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(……なんか……この時間に警備部の人たちに囲まれながら廊下を歩いて行くとか、ほぼ連行……もしくはドナドナ)
などと考えながらリアーヌは警備部の者たちの先導で人気のない廊下を歩いて行く――
これは警備部の者たちなりの配慮で、授業中、そして同行を申し出たということで、あまり人目につかないようなルートを選んで進んでいた。
(このルートなら、あんまり人目につくことも無くて、ウワサとかにもなりにくい……かも? ――同行してる時点でウワサになるのは間違いないけどー……――早く疑いが晴れるといいなぁ……)
などと考えながらリアーヌは人気のない廊下を進んで行ったのだったが――
「貴族だからってこんなことしていいと思ってるの⁉︎ こんなの人殺しと変わらない! 恥を知りなさい!」
(……いくら人気がないからって、こりゃウワサの的決定だわぁー)
リアーヌはカチヤたちや警備部の人間たちに庇われながらユリアの怒声を聞き、そんなことを考えて現実逃避を始めていた。
「――ユリア嬢……何度も言うが、まだ話すらうかがっていない。 ――これ以上リアーヌ様に暴言を吐く気ならば、この学院のすべての安全を守る警備部の人間として見過ごすことは出来ないが?」
「捜査妨害で訴えられたくはないだろう?」
ここに押しかけてきてから今まで、宥めても諭してもリアーヌに向かって暴言を吐くことをやめないユリアに、そろそろうんざりした様子を見せ始めた警備部の者たちは、少々キツめの言葉を使ってユリアを牽制しようとする。
普通の人間であれば、それでおとなしく黙るはずだったのだが――
「なっ⁉︎ ――まさかあなた、警備部にまで圧をかけたの⁉︎」
「ええ……?」
ユリアの言葉にリアーヌは戸惑いの声を上げただけだったが、警備部の者たちからは殺気にも似た怒気が噴出して、ユリアはビクリと身体を震わせた。
(……――ね? 私も最初は知らなかったから、きっとあなたも知らないんだろうけと、この人たちはこの学院の――王族すら通う学院の警備を勤められるって実力と、学院に通う生徒たちからの圧力にも屈しないお家柄を兼ね揃えた、エリート中のエリート集団なわけ。 ――でもって今のあなたの発言って、実力も地位も認められてる人たちに向かって「ボスハウト家からの圧力に屈しやがって!」って言ったも同然ってことだけど……平気そう?)
「なんだと……?」
一人の警備部の人間が怒りをあらわにユリアに詰め寄ろうとして、すぐそばにいた同僚に止められる。
「控えろ」
「ですがっ⁉︎」
「――控えろ、と言ったが?」
「……――申し訳ございません」
そんなやりとりをしている警備部の人間たちをよそに、ユリアは好き勝手な怒りの言葉言葉その思いのままにぶつけ始める。
「あなた、いくらお金があるからってやっていいことと悪いことの区別もつかないの⁉︎ その歳にもなって⁉︎ なにが教養学科よ! 大切なことなんか、なに一つ教わってないじゃないっ!」
(――はぁ? 受験勉強すらまともにやってないお前には言われたくありませんけど⁉︎ ――あー……もう良いわ。 こいつ話通じないし……相手とか無理。 ――ストーリーメチャクチャにしちゃって悪いとは思うけど、殺人未遂犯にされるのはゴメンだもん)
「……――カチヤさん、コリアンナさん」
「――はい」
「ご用でございますか?」
「ごめんなさい、パスで」
リアーヌが振り返りながらそう言った瞬間、満面の笑顔を浮かべたカチヤたちは「かしこまりました」という言葉と共にユリアと対峙する。
「な、なによ……!」
カチヤたちの圧に、ジリリ……と後ずさるユリア。
しかし引く気は無いのか、リアーヌを睨みつけることはやめなかった。
「――呆れてものも言えないとは、このような時に使う言葉でしたのねぇ……?」
カチヤはさりげなく立ち位置を変え、その視線からリアーヌを守るように立ちはだかりながら言った。
「……バカにする気?」
ユリアの言葉にクスクスと笑いながら答えたのはコリアンナだった。
「こちらの警備部の方々はね? 気高くも屈強なこの国自慢の騎士の精鋭中の精鋭ですのよ? そんな選ばれた方々が、いやしくも金銭などで動くわけがございませんでしょう?」
「冗談にしても笑えませんわ?」
「こっちだって冗談なんか言ってないわよ! 小難しい言葉で煙に撒こうとしちゃってさ! どうせあなたたちの主人がお金をばら撒いたんでしょ! それで自分たちの都合のいいように事実を捻じ曲げて! ――なにが精鋭の騎士よ! 結局、貴族の言いなりなんじゃないっ!」
力の限り叫んだユリアが肩で息をする姿を鼻で笑いながらカチヤは口を開いた。
「まぁまぁ……この方がなにをおっしゃっているのか……――コリアンナ理解できまして?」
「いいえまったく……興奮しすぎてご自分が言っていることが矛盾だらけだと気がついていらっしゃらないご様子ですし……――お医者様が必要なのではないかしら?」
「また言いがかりを付けて私を黙らせようって魂胆⁉︎ じゃあどこが矛盾なの⁉︎ 言ってみなさいよっ!」




