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 ◇


 ――その日はごくごく普通の、なんの変哲もない朝からスタートした。

 家族で朝食をとり、いつものようにヴァルムが姉弟に釘を刺し、ザームと共に登校し、いつものようにオリバーがカチヤたちに釘を刺すのを待ってから教養学科がある建物まで歩く――

 そんななんの変哲もない一日がいつものようにスタートしたのだったが――


 ザームと別れてすぐ、パラディール家のメイドと護衛が一人ずつリアーヌに走り寄り、フィリップからの招待状を差し出した。

 戸惑うリアーヌと警戒するメイドたちだったが、リアーヌですら見覚えのある使用人たちに加え紋章付きの正式な招待状を持ってこられては、断る理由など見当たるわけがなく――

 リアーヌは小声で「授業サボることになるかもですけど、私のせいじゃありませんよね?」「二人とも私は難色を示してたってちゃんと証言してくださいね?」と、何度もカチヤたちに懇願しながらパラディール家の使用人たちの後ろを付いていく。


「……お嬢様、分かりましたからキチンと前を向いて歩きましょう?」

「約束ですからね⁉︎」

「……ヴァルム様は確かに厳しいお方ですが、理不尽なことでお叱りになどならなられませんよ?」


 苦笑混じりにコリアンナが言うが、リアーヌは心の中で(どんな理由があろうと、デザート無し刑は理不尽そのものですけれども⁉︎)と憤っていた。


 そんな会話をしながら案内されたパラディール家のサロン。

 リアーヌが恐る恐る中に入ると、レジアンナやビアンカ、そしてレオンにクラリーチェという、いつものメンバーが揃っていて、到着したリアーヌを見てホッと胸を撫で下ろしていた。


「……本日はお招きに預かりまして?」


 キョトンと首を傾げながらも到着の挨拶を口にするリアーヌに、フィリップが苦笑を浮かべながら声をかける。


「招待状は出させてもらったけれど、今回は非公式な集まりなんだ。 だからあいさつは省略で構わないよ」


 その言葉にチラリとビアンカに視線を走らせ、その首が縦に揺れたのを見て、満面の笑顔で席に着くリアーヌ。


(あいさつ省略ってことは、他のマナーもそこそこで許される感じかな……? ――だとしたら今日は授業サボってお菓子食べるのが許されるってこと……? しかも苦情は全部フィリップ――……毎日招待してくんないかな……?)


 そんなことを考えながらお茶を手に取り、唇を湿らせたリアーヌに、フィリップが今回、招待状を出した経緯を説明をし始める――




「――え、ギフトが無くなった……?」


 フィリップの口から語られたのは、ユリアの持つ『守護』のギフトが何者かによって盗まれ、使えなくなってしまったという驚愕の事実だった――


「――え、本当に? ……ってか、本当にギフトなんて盗めたんですね……?」


 目を丸くして呆然とたずねるリアーヌに、困ったような笑顔を向けるクラリーチェたち。

 リアーヌが視線をビアンカに向けて説明を求めると、ビアンカは肩をすくめながらシレッと答えた。


「そんなわけないでしょ……――いえ、ギフトを他人から貰い受けるギフトは存在しているらしいけど……――今回は違うわよ。 大方、そう言って騒いでまたあなたに汚名を着せようとでもしてるんでしょ」

「……え、でもそれって――ウソにならない?」


 リアーヌの質問に答えたのは向かい側に座るレジアンナだった。

 勢いよくリアーヌ方に身体を乗り出して、眉間にシワを寄せながら答える。


「明らかな濡れ衣よ! こんな話普通だったらすぐさま国が乗り出す事案でしてよっ!」

「……つまり国は乗り出してはいない……?」

「――あの女は今でも教室で涙ながらに「盗まれた」「どうして……?」と大勢の生徒たちに訴えてることでしょうよ」


(……今は授業中では……? え、ユリアにはそこまでの力がある……?)


「先生方も苦労なさっておいででしょうね……?」


 リアーヌの疑問に答えるようにクラリーチェが困ったように続ける。


「あの女の後ろに居る方に気をつかっているんでしょうけど……――それでも国から誰も派遣されてこないなんてありえないし――つまりは誰かが騎士を止めているわけでしょ? ……後ろの方だって、これが茶番だと分かってるってことでしょ――ああもうっ! どうして神様はあんな女に守護だなんてギフトをお授けになったのよ⁉︎」


 勢いのままにバンッとテーブルを叩くレジアンナ。

 その両肩をそっと抱きしめるように掴んだフィリップは、そのままそっとイスに深く腰掛けるよう誘導する。

 

(……つまり、ユリアは私がギフト泥棒だって言い張って、私の外聞に傷をつけたくて「盗まれた!」とか言い出しちゃったってこと……? ……え? でもさ……⁇)


「……私が犯人だった場合、いつ盗んだことになるの? 今朝? この学院に忍び込んで⁇ それって警備部とも喧嘩するハメにならない……?」


 リアーヌの言葉に、その部屋に集まっていた者たちは、肩をすくめたり大きくため息をついたり、思い思いの方法で呆れていることを表現してみせる。

 そしてビアンカが顔をしかめながら口を開いた。


「あの子と警備部は前回の殺人未遂件で完全に敵対してるわよ。 警備部が上げた“事件性なし”と結論付けた報告書も、どこぞの後ろの方が握りつぶしたとウワサですし?」

「ええ……? 私の無実……」

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