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そして地面を見つめたまま呟くようにたずねた。
「……――あんたのギフトがウソなら、レオンが私の運命の人だって言うのもウソなの……?」
「ああ。 あんたの運命は王子様なのよってやつー? ――さぁね? ただ……アンタとレオンがうまくいかなかったのはアンタの自業自得」
「――私の……?」
ノロノロとした動作で顔を上げたユリアにベッティは攻撃的な笑顔を返しながら口を開く。
「そう。 ちゃんとアンタが私の言うこと聞いて、私が教えタイミングで私が教えた言葉をかけてればゆくゆくは恋人になれてたのよ! なのに、ちょっとその気にさせたら勝手に調子に乗って! なのになにか問題が起こったら私のせい! 私にはお前の尻拭いしてるヒマなんか無かったんだよっ! 主人公だかなんだか知んないけど、この世界が自分のためにあるとでも思ってんの⁉︎ この傲慢女っ‼︎」
「な……なにを……だ、だってベッティが言ったんだよ⁉︎ 私はレオンと結ばれる運命だって! 自分にはそれが分かるんだって! だから私は――」
「そん時、私の言うこと聞いときゃ幸せになれるとも言っただろうがっ! こっちの言うことは聞かないくせに、なんでもかんでも私のせいにしないでって言ってるでしょ⁉︎」
そんなやりとりを聞きながら、リアーヌはおおよその予測を立てていた。
(つまり――転生者はユリアでは無くベッティのほうで……――おそらく『私のギフトの力で分かるんだけど、貴女の運命の相手は王子様のレオンだよ!』とか言ったのかな? ……で、王子様が私の運命の相手⁉︎ とか暴走しちゃったユリア⁇ ――ベッティは完全にゼクス狙いだろうから、ユリアがゼクスルートに入るのだけは避けたかった感じ? つーか……ベッティ、転生のこととかゲームのこととか隠す気ゼロなんですけど、これ大丈夫そう? ……――イヤな予感はしないけど…… 激昂してる人が意味分かんないこと言っててもスルーしちゃう、かも……?)
そんなことを考えながら周りの反応をチラチラと伺っていたリアーヌだったが、その視界に警備部の騎士たちが王勢でこちらに走ってくる姿が見えた。
そしてベッティを取り囲んでいた生徒たちをかき分け、その前に出ると素早くベッティを取り囲む。
そんな素早い騎士たちに動揺しながらもベッティは声を荒げた。
「な、なによアンタたち!」
しかし警備部の者たちはそんな言葉に怯むことなく淡々と要件を伝えた。
「――警備部の者だ。 ベッティ・レーレン、今回の騒ぎについて話が聞きたい。 ご同行願おう」
代表者がそう告げると、周りにいた騎士たちがプレッシャーをかけるかのようにザッとベッティに近づいてその輪を狭める。
それにビクリと肩を震わせたベッティだったが、すぐに自分を取り囲む騎士たちを睨みつけながら声を張り上げた。
「――私に触らないで! 盗むわよ! 取ってやるんだからっ!」
「……何をだ?」
「なにをって――」
ベッティが目を釣り上げるが、その言葉を遮るように騎士が答える。
「我々は生憎、ギフト持ちではないのだがな?」
「なっ⁉︎」
ベッティは目を見開きながら答えた騎士を凝視し、ハッとしたように周りの騎士たちを見回す。
「――もちろん全員さ。 念のためだがね?」
「どうもー。 ギフト無しでーす」
「別に無くとも困らんのでな?」
ベッティにニヤリと笑いながら騎士たちが声をかける。
そんな騎士たちの言葉に対抗するように、ベッティはしばらく騎士たちを睨みつけていたがどうすることも出来ず、腕を掴まれた瞬間ガクリと力を抜き、その場に崩れ落ちたのだった――
◇
あっけなくベッティが捕まり、翌日――
リアーヌの周りにはようやく平穏が訪れた――かに思われたが、その日からリアーヌたちは“政権争い”というものに巻き込まれることになった。
原因はベッティが巻き起こした守護のギフト強奪事件――いや言葉巧みに譲渡させた事件だ。
この件が寝耳に水で、慌てふためいた者たちが大量に発生する。
フォルステル伯爵を初めとして、その周囲の者たちやそのおこぼれに預かろうとしていた者、守護のギフト持ちが付いていると強気に出た者たち――そして、この国の王妃。
息子である第一王子の婚約者の有力候補であったユリアから守護のギフトが失われてしまった上、そのギフトを所有する者が王妃の立場を持ってしてもそう簡単には手出し出来ない場所に軟禁されてしまった。
守護のギフト持ちと息子を結婚させ、王太子への道を強固なものにするはずだった。
――にも関わらず今回の騒動が起こった。
元々、素行に問題のあったユリアだったが守護のギフト持ちということで、かなり格別な配慮を見せてきた。
それらは全て、守護のギフトを自分たちの都合のいいように使うためだったのだが――
糸を張り巡らせる蜘蛛のようにユリアを絡め取り、自身の派閥に取り入れていたというのに――あっという間に、ユリアはギフトを失い現在のギフト持ちには手出しできず――そしていま現在、この国で最も守護のギフトに近い者は、第二王子の友人となってしまっていた。
さらには、ユリアのことで手を組んたフォルステル家は、ボスハウト家と敵対状態であり、王妃側のことも敵と認識している状況――
そこで王妃は、なんとか起死回生の一手を打とうと、第一王子とリアーヌの婚約を画策した。
リアーヌとゼクスの婚約が王命で結ばれたものだということは理解していたが、国王とて守護のギフトを持つことになる者を他家で遊ばせておくよりも、王家で――王太子妃として王族の末席に加えておくほうが安心するに違いない、ならばこの婚約を無かったことにして、リアーヌを第一王子の婚約者としてしまっても、そこまでのお叱りを受けることは無いのでは……? と、そんな身勝手な考えに至った王妃は、リアーヌとゼクスの婚約、そしてリアーヌ自身に手を出し始めたのだが――
――結論として、王妃たちはボスハウト家とラッフィナート家、そして国王の怒りを買った。




