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「――ちょ、ちょっと待ってくださる?」
「……――リアーヌ、その話し合いの場でなにが起こったのか、詳しく説明してもらえるかしら?」
「なにが起こったか……?」
「――出来れば、詳しく手短に素早く」
ビアンカ圧が強めの笑顔でそう言われ、ビクッと肩を揺らしながらもリアーヌはコクコクと頷きながら、あの日あった出来事を思い返した――
「――だから私……仕方のないことなんだと思って……――仕方がありませんよね、だって、そういうものだと思うからって……」
「――言ったのね?」
念を押すようにたずね返すビアンカ。
「え……うん……?」
「――どうしたいんだとゼクス様にたずねられ、それに「仕方がない、そういうものだ」と答えたのね……?」
「……――そこまで強い言葉で言い切ったりはしてないけど……」
「言ったか言わないかで答えるなら言ったのね?」
「……まぁ」
リアーヌがそう曖昧に頷いた瞬間、静かにその話を聞いていた者たちの口から、数々の吐息が漏れ出た。
「リアーヌ様……」
「――それはリアーヌが先に凍結を決めてしまっているわよ……」
クラリーチェやレジアンナも眉を下げながらリアーヌに苦言を呈し、二人の隣に座っていたレオンやフィリップまでもが眉をひそめ、チラリとリアーヌに視線を流していた。
「――なんで私が決めたことになるの⁉︎」
「あなたが真っ先に、凍結に前向きかのような発言をしているからよ」
「してなくない⁉︎」
「……仕方がない、そういうもの――この言葉で凍結に反対していると感じる人のほうが少ないわ?」
「……それは、そう、なるの……かも?」
ビアンカの説明に少しだけ納得してしまったリアーヌは、モゴモゴと言葉を転がしながら曖昧に答える。
「かも? だなんてレベルの話じゃ無いわよ? どうひいき目に見たってあなたが悪い話よ」
「そんな⁉︎ で、でもあの時……母さんには「誰も悪く無いわ」って……!」
「そんなわけないでしょう⁉︎ さっさと断らなかったあなたのせいよ!」
「あー……それも言われた気がする……?」
「……どなたに?」
「母さん……確か「今のはあなたのせいだから忘れちゃダメよ。 でも、誰も悪くないわ」みたいなことに言われた」
「……そこまで言われていたのに、ラッフィナート側に凍結されたと傷ついていたの……?」
「それは……――それは事実じゃん……」
「そんなわけないでしょう⁉︎ 大体あにた、私に『話し合いの結果そういうことになっちゃった』って言いましたのよ⁉︎ なに一つ話し合ってなどいないじゃない!」
「それは……ごめんなさい」
ビアンカからの叱責に身を縮こませながら項垂れるリアーヌ。
そんな彼女に大きく息をつきながらビアンカはゼクスに身体ごと向き直り、スッと背筋を伸ばしながら口を開いた。
「事情はおおよそ……――発端はリアーヌの落ち度で間違いはございません。 誤解していたとはいえ、イヤな態度や言葉をかけてしまい申しわけございませんでした」
「――いえ……理解していただけたのでしたら」
そう答えたゼクスにニコリと微笑んだビアンカは「しかし……」と続ける。
「その後のゼクス様の当てつけの行動はいかがなものかと?」
「――ではビアンカ嬢であれば、同じ仕打ちをされたとしても、腹も立てたりもせず、気を引こうとしようともしないと?」
「そ、れは……」
口ごもりながらチラリと隣に座るパトリックに視線を走らせるビアンカ。
そんなことはあり得ないと思う心のどこかで、腹を立てないことは不可能なのだろうな……と感じていた。
「――ですが、あんなに多くの女生徒を侍らせて……」
レジアンナからの苦言にゼクスはそちらを向きながら軽く肩をすくめながら答える。
「そのへんは……私もやり過ぎているんだろうなぁ、と感じてはいましたが……――あそこまで簡単に凍結に頷かれた挙句、傷ついてますって態度取られて――なのに、他の女の子と話してても嫉妬はしてもらえなくて? ……多分――意地になってたんですよねぇ……」
困ったように笑うゼクスに、レジアンナは視線を揺らしながらそっと口を開いた。
「――その気持ちは……少し理解できる気がしますわ?」
(――だよねぇ? 意地になって服装も言動も悪役そのものになってたあなただものねぇ……? そこは分からないわけがないよねー……?)
そんなやりとりからレジアンナが確実にゼクスに感情移入したことを感じ取り、リアーヌは分かりあうように小さく頷きあう二人から、そっと視線を外した。




