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その日の深夜。
あの後、帰宅した父親にもたくさん褒められ祝福され、気恥ずかしくも鼻を高くしたリアーヌは、合格祝いの豪華な食事や美味しいデザートを堪能して夢心地でベッドの上に寝そべっていた。
「はー……本当に入学できるんだ……あのレーシェンド学院に……」
リアーヌは熱に浮かされたように、ほぅ……と熱い吐息を漏らす。
そして胸に抱いていた手紙に再び視線を向けた。
『レーシェンド学院』
ディスティア王国で唯一の国立学院。
歴代の国王や王族、貴族の殆どが入学すると言われる由緒正しき学院。
数々の英雄や、天才と名高き文官を輩出してきた実績ある学院。
そして、ギフトを持っている者ならば、その身分を問わずに入学を許される、実力主義と平等を謳う学院。
(あのゲームの舞台……もはや聖地巡礼。 しかも攻略対象たちの一部とは同学年! これってもしかして運命⁉︎ しかも教養学科の試験に受かってるから学科も同じっ‼︎ ――欲を言えば来年の入学が良かったけど……でも一年経てば主人公が入学してゲームスタート! 出現場所を見張ってれば、おこぼれでもスチル場面をこの目で見られるかもしれない! ……それにゲームでは見られない攻略対象者たちの姿とか、学院での様子が見られちゃうってことでしょ⁉︎ そんなん、毎日が2.5の舞台見てるようなもんじゃん! あー人生がご褒美過ぎる……ーーもしかして、具合悪くなったふりしたら、ミカエル先生の保健室に入り浸ったりしてしまえる……⁉︎)
そこまで考えたリアーヌは、ふと感じた疑問に微かに眉をひそめて思わず呟く。
「――この世界って、当然一周目だよね? ――追加の攻略対象って学院に……? いや、いないわけないよね⁇」
リアーヌが特に気に入っていたキャラは、追加される攻略対象で養護教諭だった。
(だって養護教諭よ? 絶対いるよね⁇ ……そこにその人がいて、会いに行けて話もできちゃうなら――……まさか恋愛も可能だったりして――)
少しだけ期待に胸を膨らませ口元を歪ませたリアーヌだったが、すぐさま真顔になって否定する。
「――って、んなわけないか……それが可能なのは主人公ちゃんだけなのよ……――大体、私と恋愛するミカエル先生とか解釈違いが過ぎる……」
(ーーそもそもさぁ……村の幼馴染を除いたら、残りの攻略対象者全員が、なんかしらの分野で大成する実力者達か、名だたる名家の跡継ぎでもれなくイケメン揃い……棚ぼた的に貴族になっちゃった、元平民の地味ギフト持ちな平凡顔じゃなー……誰だって自分と同じくらいのラインかその上を目指そうとするもんでしょ……)
恋愛出来るとはカケラも思っていなかったリアーヌだったが、心のどこかに(それでも……)と、期待する気持ちはあったようだった。
リアーヌは少し冷静になりながら、ふぅ……と長いため息をつき、ゴロリと寝返りをうつ。
リアーヌの言った#地味ギフト__・__#とは、ギフトが使えれば便利だが、使えなくとも特に不便なこともない――という、ギフトの総称であり、そこには少しの揶揄も含まれている。
リアーヌのギフトは【コピー】。
手をかざせば見たままを移し取れるギフトだったが、この世界にはすでに印刷の技術があった――
印刷機よりもリアーヌのギフトの方が精巧で印刷にかかる時間も短くて済むが、リアーヌが出来なくとも印刷機があるので誰も困らない
――リアーヌのギフトは、そんな地味ギフトと呼ばれる部類のものだったのだ。
「……これ以上欲張るのはよそう。 妄想でもなく、本当に現実で推しが生きてる世界にいるんだよ? しかも同じ学校に通える! ……もしかして挨拶程度だったら直接会話ができるかも⁉︎ 目の前で生きてるんだし! 目の前で動いてくれて話しかけても許されて? しかも無料だよ⁉︎ ーーこれで満足できないとか、前世の同志たちに呪詛を吐かれるレベル……」
ほんの少しの邪気を感じ取ったのか、リアーヌは身震いしながら、身を守るようにゴロリと寝返りを打ってブランケットを身体に巻きつける。
そして窓の外に見える夜空を眺めつつ、再び自分に降りかかった幸運を噛み締めながら眠りについたのだった――