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 リアーヌの戸惑いの声を掻き消すようにフィリップは笑顔で言い放つ。

 ――ボスハウト子爵家を敵に回すつもりも、ボスハウト家の使用人たちをこれ以上刺激するつもりもない。

 サロンを開けているだけで恩が売れるのであれば安いものだった。


 リアーヌたちには優しい笑顔を向けていたフィリップだったが、その顔をいまだにポカンと口を開けたままのゼクスに向けると、嫌そうに顔をしかめながら言い放つ。


「――それで? 君を招待した覚えはないんだけれどね……?」

「あー……それは――」


 フィリップからの嫌味にゼクスは困ったようにオリバーの方を見つめる。

 その視線を受け、オリバーは立ち上がりながら申し訳なさそうに眉を下げながら口を開いた。


「ああ……それに関しましては(わたくし)の勘違いでございまして……」

「――勘違い、ですか?」


 オリバーの言葉に少しの警戒心を滲ませながらフィリップはにこやかにたずね返した。

 それに頷きながら恥ずかしそうに頭をかくオリバー。


「はい……お恥ずかしながら――突然“リアーヌ嬢はパラディール家のサロンにご招待申し上げました”……だなんてメッセージを受け取りましたので……――また懲りずにお嬢様に手を出したのかと……」


 そのチクリとした言葉にフィリップはわずかに顔を歪ませる。

 メッセージを送ったのはボスハウト家に対する配慮のつもりだったが、その関係性を考えるならば、少々言葉足らずであったと認めざるを得なかった。

 そんなフィリップにわずかに口角を引き上げながらオリバーは続ける。


「なので今回は男爵のお力添えを……――現役の貴族ではあるのですから、助力をいただければ、と……――しかし私の早とちりだったようで……いや、お恥ずかしい」


 そんなオリバーに少しだけ眉を上げたフィリップだったが、特に何かを言い返すことはなく、息を吐き出しながら頷いた。


「そうだったのですね? ……そういう事情ならば仕方がありません――席の用意を」


 フィリップがそう言うと、メイドたちが素早くイスやテーブルの準備をしていく。

 その席がいつもの場所――つまりはリアーヌの隣で、リアーヌは少しだけ緊張したようで椅子に座り直した。


 席が準備され、ゼクスがそこに座るのを確認したオリバーはカチヤたちとアイコンタクトを取った後、リアーヌに声をかけてから外での情報収集とザームの様子を見に、校内へ戻って行った。


 それを見送ったゼクスはそのままリアーヌに視線を移し、その元気な様子に安堵の息をもらしていた。

 その吐息にピクリと反応したリアーヌとゼクスの視線が絡み合い、お互いにソワソワとした様子を見せ始める。


 ――そして二人が意を決したように、同時に口を開いた瞬間――そんな二人を遮るように、レジアンナが面白くなさそうに声を発っした。


「――あら? 昨日まで、どこぞの美しい花々を渡り歩いていたかたの態度とは思えませんわね?」


 その言葉にゼクスは気まずそうに顔をしかめながらチラリとリアーヌを見つめる。

 その視線を受け、目線を揺らしながらそっと視線を伏せたリアーヌに、ゼクスも何を言って良いのか分からずに、ぎこちなく視線を外す。

 ――そんなゼクスの態度に、面白くなさそうに眉をひそめたビアンカは、わざとらしいほどに美しい笑顔を浮かべるとレジアンナの言葉に答えるように口を開いた。


「――そうですか? いくらご実家が商家であるとはいえ、ウワサの火消しごときで婚約を凍結してしまえるほどの面の厚さですもの……そのぐらいの変わり身など簡単にやってしまえるのではありませんか?」

「……それもそうね? 可哀想なリアーヌ……――本当に解消するなら必ず力になるからね?」

「ちょ、ちょっと待ってください⁉︎ 解消なんて!」


 レジアンナの言葉にあわてて答えるゼクスは、そのすぐ後にリアーヌに顔を向けて視線だけで『解消なんてしないよね⁉︎』と訴えていた。

 そんなゼクスの態度に、クラリーチェまでもが憤りを隠そうともせずに口を開いた。


「まぁ、リアーヌ様に助けを求められますの⁉︎ そちらが凍結に了承したからこそこうなっていますのにっ!」


 三人の女性たちに次々と責められ、タジタジになりながらもゼクスは両手を出しながら、少し混乱しているかのように説明し始めた。


「ち、ちょっと待ってください! 確かにうちの両親は凍結を受け入れてしまいまし、俺も勉強不足で咄嗟に断りの言葉が出せませんでしたけど、先に凍結に頷いたのはリアーヌですよ⁉︎」


 その言葉を最初こそ鼻で笑った女性陣だったが、少しの間をとってもリアーヌから否定の言葉が入らないことに疑問を感じ、チラリと視線を向ける。

 その先にいたリアーヌが戸惑うような表情でこちらを見返していることに気がつくと、ゆっくりとその顔を驚愕の色に染めていく――

 そんな友人たちの反応を受け、リアーヌは心細そうにポソポソとゼクスに問いかけた。


「え、だってあの時ってそんな空気になってたじゃないですか……?」

「そんな空気なかったけど⁉︎」

「う、ウソですよ! だってみんなして私がいい子の答えいうの待ってたくせに!」

「みんなって誰⁉︎ 少なくとも俺はどう思ってるか? って聞いたでしょ⁉︎ なのにリアーヌが……!」

「は……え、私が責められるんですか⁉︎ だって勝手にしろって怒鳴ったのそっちなのに⁉︎」

「そりゃ怒りもするでしょ⁉︎ 気持ちが知りたくて聞いたらなんの葛藤もなく、しかたありませんしー……だよ⁉︎ 俺ちゃんとプロポーズして、受け入れてもらってたと思ってたけど⁉︎」

「プ……プロポーズしたのに凍結したのはそっちだもん!」

「だからそれを言い出したのはリアーヌ!」

「言った――……のかもしれませんけど、あの時はそう言う空気になってましたー!」

「なってたわけないだろ⁉︎ うちの親だってリアーヌが先に同意なんかしなきゃ“凍結”だなんて聞いたこともないようなこと賛成するわけなかったんだよ! あの場がそういう空気になったっていうなら、君の返事からだよ!」

「そ、そんなことないですし……」


(確かにあの時はそんな空気だったもん! ――だから空気読んだだけだもん!)


「ありますぅー! 大体、リアーヌから言い出してさっさと凍結しちゃったくせに、学院では“凍結されちゃいました……”みたいな顔でいるのなんなの⁉︎ 今回のことで傷つけられたの俺のほうだからね⁉︎」

「わ、私の方が凍結されたし、傷つけられたんですけどー⁉︎」

「はぁぁぁぁ⁉︎」


 リアーヌたちがそこまで言い合ったところで、ようやく周りの思考が追いついき、困惑した様子で二人の口喧嘩に割って入る。

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