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「――船乗りさん見たい」

「……船乗り?」


 ふふっと笑いながらポツリと呟いたリアーヌの言葉に、ビアンカが首を傾げる。

 それにリアーヌが頷くと同時にゼクスが嬉しそうに笑いながら別名を引き取る。


「――そうだね? 船乗りはよく風に感謝するんです」


 その言葉にビアンカが戸惑うように小首を傾げたのを納確認しながら、ゼクスは説明を続ける。


「風がなきゃ船は動きません――というか最悪の場合、自分たちで漕がなきゃいけませ。 だから船乗りは、基本どんな風でも有り難がります」

「……涼しい風に感謝?」

「言い方もまさにその通りです」

「そうなんですのね……――いつか研究でフィールドワークに出られることがあれば、ぜひ使わせていただきますわ」


 そう答えながら楽しげに笑うビアンカ。


 その後教室へ戻り、その後はなんのトラブルも起こらず午後の授業を受け、何事もないその日を過ごした――

 ――翌日も翌々日もそんな何事もない日々が続くかのようだったのだが――


 ◇


 次の日、登校したリアーヌが耳にしたのは、根も葉もない悪質なウワサ話だった――


 曰く、これまでのユリアに対する嫌がらせの数々、その全てがラッフィナート商会が仕組んだものであり、ベッティや他の友人たちを脅して実行犯にしたり、婚約者を使いユリアを害そうとした本当の黒幕はゼクスだった――という、身に覚えも心当たりもないような捏造まみれのウワサが、急に学院中に蔓延(まんえん)していた。


 教室に現れたゼクスは、すでにある程度のウワサ話を把握しているようで、少し硬い笑顔でリアーヌを散歩に誘う。




「……なんだってこんなことに……?」


 人気(ひとけ)のない廊下を歩きながら、リアーヌはゼクスに話しかけた。


「――俺が聞きたいよ……大方昨日のベッティって子とのやりとりがきっかけだとは思うけど……」

「けど……?」


 リアーヌの問いかけにゼクスは小さく肩をすくめながら自重気味に小さく笑う。


「俺の敵もラッフィナートの敵も多い自覚はある。 ……多分、そんな敵さん同士の思惑が一致しちゃったんだと思う」

「敵、多いんです……?」


(商家なのに……? しかもゼクスなんか、まだ男爵なのにパーティーとかで、たくさん挨拶受けたり声かけられたりしてるのに⁇)


「――敵対らしい敵対はしてないけど……うちはさっさと叙爵して、とっとと金を吐き出して、一歩引いたところで大人しくしてて欲しい――って考えてる方々が多いんだ」

「あー……」


(……金を吐き出せ勢か――それは多そう……)


「なのにうち……――自分で言うのもなんだけど、意外に上手くことを運んじゃっただろ? ボスハウト家と手を組んで時間稼ぎをした挙句、その婚約者は『コピー』のギフト持ち。 この上『守護』のギフトなんか持たれたら――って考えたんじゃないかな?」

「……守護のギフトを持つ……?」

 リアーヌの訝しげな声にゼクスは慌てて言葉を続けた。


「あくまでで可能性の話だよ? 可能性だけで考えるならゼロでは無い、だろ?」

「……――限りなくゼロに近いと思いますけどね?」


(この先なにが起ころうとも、ユリアが私に「コピーして良いよー」とか言う未来が来るとは思えません……)


「ゼロではないなら無視してくれない人たちがたくさんいるって話さ。 君や子爵様を知らない人物ならなら余計にね」

「……そういうものですかね?」

「――そういう人たちの思惑が一致しちゃったんだろうねぇ……」

「――つまり私がいるから……?」

「えっ⁉︎ リアーヌのせいなわけないだろ⁉︎ 今説明したよね? うちはボスハウトと手を組んだから、無事に叙爵できるまでの準備期間を設けられたんだ。 それにボスハウト家が力を取り戻してくれたお陰でうちにちょっかい出して来るヤツらも大幅に減ったし……――ねぇ、うちってこれでも国で一番の商家なんだよ? そんなに心配しなくても大丈夫だよ。 どうとでもして見せるって!」


 不安そうに顔を曇らせたリアーヌを安心させるようにゼクスは力強く笑って見せる。

 その言葉を聞いてもリアーヌの不安は拭えなかったが、それでもこれ以上ゼクスに気を使わせてはならないと、ゼクスに合わせるように笑顔を浮かべた。


 それから二人は授業が始まる前に――と急いで教室へと戻る。

 教室に入る前、ゼクスはもう一度リアーヌを安心させようと微笑み、リアーヌはその笑顔に、やはりなんとも言えない不安を感じたが、それを押し殺すかのように無理やり笑顔を浮かべて見せた――



 しかし……この騒動はゼクスが考えている以上に大きな騒動へと発展していくこととなる――


 ボスハウト家への(ねた)みや(そね)み、ラッフィナート商会の存在を心良く思わない者たちの手によって、もっと広く……そして今よりも悪意に満ちたウワサとなって広がっていってしまうだった――


 ◇


「今回の騒動、うちのトラブルが発端になっちまったみたいで……」


 それから数日後、ラッフィナート邸の応接室にリアーヌとリアーヌの両親であるボスハウト子爵夫妻が通され、頭をかきながら謝罪の言葉を口にしていた。

 しかし、それを聞いたゼクスの祖父グラントはそれを豪快に笑い飛ばす。


「なんのなんの! きっかけなんてなんだって良かったんだよ! うちは敵が多いんだ!」

「たまたまこのタイミングだったってだけだよ」


 それに同意するように祖母のフリシアも言葉を続ける。


「それに、これに乗じて明確な敵対行動を取ってくれた取引先や店が出てくれてな?」


 ゼクスの父クライスがニヤリと笑いながらいうが、サージュはその言葉に盛大に顔をしかめた。

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