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「……横着、なんですの?」


 首を傾げるレジアンナにビアンカは少し恥ずかしそうに視線を揺らしながらも小さく頷きながら口を開いた。


「初めは私たちもカフェテラスやレストランで食べてたんだけどね?」

「どこも混雑していますでしょう?」

「そうそう。 あの時は席探すの大変だったよね?」

「そうね? 今ならば少し時間をズラせばそこまでの行列は無くなると知っていますし、そもそも行列に見えていても、すぐに案内され、席さえ選ばないのであれば、給仕に声をかければすぐに案内してもらえると理解していますけど……――入学当時は……ねぇ?」

「あの列に並んだら午後の授業間に合わないんじゃないかって毎回ハラハラしてたよね?」

「ええ。 だから他にどこかないか探して、そうしたらリアーヌが購買部にパンが売っているのを見つけて」

「で、食べる場所探してて偶然ここを見つけたんだよねー」

「……それでどうしてここを使い続けましたの? 誤解が解けたならカフェテラスで食べればよろしかったのに……――リアーヌたちだって最初はカフェテラスやレストランで食事をとろうとしてたんでしょう?」


 レジアンナからの質問に、リアーヌたちは困ったような表情を浮かべながら視線を交わし合い――やがてどちらともなく肩をすくめ、自重気味な笑顔を浮かべながらレジアンナに向かい口を開いた。


「――だから言ったでしょう? 私たちの横着が全てだと」

「カフェテラスで食べるより、購買部で買ってここに来るほうが断然近いし早いんだよねー……」

「……――それは、横着と言えなくも無い……のかしら?」


 リアーヌたちの話に、レジアンナは困ったように眉を下げながら肩をすくめる。


「それにここ人が少ないから、そこまでマナーに気を使わなくてもいいし……?」

「――あなた、いまたに大口開けてパンにかぶりついていますものね……?」

「――ホットドック系のパンは大口を開けて食べるのが礼儀と心得ておりますわ?」


 ニヤリと笑いながら答えたリアーヌ。

 それは本心でもあり、少しの冗談でもあったのだが――


「――そうなんですの⁉︎」


 この中で一番取り合ってはいけない人物が、間に受けてしまったのだった――


「この子が勝手に言っているだけよ。 そうよねリアーヌ?」

「その通りです!」


 二人はすぐさまレジアンナを止めようと言葉を重ねる。

 間違っても他の者たちの前でその知識を披露し万が一にもレジアンナが恥をかいた場合、ジェネラーレ家には間違いなく不幸が降りかかり、ボスハウト家にとっても幸運とはならないからだ。


「……私だって皆さんの前ではやらなくてよ? けれど……――ここでなら許されて良いと思わない?」


 茶目っ気たっぷりに言ったレジアンナに、リアーヌたちは顔を見合わせ微笑み合う。


 そしてその意見を肯定するようにリアーヌは口を開いた。


「そん時は私たち二人がメイドさんからレジアンナを隠すね!」

「――メイドからマナーについて叱られるのはあなたぐらいだと知っていて……?」


 そんなリアーヌの言葉にビアンカが呆れた声を上げ、それに目を丸くして驚くリアーヌにレジアンナが笑い声を上げた時だった――


 ザワザワと言い争っているような声が中庭に近付いて来て、中庭でくつろいでいた数少ない生徒たちは何事かと、一斉にそちらに顔を向ける。

 中庭の端のほうに立っていたメイドたちはすぐさま小走りで主人の側へ移動して――

 リアーヌたちも会話を止めて、警戒したようにそちらに注目していた。


 少しの後、少々乱暴な声と共に中庭に現れたのはゼクスで、珍しく険しく顔をしかめながら足早に中庭を突っ切るように歩いていた。

 そしてそのその背中に引き止めるように声をかけながら小走りに付いてまわっているのはユリアとベッティだった。

 ――どうも二人がゼクスに向かって何やら必死に訴えていて、ゼクスはそんな二人から距離を取ろうとしているようだった。


 どうすべきかと顔を見合わせあったリアーヌとビアンカだったが、その瞬間二人の間に座っていたレジアンナが楽しげな声でゼクスに話しかけた。


「――あらぁ? 男爵じゃありませんこと? そんなに急いでどうされましたの⁇」


(レジアンナさん⁉︎ 今あなたの両脇で「どうする?」「そうねぇ……」ってやりとりが繰り広げられていたでしょうが⁉︎ どうして勝手に話しかけてしまうの⁉︎ あんなんトラブルの匂いしかしない集団なのにっ!)


 ギョッと目を向くリアーヌをよそにレジアンナはニコニコと楽しそうにな笑顔を浮かべゼクスを見つめ続け、そしてギラリと輝く好戦的な瞳をその後ろにいる二人に送って見せた。

 レジアンナとしてはゼクスだろうが誰だろうが、大嫌いなユリアに物申せる機会など見逃すはずがなかった。

 しかも今回も、前回同様自分は正論だけを武器に出来るような状況だったのだから余計に――


 レジアンナに話しかけられ、顔をしかめつつも立ち止まるゼクスと、それにつられるように足を止めるユリアたち。

 しかしゼクスが軽く頭を下げた先にレジアンナと共にリアーヌがいることに気がつくと、その眉間にギュッとシワを寄せて見せた。


「――これはレジアンナ嬢にビアンカ嬢……そして我が婚約者殿――ご機嫌はいかがでしょう?」


 表情を取り繕いわざと明るい口調で冗談めかして話しかけてきたゼクスに、レジアンナも楽しそうにクスクスと笑いながら答える。


「ふふっよろしくってよ? ――今のところは、ね?」


 そう言いながらチラリとユリアたちに意味ありげな視線を送るレジアンナ。

 二人がムッと顔を歪めた様子にさらにクスクスと笑い声を上げると、上機嫌でゼクスに話しかける。


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