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「――ですが……どうしてあなたがわざわざそんなことを?」


 不思議そうに首を傾げながら、リアーヌは言外に『どうしてゼクスと私の婚約のことをお前が気にするわけ? なんの関係もないくせに』という言葉をたっぷりと忍ばせながら質問を返した。

 そんなリアーヌに気押されたのか、一歩(いっぽ)(あゆ)みを進められた反動か、ベッティはジリリ……と同じ分だけ後ずさる。

 しかしグッと手を握りしめると、引きつった顔に笑顔を貼り付けながら、リアーヌに挑むかの様な瞳を向けて口を開いた。


「――私、ゼクス君と最近仲良くさせて貰ってるんです。 だから気になっちゃって……」


 そんなベッティの答えに、リアーヌの背後にいるレジアンナたちが殺気立つのを感じるが、友人たちがなにかアクションを起こす前にリアーヌはコロコロとした可愛らしい声を上げて笑っていた。

 ――リアーヌ自身、こんな場面でよくもここまで余裕たっぷりに笑えたものだと感心するほどには、ごくごく自然に沸き起こった笑いだった。

 自分から出た笑い声に自分が動揺しながらも、リアーヌはより一層微笑みを深くしてベッティを見据え口を開いた。


「まぁ、そうでしたの? それはごめんなさいね? あの人ったら最近……とてもたくさん(・・・・・・・)の方々(・・・)と仲良くされているものだから……まだ全員のことは把握しきれていなくて……――今度お会いした時は、あなたがとても心配していらっしゃったのよ、と伝えておきますわね?」


 そう毅然と言い放つリアーヌ。

 その言葉は、伝わる者たちの耳には『あいつ最近手当たり次第だから、お前のこと把握してないけど――こっちは会おうと思えば会える関係だからさ? デカい顔して喧嘩売りに来んなよめんどくせぇ』と聞こえていて、もっとリアーヌと関わりが深い者たちはの耳には『お前の言葉なんかで、少しの傷だっておってやるものか』と舌を出しているのだと理解でき、レジアンナやビアンカたちは視線を交わし合いながら満足そうにその唇に弧を描き、その背中を見つめていた。


 リアーヌの言葉にふるふると手を震わせ、何も言い返せずにいるベッティにリアーヌは更なる追い打ちをかける。

 心の中で(ごめんなさいねぇぇぇ、敵には容赦するなって後ろの友達(先生たち)に教えられてるもんだからぁぁぁ)と中指をおっ立てながら。


「そこまでご心配をおかけしてごめんなさいね? けれど……こんなに可愛らしい方に勘違い(・・・)をさせるだなんて……かわいそう(・・・・・)なこと(・・・)はおやめ下さいと釘を刺しておきますからね?」


 そうニッコリと微笑んだリアーヌに、ベッティはハクハクと口を動かしながら、なにかを言い返そうとしていた様だったが、後ろに控えていたユリアたちに「ねぇ……もう授業が……」と声をかけられ、悔しそうに俯きながら挨拶もそこそこに走り去っていく。


 その後ろ姿を見つめながらもピンッと背筋を伸ばしていたリアーヌだったが、その姿が見えなくなった瞬間、その上半身から全ての力を抜き、大きく息を吐き出していた。

 そんなリアーヌの背中に楽しげな声がかけられる。


「あらあら、まだ気を抜いちゃダメよ」

「新入生たちに笑われましてよ?」

「せっかく凛々しくていらっしゃいましたのに……」


 そんな友人たちの言葉に、ヤケクソ気味に口角を引き上げながら再度背筋を伸ばすリアーヌ。

 そしてチラリと周囲を伺いながら友人たちの元へ歩みを進めた。

 その際、こちらに満面の笑顔を向けているカチヤたちの姿も視界の端に映り、リアーヌはホッと息を吐きながら小さく頷いた。


 そして――

 教養学科棟へ続く廊下、そしてそろそろ休憩も終わる時間ということもあり、成り行きを見守っていた生徒たちの影がこそかしこに確認できた。

 

(――ジロジロ見ないのがマナーとはいえ、きっとガッツリ見られてたんだろうな……)


 そんなことを考えながら、リアーヌは苦笑いで友人たちと合流し、教室へと歩き出す。


「――悪くはなかったんじゃない?」


 歩き出してすぐビアンカ大先生からのお褒めのお言葉を頂戴し、まんざらでもない様子でリアーヌは答えた。


「かな? ――初めて怒りの感情で笑顔になれたよー……」


 肩をすくめながら顔をしかめるリアーヌに、ビアンカも少し顔をしかめながら答える。


「――デリカシーが欠如している方だったのは間違いないわね……――というか、ハッキリとあなたにケンカを売りに来たご様子でしたし?」

「ねー……? え、私一応お嬢様だよ? こんなにハッキリ喧嘩売られることなんかある?」

「――分かりやすいほうがかえってこちらは動きやすいものですけれど……腹は数十倍煮え繰り返りますわね?」

「それな!」


 明け透けにぽんぽんと会話していくリアーヌとビアンカに、周りの友人たちもクスクスと笑いを漏らしながら同意を示す。


「少なくとも……――どごぞのご友人(・・・)のため、には見えませんでしたわね?」

「ええ、ええ! 明らかにリアーヌ様への悪意を持っていらっしゃったわ?」

「つまり……?」

「――あの方、男爵に好意を寄せていらっしゃいますのよね……?」


 レジアンナが眉を寄せながらたずねる言葉に、リアーヌたちを始め友人たちも曖昧に微笑みながら、なんとなくの肯定を返す。

 そう考えてはいるものの、確証もないことをレジアンナのか耳に入れることは避けたかった。

 ――特にレジアンナの友人たちは、すでに一度フィリップから直々に苦言を呈されていたので、その考えが顕著に出ているようだった。


「――私にはそう見えたけれど……実際はどうなのかしらね? レジアンナの目にはどう見えまして?」


 そんな中、ビアンカが肯定も否定もせずにレジアンナの意見を求める。


「私にもそう見えましたわ? けれど……」

「なにか気になることでも?」


 ビアンカに言葉を促されたレジアンナは、少し考えた後、リアーヌに向かい直り口を開いた。

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