協力する、との言質は得ている」
そんなフィリップの言葉にリアーヌは盛大に顔をしかめた。
「それって……」
「――ゼクス様に会いたいがための方便では……?」
ビアンカもリアーヌと同じことを考えたのか、眉をひそめながらたずね返す。
「その可能性は否定できないのだが……」
チラリとゼクスに視線を流しながら言葉を濁すフィリップ。
そんなフィリップに肩をすくめながらゼクスが口を開く。
「――できうる限りの手段を使って守護をコピーさせていいってお言葉をもらってるんでねー? 俺は問題ないですよ?」
「……つまりゼクス様がギフトの力を使ってベッティを騙くらかしている間に、私がコピーする――と?」
「――もう少し言い方取り繕おっか……?」
「……でも、ギフト使ってもいいって言われたって話ですよね……?」
リアーヌは面白くなさそうに顔をしかめながらいう。
ゼクスのことを疑っているわけでは無いが、ベッティが明らかにゼクスへ思いを寄せていると分かっているのに、そんな彼女をギフトを使って魅了するというゼクスが面白くなかった。
「――説得のための手段の一つ、ぐらいにしか考えてなかったけど……――リアーヌがイヤならやらないよ?」
「……別にイヤとかそういうのでは……」
「――だから機嫌直して?」
により……と、からかいを含んだ笑顔で見つめられ、リアーヌは顔を赤く染めながら視線を泳がせる。
そんな反応をレジアンナたちにクスクスと笑われリアーヌが俯いてしまうと、その間にベッティとの面会の日時はゼクスとフィリップたちの間で、まるであらかじめ決められていたかのようにポンポンと滞りなく決められていった。
――途中で何回か、ビアンカに「イヤな予感はしませんのよね?」「本当にイヤならちゃんとイヤだと言いなさいね……?」と声をかけられていたが、ゼクスにからかわれ少し拗ねていたリアーヌは、膝に乗せた手を睨みつけながら、おざなりに「うん……」「大丈夫……」とぶっきらぼうに答えただけだった。
(――別に嫉妬とかじゃないし! なんかイヤだなって思っただけだし! ……――でもさ⁉︎ 守護のギフトコピーするだけならゼクスとかいらなくない⁉︎ コピーすんの私でゼクスは私の婚約者なのに、なんで勝手にゼクスが同行することが決まってんの⁉︎ しかも魅了ていいとか許可出したりさっ! 隣に婚約者がいて他の女に魅了ってっ! ――ありえないじゃん! 絶対にありえないことですけどっ!)
「……リアーヌ? あの……本当に謝るから機嫌直して?」
「――別に怒ってないですもん」
ぷっと頬を膨らませながらプイッとそっぽを向くリアーヌ。
「――この後ピペーズ通り行く?」
「……食べ物なんかに釣られないですもん」
眉間にシワをよせゼクスを睨みつける。
ゼクスはそんなリアーヌに愛想笑いを返しながら話を続けた。
「――数日前にオープンしたドーナツ屋はどう? 穴が空いてなくて中にカスタードクリームがたっぷり入ってるって話で――食べに行ってみない?」
「……別に、その……」
「――俺が食べたいから、もし良かったら一緒に行ってくれないかな?」
「……ゼクス様がどうしてもっていうなら……?」
「もちろんどうしてもだよ! 当たり前だろ? ――一緒に行ってくれる?」
「……いい、ですけど?」
「本当? 嬉しいなぁ!」
そう言いながら笑ったゼクスの顔を見て、リアーヌは(そこまでいうながら一緒に行ってあげてもいいけど……――別にカスタードたっぷりのドーナツに釣られたわけじゃないし! 生ドーナツってヤツだ! とか思ったわけじゃないしっ‼︎)と、心の中で言い訳を連ねていた――
話がまとまりかけた頃、ニヤニヤと笑ったフィリップが口を開こうとしたが、そんなフィリップの太ももを軽く抓って止めるレジアンナ。
「っ⁉︎ レジアンナ……?」
「――馬に蹴られてしまいますわ?」
「……コミュニケーションの一種だけれどね……?」
「リアーヌの居ないところでならどうぞ?」
「――次からはそうしよう」
肩を小さくすくめながら苦笑いで答えるフィリップ。
そんなフィリップが口を閉ざしたことで、レジアンナやビアンカたちはゼクスがリアーヌの機嫌をとり続ける姿を静かに見守り続けたのだった――




