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「なら、やめておいた方がいいんじゃなくて?」

「絶対、私悪くないのにー……」


 情けない声を上げるながら嘆くリアーヌに同意するように、レジアンナが憤りの声を上げた。


「人の幸せを掠め取ろうとしてるのは、あの愚か者のほうでしてよ⁉︎ どんな行いが返ってくるのか見ものですわ⁉︎」


 言葉の内容は完全にリアーヌも同意見だったが、この中庭のような、不特定多数が聞いている前で発言していい内容でもなかったため、リアーヌは驚いてビアンカを周囲を見回し、その視界に引きつりまくったビアンカが映り込んだことで事態を把握し、そっと視線をを伏せた。


 いくら評判がよろしくなくても、伯爵家のご令嬢に向かい、感情任せに「愚か者」などと言い放ったという状況は、あまり歓迎できるものではなかった。


 ――そのためビアンカは、フォローを入れるべく、わざとらしいほど明るい声でヤケクソ気味に話しかけた。


「――ええ、ええ! 確かそんな名前でそんな特徴を持つネジが新しく発売されたんでしたわよねぇー⁉︎ 発売が待ち遠しいですわぁー?」

「いや、雑ぅ……」


 ビアンカの強引なフォローに対し、リアーヌの口からつるりと漏れ出た言葉に、中庭にいた生徒たちの多くが、口元を抑えながらフィッと視線を逸らす――

 ゼクスからもクククッとくぐもった笑い声が聞こえてきて、そちらを向くとニヤリと笑ったゼクスと目が合い、リアーヌもふふっと笑顔になる。

 ――そして、お互いに何かを話しかけようと口を開くのだが、結局どちらとも声をかけることができずに、そっと視線を逸らしあう。


「――では、私はこれで……お騒がせして申し訳ありませんでした」


 ゼクスはにこやかな笑顔を貼り付けながらレジアンナやビアンカに話しかける。


「――お気になさらないで?」


 レジアンナはそう答えながらも、どう見てもすれ違っているリアーヌとゼクスに交互に視線を送りながら困ったように眉を下げた。

 リアーヌたちがすれ違う瞬間、意識しあっているのは丸わかりだったが、それでも二人の視線が絡まり合うことはなく――

 そのまま無言で離れて行くのをただ静かに受け入れていた。


「……私たちも戻りましょうか?」


 ビアンカが優しく声をかける。


「――だね!」


 それに答えたリアーヌは、無理やり笑顔を作り、わざとらしいほどに明るい声で答える。

 それは心配をかけてはいけないというリアーヌなりの気づかいだったが、ビアンカたちにはバレバレで……しかし、友人たちはそうと理解しながら、なにも気が付かないふりをして頷きあうと、中庭での昼食の感想などを口にしながら、和やかに教室へと戻るのだった。


 ――そしてリアーヌは、ホッとしたように胸を撫で下ろしながらも、心の中で二人に感謝するのだった――


 ◆ ◆ ◆


 自室に戻るや否や持ち物を乱暴にベッドに投げつける。

 ここの壁は思っている以上に薄いので声が出ないよう、グッと唇を噛み締めながら憤りをぶつけて行く。


(どうして⁉︎ なんでなにもかもうまくいかないの⁉︎ せっかくこの世界に来られたのに! ちゃんと話せて手を伸ばせば触れられるのにっ!)


 やがて投げるものがなくなると、ドサリと音を立てながらベットに倒れ込んでグッと手を握りしめ怒りを堪える。


 (ああもうっ! あいつ本当になんなのよっ⁉︎ なんで存在もしない女がキャラたちの近くで『当然ですけどなにか?』みたいな顔してるわけ⁉︎ ……こんなの知らない――こんなの私の知ってるストーリーじゃないっ‼︎)


 ダンッダンッと想いのままにベッドに拳をたたきつける。

 その振動でいくつかの荷物がベッドから落ちて、床に散らばっていくが、そんなことも気にならないほどの怒りに支配されていた。


(――直さなきゃ……どうにかして元に戻さなきゃ……――だってあの人には私の助けが必要なんだから……!)


 そこまで考えると、大きく肩で息をしながらのそりと起き上がる。

 そしてふと視線を向けたドレッサーに映る自分の姿にギクリと身体をこわばらせた。

 髪はボサボサ、目は血走っていてとてもではないが、誰かに見せられるような状態ではない。

 そのことで少しだけ冷静になると、手櫛で髪を撫で付けながら鏡から視線を逸らす。


(――私ならあなたを守れる。 私ならあなたの望みを叶えられる……! ――だから間違いは正さなきゃ……貴族だか王族だか知らないけど、邪魔なのはいつもあの女……――リアーヌとかいう不純物……――人殺しがムリなんだったら、絶対に許されないような犯罪を犯したことにするのはどう? ――だって貴族って大勢の前で犯罪者だってレッテル貼られたら人生終わりなんでしょ? ――大丈夫。 一緒に騒いでくれる子たちはいくらだっているし……――『そうすればあの人と幸せになれるのよ』って言っとけば、アイツは大人しく私のいうことを聞く……――それにそもそもなーんにも考えてない空っぽ女だし……)


 フン……と鼻で笑いながら窓の外を見つめる。

 そして大きく息をつきながら決意する。


(やるなら早い方がいい。 あの異物がめちゃくちゃにしたせいでシナリオの進み具合がどうなってるのかとか、好感度イベントがいつ発生するのかとか全然分かんない……! そのせいでで第一王子が王太子なんかになったら笑えないし……そうなる前に――あの女には……ううん、邪魔者には全員消えてもらわなきゃ――)


 そう決めると、頭の中で計画を練り上げる。 

 間違っている世界を正すために、自身が思い描く理想の未来のために。

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― 新着の感想 ―
外であれだけ人もいるのに大声だして人を罵ってるのに、部屋では外を気にして怒りを抑えている矛盾。そろそろ尻尾をブンブン出して破滅しそう。
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