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「……ってことは?」
「この件はすでに“学院の中で学生同士が起こしたトラブル”ではなく“貴族の子女が被害者となった殺人未遂事件”となっているということね」
「さっ⁉︎ ……それは大事だぁ……?」
(……でもそのぐらいの扱いにはなるか。
だってゲームでは公爵令嬢だろうと退場させられるぐらいの大事件だもんね? 罪状が殺人未遂なら、そりゃ大スキャンダルだわ……――でも、ユリアはなんで今そんな事件をでっち上げたんだろう……? だって最悪の事態が起こって、クラリーチェ様……もしくは私が犯人だって告発されたとしてだよ? ――婚約破棄まではいくと思う。 だってその時は殺人犯ってことにされちゃってるから。 ……でもさ? その後は? じゃあ次はユリアと婚約しまーす! ってなる? ――守護のギフトはそのぐらいの価値がある……? まぁみんなが欲しがるギフトなんだとは思うけど……――すんなり婚約も無理そうなら、その後の幸せも訪れそうに無いんだけど……?)
「――あなた、言動にはより一層気をつけるのよ? 絶対に言質を取られてはダメ」
いつになく真剣な表情のビアンカの言葉にリアーヌは、コクコクと素直に頷くことしか出来なかった。
(……ビアンカがここまで心配してくれる程度には私が危険な位置にいるわけだ……? まぁ、直前にすれ違ってるしなぁ……――でもそうなると、ユリアの考えは(邪魔な転生者っぽいヤツを排除してしまえば、私がレオンと!)になるわけだけど……? え、さすがに無理がありすぎだよねぇ……?)
リアーヌは首を傾げ、もう少しビアンカやオリバーたちと話し合いたかったのだが、授業開始時間が近づいてしまい、そこで解散するしかなかった。
「――ボスハウト子爵家ご令嬢、リアーヌ様。 少々お時間をいただけないでしょうか?」
もういつ教師がやって来てもおかしくないという時間になり、教室のドアを開けて現れたのは警備部の人間たちだった――
「あー……私かぁ……」
思わずそう呟いてしまったリアーヌに、警備部の人間たちは困ったように眉を下げながら申し訳なさそうに口を開いた。
「――あくまでお話を伺いたいだけなのです。 もちろんお付きの方の同行も許可させていただきますので……」
その言葉にリアーヌがどうすべきか迷うように後ろを振り返ろうとした瞬間、いつのまにかリアーヌの席の近くに来ていたゼクスが警備部の人間に声をかける。
「――彼女はこの学院の生徒です、警備部はそんな彼女の授業妨害を行なってまで捜査を行う――ということでしょうか?」
「――これは王妃殿下より直々に「早急な解決を望む」とのお言葉をかけられている事件だ。 ご協力をお願いしたい」
その言葉にほとんどの生徒たちがヒュッと息を呑む。
「――王妃殿下が……?」
確認するように質問したゼクスの言葉に、警備部の人間は硬い顔をしながらしっかりと頷く。
(え……? 本当にユリアは何がしたいの……? だってここで王妃が出て来ちゃったら、この事件で誰が退場したってユリアが第一王子以外と結ばれる未来なんか、絶対やってこないよね……? まさかの第一王子狙い説……――ないとは言い切れないけど、可能性は限りなく低くない?)
「――お時間をいただけますね?」
警備部のからの最期通告にゼクスが悔しそうに眉をひそめ、リアーヌはチラリとカチヤたちを振り返ってから了承の言葉を口にした。
「――あの二人を同行させますがよろしいでしょうか?」
「もちろんでございます」
快諾をもらい同行しようとしたリアーヌだったが、ゼクスの姿そしてその奥に教師の姿を見つけその動きを止めた。
(……えっとね? 筋は通さなきゃいけないから、あの二人に一言声をかけるのは絶対なのよ。 ――ただその順番とかは……まだ習ってないような……? 先生優先? ……でもゼクスって、現役男爵じゃん……? でもこの場で先生より優先すべき人いる……?)
「……リアーヌ様?」
返事はしたものの微動だせず動きを止めてしまったリアーヌに、整備部の人間は戸惑ったように声をかける。
「ぁ……ええと……」
とリアーヌは助けを求めるようにビアンカへと視線を向ける。
(――助けてください大先生!)
リアーヌが視線を向ける前に、すでに呆れた顔を浮かべて成り行きを見守っていたビアンカは、目が合った瞬間に先生、ゼクスの順番に視線を送って見せた。
(――すごい! 最小限にして最短の時間で、なんて的確で分かり安いご指示! ――一生ついていきます!)
ビアンカからの指示を受け、リアーヌは胸を張り自信満々の態度で教師に話しかける。
「――先生、申し訳ございませんが……」
「ええ、こちらは気にしなくともかまいません――あと一年以上あるのです。 あなたならば必ずや理解できると信じておりますとも」
「……ん?」
「――毎回毎回ご友人に助けを求めるなど……考えが甘すぎますよ、レディ・ボスハウト」
「……はい」
(――ちゃんとバレてるんだもの……)
リアーヌはシュン……と肩を落としながらゼクスに向き直った。
「……この度はお助けいただきまして――」
「うん。 流石に顔に出過ぎてた思う……」
「ぅ……」
リアーヌはゼクスの言葉に、バツが悪そうに顔をしかめると、グッと口角を上げ胸を張って見せた。
「――お助けいただき感謝いたします」
「お力になりませんで……――君には優秀な使用人が沢山付いてるからね? なんの心配もいらないよ」
(……今のこと、バッチリチクられるってことですね……分かります……)
「……ねー?」
そう答えた瞬間、クラスメイトたちからは、ささやかな笑い声が漏れ聞こえ、警備部の人間たちは気まずそうに視線を逸らした。




