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「――平民だとそう考える人多いかも……? 私も昔はそういう考えだったし」

「……あなたのような境遇の方、今年もご入学なさってだわね?」

「――多分、似たようなこと考えてると思う。 しかもみんな、建前上は爵位は絶対! みたいに振る舞うじゃん……?」

「絶対ではあるんだけれどね……? ――けれど、今もなおその認識でいらっしゃるというなら……そこも踏まえてお近づきになりたくないわね。 辺境のことをなにも知らずに、爵位だけで物事を計る方なんて話していてイライラしてしまいそう」

「あー……辺境はねぇ? 他国の抑えになってるからどこの家も軍事力凄いし、陛下への直訴権もあるもんね?」


 直訴権とは、それを持つ家が緊急事態だと判断した場合は、全ての礼儀を取り払ってでも早急に陛下への謁見を申し出られる権利のことで、主に他国との戦争時に使用される権限のことだ。

 最近は自然災害等でも使われることも増えてきているが、この権利を持つが故に領地に国境を持っている貴族たちは自身の持つ爵位よりも一つ上の扱いを受けることが多かった。

 ビアンカの実家ジェネラーレ子爵家ならば、伯爵家同等の扱いを受けられる権利を有している。

 これは、他の一般的な子爵家が持っていない権利を有しているがゆえの区別、そして国境を守り続ける家への配慮であった。


「――だからってそう簡単には使えない権利だし、あの辺りの家は殆どが持っているものだけれど……それでも持っていない家よりは――ねぇ?」

「だよねー? 正直、うちもおんなじ子爵家よりちょっとは優遇されてるけど、百年以上前の王族の親戚ってのより、そっちのほうが格の違いが分かりやすいもん」


 肩をすくめながら言ったリアーヌの言葉にビアンカはギョッと目を向きながら辺りを見回す。

 会話が聞き取れる範囲に生徒がいないことにホッと胸を撫で下ろしながらリアーヌを睨みつけるビアンカ。


「ちょっと! 滅多なこと言わないで⁉︎ 王家の血筋はどの家よりも優遇されるべき家なの――リアーヌお願いだからあにたのトンチンカンな発言に私を巻き込まないでちょうだい!」

「……え、だって百年以上昔――」

「たとえ五百年以上経っていたとしても、王家の親戚は王家の親戚なの。 王家に連なる家は……本来であれば他家よりもずっと格上の存在なの。 あなたの家だって昔は公爵家だったでしょう?」

「そういえば……?」

「――そろそろ私がどこの派閥に属しているか思い出してくれない……?」

「ぇ……フィリップ様の……あー――王家に連なる家でしたね……?」

「ええそうね。 しかも家が別れたの分家なさったのはボスハウト家よりずっと昔。 ……まさか昔すぎて格の違いが(・・・・・)分からない(・・・・・)なんて言い出したりしないわね?」

「あー……ね?」


(そうだった……他の家は全部公爵家で――私が『言うて、ちょっと血が繋がってるだけだしー?』とかいうと『ふーん? じゃあうちは⁇』って公爵家から言われたることになるのか……――そうだよ、この国の王家に連なる家ってうち以外みんな公爵家だったわ……)


「気をつけてちょうだい。 とばっちりはごめんよ」

「うぃ……」


 すっかりお馴染みとなってしまった呆れ顔のビアンカに、これまたお馴染みになってしまった表情で謝罪するリアーヌ。

 二人はそんないつものやり取りをしながら廊下を歩いていくのだった――


 ◇


「――姉ちゃん、こんなかすり傷なのに一回じゃ治せねーのかよ……?」


 ボスハウト家、控え室の中。

 最近覚えた治癒ギフトの練習に付き合っているザームが、呆れながら声を上げた。


「うっせ! ちゃんと最後には完璧に治るんだから文句言わないで!」


 そう言いながらザームの手のひらに出来た擦り傷に治癒ギフトをかけ終わったリアーヌは、次に回復ギフトをかけ始める。


「――こっちは断然早くなったんだからプラマイゼロみたいなもんよ!」

「いや、マイナスでしかねぇが……?」

「ゼロ同然なんですぅー! もう終わったんでさっさと退いてくださいー」


 小さな子供同士が喧嘩をしているかのようなやり取りに苦笑いを浮かべながらも、エドガーは次の練習台になるべくリアーヌの前に座る。


「本当に力は多いんですよね……」


 少しの違和感を感じる程度の肩の痛みを数の暴力で治療したリアーヌに対し、エドガーは感嘆の声をあげるが、リアーヌはピクリと眉を引き上げた。


(力()ってなに? ギフトなんて持ってるか持ってないかと、力が多いか少ないかくらいしかないでしょ! ……少しぐらい感謝してくれないと、今からやる回復で手ぇ抜いちゃうんだからな……?)


「救護室の先生なんか、もっと大人数をたった一回で治してたぞ?」

「本職と比べないでよ……――待って? 救護室の先生って? あんたいつ怪我したの⁇」

「あー? ケガっつーかトーナメント戦の時は次の試合前にまとめて回復かけてくれんだよ。 対戦相手によっちゃ、不公平すぎるんだと」

「なるほどねー……――あれ? 救護教諭で回復持ちって……?」

「なんかダブルの先生いるだろ? どっちもできる人。 一番のキンキラキン」

「ミヒャエリス先生⁉︎」

「……なんかそんな名前のヤツ」

「えー……良いなぁ……」


 リアーヌは一番の推しキャラに回復や治癒をかけてもらえるザームを羨ましそうに唇を尖らせた。


「――え、ってことはだよ? 私が騎士科の生徒になったらトーナメントのたびにミヒャエリス先生から回復をかけていただける……⁉︎」

「……いやムリだろ」


 その言葉に冷静に返すザームだったが、リアーヌは「なんでよ!」と面白くなさそうに言い返した。

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