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 ◇


「――納得がいかないわ……」


 ビアンカは廊下を歩きながら、面白くなさそうに呟く。


「……私がマナーの授業で褒められたのが、そんなに不満かね?」

「――不満はないわ? ただ納得がいかないの……――だって貴女、ニコニコ笑って相槌を打ってるだけじゃない」

「――人は失敗から学習し、成長する生き物だよ……――最近は危険そうな話には曖昧な相槌も打たないように気をつけてます!」

「一体どこをどう学習したら、あんなホスト役が出来上がるのよ?」

「……これまでの失敗を全てひっくるめて考えた時、気がついたのだよ、ビアンカくん!」

「……普通はその失敗の一つ一つを克服していくものでしてよ……」

「……――気がついたのだよビアンカくん!」

「――分かったわ、どうぞ続けて?」


 ビアンカは呆れたように肩をすくめながらも手で話の続きを促した。


「前回までの私は、ホスト役を命じられたとしても、みんなが満足するほど上手に話を振ることが出来なかった! これは明らかな失敗!」

「……失態の間違いではなくて?」

「……イエス失敗、ノー失態。 ここは学校なんだから、大いに失敗して学ぶべきなのです!」

「……あなたがそれを失敗と呼ぶのならばそうなのではなくて?」

「では失敗で! そして気がついたのです! オタオタしていた私に差し伸べられた周りの優しさに!」

「……まぁ、同じ班の方々だって評価される側ですからね? ――優しさ……だといいわよね?」

「であるならば! 私の決断など一つしかない!」

「――きっと碌でもないことだわ……」

(いな)! むしろ英断! だって周りが助けてくれるのであれば、私は最初から手を出さないほうが全てうまく回るのだから!」

「――今後の授業を見据えた時に、“とっととお止めなさい”という言葉を口にすることをためらうぐらいには、絶妙な意見だわ……」

「だから私は今回、最初から最後までずっと笑顔を心がけ、ただひたすらに相槌を打っていたのさ! あ、もちろんヤバそうな話は「うふふふふー」でごまかしたよ!」

「……そしてお茶会はつつが無く過ぎていき、貴女は先生にお褒めのお言葉を賜ったと……」

「今までで一番上手に回せていましたわね、って言われた! ……ちょっと納得いかないけど、それを飲み込んでこその成長!」

「それは間違いなく妥協よ」

「……捉え方は人それぞれだと思わない? でもナイスアイデアだったでしょ? だって、今回は誰一人困惑せずに楽しいお茶会出来てたじゃん!」

「あなたが真っ先にレジアンナに話を振って、そこから聞き役に徹したせいで、レジアンナは大いに戸惑っていましたけれどね……?」

「それは――……今までと比べれば誤差の範疇(はんちゅう)だよ! ……絶対そう!」

「……そもそも公爵家ご令嬢(レジアンナ)に気を遣わせる子爵家ご令嬢がいていいものなのかしらね……?」

「――友情って素晴らしいね!」

「――あなたの思考回路を埋め尽くすお花のほうが、よっぽど素晴らしい(・・・・・)と思うわ」

「……――でも先生は今までで一番だって……」

「――だから納得いかないんじゃない」

「そんな理不尽な……」

「あにたにだけには言われたくないわ⁉︎」


 そんな会話を繰り広げながら、リアーヌたちは騎士科の訓練棟、その控え室のほうに足を進める。


 本日はゼクスやザームも参加しての、ビアンカとアロイスの勉強会の日だった。

 授業が終わってからの数時間、お茶やお菓子を楽しみながら話し合うだけなのだが、周りに気を使わず存分に話し合えると、ビアンカたちには好評で定期的に開催することを望まれていた。


