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――しかしその言葉により、フィリップたちは、決して少なくは無い動揺を覚えることになった。
「レオン! 私どうしたらいいのか……気がついたらなくなってたの! きっと誰かが――その女が盗んだに違いないの! ――ねぇあなたの力でどうにか、ギフトを取り返してもらえない⁉︎」
「――私にそんな力など……」
「そんな! 私とっても困ってるの! 絶対に貴方の役に立つと誓うから――」
そこまで言ったユリアに、その身体をユリアとレオンの間に捩じ込んでいたエーゴンが低い声で近くするように口を開く。
「――なんの話をしているか知らないが……――なんらかの暴露するつもりなら容赦はしない……その細首の一本程度、瞬きする間もなくへし折ってやれるが?」
その言葉に顔色を悪くしながら後ずさるユリア。
そんなユリアの背中を抱き止めながらベッティは、キッとキツい視線をエーゴンに向けた。
その言葉から、ユリアがレオンの正体を知っている可能性に気がついたフィリップは、顔つきを固くしながらユリアに再度二、三の質問を重ねて投げかけた。
「――では本当に『守護』のギフトが盗まれてしまった、と?」
「ええ、そうよ。 その女が盗んだの!」
ユリアはリアーヌをジロリと睨みつけながら答えるが、その視線から守るようにゼクスがその前に立ちはだかる。
そのことでユリアの顔がさらに怒りで歪むが、その姿は庇われたリアーヌからは見ることが出来なかった。
「……君は確かに『守護』のギフトを持っていたんだよね?」
イザークの反応を確認しながらフィリップは内心の動揺を隠しながら質問を続ける。
「当たり前じゃない! 今更私を疑うの⁉︎」
「いやいや、確認は大切だろう? ――誰かに預けたわけではなく、誰かに譲ったわけでもなく、誰かに盗まれてしまったんだね?」
「大切なギフトを誰かに預けたり譲ったりするわけないでしょ⁉︎ そいつが盗んだの! さっさと捕まえて私に返させてよっ!」
ユリアの言葉にフィリップたちは忙しなく視線を交わし合い、ユリアを追ってきた取り巻きたちや契約していたであろう生徒たちは、ユリアの言葉を信じリアーヌに険しい視線を向ける。
――フィリップたちの誤算は、想像以上に野次馬をする生徒たちが多く、すでに人々に取り囲まれてしまい、そう簡単には移動出来なくなってしまったこと――
そして……
ウソを見抜くことができるイザークが、ユリアの「ギフトが無くなった」「リアーヌが盗んだ」という言葉に嘘偽りをなにひとつ感じなかったことだろうか――
「――事実、だと?」
困惑したフィリップの問いかけにイザークはコクリと小さく頷く。
「先ほどのリアーヌ様の発言にもウソは感じられませんでした――しかし本人が信じ込んでいることはウソにはなりません。 ただ――」
「ギフトは無くなっている……」
「はい。 そこは少なくともウソではありません」
そんなフィリップたちのやり取りにユリアは憤りのままに声を張り上げる。
「なんで⁉︎ なんで信じてくれないの⁉︎ その女が取ったのよ! 返して! 返してよっ!」
その言葉に答えるように集まっている生徒たちが口々にユリアを擁護し始める。
「そうよ! ユリアはウソなんか付いてない!」
「泥棒女! さっさとギフトを返せ!」
リアーヌはそんな声の数々に、とっさに身体を縮こませ、ギュッと唇を噛み締めたが、その瞬間ゾワ……とイヤな予感が込み上げ、それを振り切るように言葉を張り上げた。
「――私のギフトは『コピー』です! ギフトを盗むことは出来ません! 私は誰かのギフトを盗んだことはありません! 私はユリアのギフトを盗んでいませんっ!」
なんの前触れもなく、急に大きな声を出し始めたリアーヌにギョッとしながら後ろを振り返ったゼクスだったが、その真意に気がつき、勇気付けるようにその肩を抱き寄せると「リアーヌもう一回」と囁いた。
その言葉に頷きながら、リアーヌはもう一度先ほどと同じ言葉を繰り返す。
それが終わった後、ゼクスは周囲を見回しながら威嚇するように口を開いた。
「――それで? 何人かはここに集まっているであろうウソを見抜くギフトを持ってる方々は今の言葉をどう聞いたのかな?」
その言葉にそこかしこから、ザワザワとしたざわめきが聞こえ始める。
各々が知り合いのウソを見抜くギフトを持ってる生徒に確認を取っているようだった。
リアーヌは、声を上げた瞬間すぐさま無くなったイヤな予感にホッと胸を撫で下ろしながら、その様子をながめていたしていた。
そんなリアーヌの態度に、ゼクスやビアンカたちも、そっと胸を撫で下ろす。
――ユリアのギフトが本当に無くなっている今、真っ先に疑われるのはリアーヌなのだと、リアーヌ以上に理解していたからなのかもしれない。
「――でもならなんでユリアは……」
「そうだ。 彼女だってウソなんか付いてない……」
どよどよと戸惑う生徒の声にゼクスが答える。
「――ウソを見抜くギフトは、その名の通りウソを見抜くものだ。 その言葉を発している本人がウソだと認識していない言葉には反応できない」
「……つまり?」
ゼクスの言葉を聞き、困惑する生徒たちを代表するかのようにリアーヌが詳しい説明を求めた。
「ユリア嬢はギフトを盗まれた。 この言葉にウソはない。 本人がそう信じているからだ」
「信じる……」
「思い込んでいる、ともいうかな? そこに真実が無くとも思い込みだけでそれはウソじゃ無くなる」
「……本当は盗まれていない?」
そんなリアーヌの言葉にユリアや彼女と親しい生徒たちが目を釣り上げるが、ユリアが口を開く前にゼクスが答えた。




