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「――そちら(・・・)を疑っている方などごく一部だから放っておきなさいな」


 ビアンカは軽く肩をすくめながらなんでもないことのように言うが、リアーヌはその言い回しで、いまだに自分のギフトが『強奪』であると信じている者たちが多いのだということを再確認した。


「……私が犯人だって言われてる?」

「……言われてはいないらしいですけれど……」


 ビアンカは言葉を濁しながら視線をフィリップのほうに向ける。

 どうやらビアンカもフィリップから説明された以上の情報は知らなかった。

 その視線を受け、フィリップが代わりにリアーヌの質問に答える。


「――ご本人の話では、朝起きて日課の練習をしようとしたら全く使えず、自分のギフトが消えていると認識したようだ。 寝る前には確実にあったのだから、夜のうちに誰かが忍び込んで奪っていった――とのことらしいですが……まぁ、犯人だと信じていらっしゃるご様子でしたよ?」


(あの子からのそんな信用いらなかったけど……――待って? つまりはやっぱり、夜のうちに私が忍び込んだことになるわけで――)


「……え、本当に警備部とやり合うつもりなんです?」


 リアーヌの疑問にフィリップはレジアンナやパトリック、レオンなどと顔を見合わせながら気まずそうに前髪をいじり、大きく息を吐き出しながら答えた。


「リアーヌ嬢の疑問は最もだと思うが……――しかし、だからこそ我々も混乱しているんだ」

「……みなさんが……?」

「ああ。 そもそも――リアーヌ嬢がどうして無事にここに辿り着けてしまったのか、それすら理解できていない」

「――パラディール家の方に案内してもらったんですけど……?」

「それはそうだし、我々もそれを願ってはいたんだが……――実はユリア嬢は最初、レオンや私にギフトが盗まれたことを涙ながらに訴えてきたんだ」


 チラリと視線を向けられたレオンはコクリと頷きながら説明を付け加える。


「……馬車乗り場で私たちの到着を待っていたんだろう。 我々が馬車を降りた瞬間に駆け寄ってきた」


 その言葉にレジアンナが憤るように口を開く。


「ギフトがなくなったから何⁉︎ フィリップ様やレオン様にどんな関わりがあるというの⁉︎ 完全にあちらに付いておきながら図々しいっ!」


(……王妃――ひいては第一王子に付いた自覚があればいいけどねー……? そんなつもりなかったって言われても私は信じちゃうかなー……)


 レジアンナの言葉に肩をすくめながらそんなことを思うリアーヌ。


「……あのような者の心のうちなど我々に推し量れるようなものではない……鬱陶しいことこの上ないが――放っておくのが一番の対処法だ」

 フィリップが眉を下げて答えれば、それに合わせるようにレジアンナも大げさに眉を下げて口を開いた。


「お可哀想なフィリップ様……」

「レジアンナ……」


 そして二人は手を重ねあって見つめ合う――


「――今いちばん可哀想なの私じゃない?」


 リアーヌは目の前で繰り広げられる迷惑行為に呆れたような視線を向けながらビアンカに話しかける。


(無実の罪を着せられて、ギフト泥棒の汚名を負わされそうになっておりますが……?)


「…………おだまり?」

「――ウッス」


 ビアンカは少しの葛藤ののち、リアーヌを嗜める言葉を口にして、そんなビアンカの態度に少しの気の毒さを感じたリアーヌは、大人しく口を閉ざしたのだった。



「――で? みなさんも混乱してるって話でしたっけ?」


 しばらく経ってサロン内に『そろそろいいんじゃないか……?』という空気が流れ始めた頃、ビアンカに目線で指示されたリアーヌが話の続きを促した。


「――ああ、そうだったね?」


 レジアンナと見つめあっていたフィリップはそう答えると、レジアンナの手を握り締めたまま話を続ける。


「ええと……――例えば、リアーヌ嬢は万が一にもそのギフトが使えなくなってしまったらどうする?」

「……ビアンカに泣きつく?」


 リアーヌの答えにフィリップからだけでは無く、サロン内にいた者たちのほとんどから呆れたような吐息がもれ、部屋の中がそんな空気になって行くのをリアーヌはその肌で感じ取っていた。


(ええ……? だって絶対そうなりますけど⁉︎)


「あー……素晴らしい友情だと思う。 ――が、ご両親や執事なんかにはどうだろう? 隠し通すものかな?」


 そう言われたリアーヌは今すぐここで無くなると思い込んでいたことに気がついた。


(……無くなったのが家だったら、泣きつく相手はヴァルムさんか母さん……かな?)


「あー……家だったなら相談しますね?」


 リアーヌの答えにフィリップは満足そうに大きく頷きながら説明を続ける。


「うん。 では、学校中……少なくとも不特定多数の生徒が自由に出入りできるような廊下で「盗られた!」なんて訴えを主張するかな?」

「……それは言わないと思います。 え、言ったほうがいいの?」


 リアーヌは答えながら不安になったのか、一度答えてからビアンカに確認をとった。


「……言おうとしてたら止めるレベルね」 

「あ、だよね?」


 ホッと胸を撫で下ろすリアーヌに向かいフィリップが口を開く。


「我々もそれが得策だと考えるよ。 無くなったにしろ盗まれたにしろ、今後の対応が決まるまでは黙っているのが普通――常識だ」

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