「――あら……」

「え?」


 ふいにビアンカが声を漏らし、わずかに顔をしかめる。

 リアーヌもつられるようにそちらに視線を向け――そのにいた人物たちに視線を揺らした。

 ――そこには、ベッティや他の友人たちに囲まれたユリアがいて、こちらに向かってくるところだったのだ。


「わぁ……気まず……」


(って言っても、避ける場所もやり過ごす場所もない一本道の廊下……)


「……進みます、よね?」


 笑顔を取り繕いながら、小声でビアンカに話しかける。


「――当たり前でしょう? あちらは専門学科……教養学科の私たちがあしらえなくてどうしますの?」

「うっす……」


 そう答えるとリアーヌは、完璧ない微笑みを貼り付けながら優雅に歩く、戦闘モード全開のビアンカの後に続いた。


(視線は下げない。 足幅は一定に、身体が上下に動かないようにしっかり固定しながらも()り足にはならないように……!)


 教えられた動作を一つ一つ確認しながら歩くリアーヌ。

 かなり距離が近くなり、向こうもリアーヌたちに気がつき、顔をしかめたりあからさまに睨む生徒たちも出てきていた。

 リアーヌはまた嫌がらせの犯人として文句を言われるのだろうか? と、身構えていると、ニコリと笑ったユリアが友人たちに話しかけ、一言も発さないままにすれ違う――


(……多分ユリアがなにか言って宥めたみたいだけど……――でもさ……? 知ってるかいユリア嬢……多分そこにいる殆どの女子が君への嫌がらせ行為に加担しているんだぜ……――ベッティに唆された子がほとんどだけど……君の私物を盗んだり壊したりしてるのは、その子達なんやで……ま、お前への好感度なんか皆無だから同情なんかしてやんないけどー)


 リアーヌたちとユリアたちは互いが互いを意識し合いながらも、視線すら合わせることなくすれ違う。

 何事も無くすれ違った二組だったのだが、少し離れた瞬間、リアーヌたちの耳にはヒソヒソと囁き合う声が聞こえてきた。


(……きっと、こっちのこと好き勝手言ってるんだろうなぁ……――感じ悪ーい)


 あからさまな態度に不快になったのはリアーヌだけではないらしく、ビアンカもかすかに顔をしかめながら口を開いた。


「……なんて品の無い方々かしら。 親の顔が見てみたいですわ」

「――あっち的には、こっちが悪者で自分たちこそが正義! だからなんだろうけど……――マナーとかで教わらなくっても、あんな至近距離でヒソヒソ始めちゃうのは、どうかと思うよね……?」

「……正義が全てを凌駕するとでも考えていらっしゃると? なんて視野の狭いこと――そもそも、その悪は身近に潜んでいらっしゃるでしょうに……」

「……てかさ? そのご本人たちのメンタルが凄いなと思う。 だってその子達からしたら、完全なる言いがかりだって分かりきっててのあの態度だよ? ものすごい本気で睨まれたんだけど?」

「本当にね……――待って?」

「どうかした?」

「……あなた、保護を求められたって言ってたわよね……?」

「……ゼクスに申し出ていらっしゃいましたよ?」

「……その方、居たわよね?」

「すぐお隣で、私のことを思い切り睨んでいましたね」

「――さすがに軽く見られ過ぎなんじゃなくて……?」

「――まぁねー? そりゃ私は単なる学生でなんの権限も持ってないけどさ? それでも失礼な扱い方されてるなぁって自覚はある」

「……足りないのは品ではなくて、学のほうだったのかしら……?」

「まぁ……普通の人は貴族のパワーバランスなんか、爵位の順番でしか見ないだろうからね? 伯爵と子爵なら伯爵がえらい! 勝ってる! とか思ってるんじゃないかな?」

「……ご自身の爵位では無いでしょうに――ましてや……」

「でも、かの方は信じきってるから庇ってあげるでしょ?」


 リアーヌの言葉に、ビアンカは大きなため息をつきながら首を横に振った。


「……そもそも爵位だけでパワーバランスが測れものですか……――だから日々の情報収集を欠かさないんじゃない……」

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