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ゼクスの言葉にフィリップがハッと顔を上げて呟く。
「――『譲渡』……」
フィリップの言葉にゼクスは面白くなさそうに鼻を鳴らし言葉を続ける。
「もし君が持っているギフトが『強奪』ではなく『譲渡』だった場合、対処は簡単だ。 「君になんかギフトは譲らない」――そう強く念じているだけでいいんだから」
ゼクスの言葉にグッと奥歯を噛み締め、真っ直ぐに見つめ返すベッティ。
それは図星を言い当てられた時のもののような、試してみるれば? と挑発しているかのような――どちらなのか判断がつきにくい顔つきだった。
「――譲渡には制約がありますの?」
「コピーと同じです。 双方の同意がなければ出来ません」
ビアンカの質問にゼクスはベッティから視線を逸らさずに答える。
「――それで? どっちなんですの? 強奪ですの? 譲渡ですの⁇」
レジアンナからの質問にも、グッと唇を噛み締めなにも答えないベッティ。
「――ありゃ……さすがに学習しちゃったかな? ――ま、強奪だって直接触れなきゃいけないとか、対象となるギフト名を正確に把握していなきゃいけないとか制約はあったはずですけどねー?」
そんなゼクスの質問にもなにも答えないベッティ、しかしジリジリと狭まる生徒たちの距離となにかもうまくいっていないこの現状に、大きな苛立ちを抱えているようだった。
「――なぁ」
そんなベッティの様子をハラハラしながらジッと見つめているリアーヌに、ザームがたずねる。
「……いま割と緊迫してる状況だけど……――どうかした?」
リアーヌは声をひそめてたずね返すが、ゼクスどころかベッティまでもがその声に反応し顔を歪ませたので、リアーヌが想定していたよりは、ずっと多くの者たちに聞こえてしまったようだ。
「なんで『譲渡』は『強奪』と勘違いされたんだ?」
リアーヌの気づかいなど全く気がつけないザームはごくごく普通の声で質問する。
そんな弟に微妙な顔つきになったリアーヌはため息をつきながら首を傾げた。
「確かに……――逆に強奪の人は譲渡のフリしそうだよね? 同意がなきゃ無理だからーとか言ってさ?」
「あー……油断はしそうだな?」
そんな姉弟の会話にゼクスは困ったように苦笑いを浮かべながら説明を口にする。
「人々の話題に上がるのは、他人を騙して奪ってしまう『譲渡』持ちの話ばかりだからね? どうしたってあ悪いイメージは付いてしまうんだよ」
「……騙すって――強奪だって?」
ザームがこてりと首を傾げながらたずねるが、リアーヌもその隣で同じ行動をしながら視線でゼクスに問いかけていた。
ゼクスはそんな姉弟にクスリと笑いながら説明を続ける。
「いや――譲渡には相手の同意が必要なんだけど、その同意の言葉を巧みに騙して奪い取ってしまう――なんて事件が多くてね? だからあれは譲渡じゃ無くて強奪だ! なんて揶揄されたりする場合が多くなっていったんだ」
「……じゃ、あっちの女にあいつに騙されたのかどうか聞きゃ一発で分かんじゃね?」
そう言いながらザームはユリアを指差し、コリアンナにそっとその手を広げられていた。
(うん。 そうだね……指さすのは良くないよね……?)
ザームのその言葉や動きにつられ、多くの生徒たちがユリアに視線を向ける。
多くの者たちに見つめられたユリアはキョドキョドと目を左右に揺らしながらも答える。
「その……――私、ベッティに渡したいだなんて思ったことないわ……?」
その答えにすぐさまゼクスが質問を重ねる。
「使わせてあげられたらよかったのに……とか「私もそんなギフトが欲しかったな」なんて言われた時「できることなら貸してあげたいけどね」なんて返したことは?」
そんなゼクスの言葉にサァ……と色を失っていくユリアの顔。
「――ぇ、でも……そんなの本心じゃ……!」
驚愕の表情でふるふると首を横に振るユリアに、ゼクスは肩をすくめながら答えた。
「これはあくまでも俺の想像だけど……――騙されてギフトを譲渡させられている人は決して少なくない。 だから少しでも『貸すぐらい……』と考えたり、例え本心じゃ無くても「使ってみる?」なんて口にしただけで、貰い受けることが出来てしまうんじゃないかな?」
ゼクスの言葉にユリアはゆっくりとベッティに視線を移す。
ベッティは取り合うことすらせずにユリアから視線を逸らしただけだった。
「――私を騙したの……? 友達だと思ってたのに……――返してよ……ねぇベッティ……私の力返して‼︎」
そんなユリアの言葉に呆れたように目をぐるりと回したベッティは、大きく息をつきながら吐き捨てるように答えた。
「はっ! アンタが友達? 笑わせないでよ……――アンタなんてただの駒よ駒! ――大人しく私のいうこと聞いてりゃレオンぐらいくれてやったのに……私の言うこと無視して好き勝手したくせに、なんでもかんでもこっちのせいにして……! アンタなんかギフト持ってなきゃそこらへんの田舎女となんにも変わんない! 常識知らずのバカ女がデカい顔してくんなっ!」
「な……」
ユリアはベッティからの言葉にはくはくと口を動かしその瞳に涙を浮かべ始める。
そして手を握り締めながら反論を始めた。
「私デカい顔なんかしてない! それに田舎女はベッティもでしょ⁉︎ 一緒だから気にすることないってそっちが言ったんじゃないっ!」
「ウソに決まってんでしょ! ずっと王都で暮らしてる私が田舎女になるわけないじゃない! アンタって本当なんにも考えてないのね! 脳みそ入ってないんじゃない?」
「な……な……」
「はっ! なにその“いま初めて気がつきました!”みたいな顔! アンタに言った言葉なんか、ウソじゃなかったことのほうが少なかったぐらいよ!」
そんな言葉を吐き捨てるように言われ、ユリアはフラフラと後ずさりそのままストンと庭にへたり込む。




