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(なんで⁉︎ ――ミヒャエリス先生、あの乙女ゲーでも結構な人気キャラでしたよ⁉︎ 追加キャラの中ではダントツだったし、私のタイムラインなんか腹黒なミヒャエリス先生を褒め称えるツイートで溢れかえっていたというのに⁉︎)
リアーヌは同志を求めるように視線を巡らせ、運悪く目があってしまったゼクスに話かけた。
「――ゼクス様、今の私の話で少しでも「あ、それ分かっちゃうなー」とかいうことって……」
「――えっとねぇ……? うん……――趣味趣向なんて十人十色だよね? あくまで鑑賞するだけなんだったら文句なんか言わないよ……ーあくまでも鑑賞だけだよ? 絶対に近づいちゃダメだからね?」
「……――ケガしたり気分が悪くなったら不可抗力ですよね?」
「……リアーヌ、治癒も回復も使えるよね?」
「……でもほら、慣れてないから時間かかりますし……」
「頑張ろっか?」
「…………はい」
ゼクスからの圧強めの笑顔で押し切られ、渋々返事を返すリアーヌ。
その後はみんなが一致団結して話題を変え、勉強会はつつが無く終了したのだった――
……だったのだが――
(――ちょっと⁉︎ ヴァルムさんに今日の話をチクったのはどこのオリバーさんよ⁉︎ なんで今日から急に治癒や回復の特訓が始まったのよ⁉︎ 「もう隠す必要もございませんので……」とかもっともらしいこと言ってるけど、絶対私が救護室に行かないようにしてるだけじゃん! ――私はただ推しからの治癒とか回復を受けてみたいだけなのにっ! ……――さすがチクリ魔、卑怯なりぃ……!)
「姉ちゃん、なんかダルいから回復かけてー?」
リビングでぶっすりと唇を尖らせていたリアーヌに、風呂上がりのザームが話しかける。
ニヤニヤと笑いながら近づいてきて、リアーヌをからかう気満々のようだ。
「なにその顔……――そのニヤけた口、捻り取ってやろうか……!」
「おー怖。 んなことになったらあの先生に泣きついて治してもらわなきゃなー? おっかない姉にやられましたーって」
その言葉にリアーヌは抱えていたクッションをザームに投げつけるが、それはいとも簡単にキャッチされてしまい、リアーヌは目の前にあったクリスタルの置物を手に取ったのだが、その瞬間ヴァルムの大きな咳払いが聞こえて、ビクリと身体を震わせ置き物からゆっくりと手を離した。
そしてそんな姿をきっと弟に笑われているんだ……と顔を歪めながらチラリとそちらに視線を流すと、ザームはザームで背筋を伸ばしてきちんとソファーに腰掛け直しているところだった。
そんなザームの態度に、リアーヌはなぜだがとても満足した気持ちになっていた――
◇
次の日の朝――
教養学科の教室で、リアーヌはビアンカから聞いた話に目を見開いていた。
「え、じゃあ……あの後すぐ怪我しちゃったってこと?」
リアーヌからの質問にビアンカは言いにくそうに口を開いた。
「……ご本人曰く『階段を降りようとしたら誰かに突き飛ばされた』んだそうよ」
「え……? でも、ビアンカさっき「時間と場所的に、私たちと別れてすぐのようね」って……――あの後すぐあのお友達と別れちゃったの……?」
「いいえ? ご友人たちも突き落とされたと証言なさってるわ」
「……犯人はすでに捕まった……?」
「――いいえ? ご本人もご友人方も、あまりのことに混乱して誰も犯人を見た覚えがないそうよ」
「それで見た覚えがないなら、初めから犯人なんかいなかった説……」
小声で伝えるリアーヌにビアンカは大袈裟な仕草で肩をすくめ、顔をしかめて見せた。
「もはやそんなレベルの話では無いの」
(果たしてどんなレベルの話なのかと……――ってか……ユリアが階段から突き落とされるってゲームのイベントというか、ストーリーの……? 確かに階段から突き落とされて――ってのは絶対になぞるストーリーだけど……でもあれって邪魔な婚約者のご退場トリガーだから、恋愛エンド確定の時しか起こらないはずだったような……? でも時期違うでしょ? あれ絶対主人公が二年の時だから一年早いし――そもそもあの状況で「犯人わかりません!」が納得行かなすぎる! え、どういう状況……?)
「……それで被害者はなんて?」
「――さっきから言ってるじゃない犯人が居ると言い切ったの。 騒ぎを聞きつけて集まってきた生徒や教師の前でね? ――穏便にことを収めるなんてもう不可能よ。 誰を槍玉に上げるのかは知りませんけれど……全面戦争は確定ですわね」
ビアンカの言い方に違和感を持ったリアーヌはイヤな予感をヒシヒシと感じ取っていた。
「――誰をってことは……その……?」
(私、ものすごい直近ですれ違ってしまいましたけれど――⁉︎ そりゃそうだよね! だってなんかあの子、クラリーチェ様だけじゃ無くて私にも敵意剥き出しだもんね⁉︎ 同じ転生者だから⁉︎ レオンとクラリーチェ様の仲を取り持ってしまったから⁉︎ ――合わせてアウトの線も濃厚になってきたなぁ⁉︎)
「さぁね? けれど、学院側も本気で捜査をするみたいよ――警備部の方々が直々に被害者やそのご友人から話を聞く程度にはね」
「――確か警備部って……?」
「国からの命令でこの学院の生徒、および教師たちの安全を守っている方々――つまりは、国に仕える騎士の方々よ」




