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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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「お望みならいくらだってお連れいたしますよ」


 そう答えたゼクスに、リアーヌは(今しかない!)と覚悟を決めながらずっと気に掛かっていた質問を投げかける。

 あの言葉の後だったら間違ってても別におかしくない! と自分自身に言い訳をしながら。


「つまり――それってゼクス様は、私を仕入れの旅に同行させたい……ってことですよね?」

「あくまで希望はね? これから先どの程度ギフトを覚えられるのか? とかいう話も出てくるし……」

「――たくさん覚えられたら同行する……?」

「出来れば。 もちろん変な噂が出ないように最大限の配慮をするよ⁉︎」


 ゼクスはようやくリアーヌがなにに懸念を抱いているのかに気が付き、慌てて言葉を重ね始めた。

 ――それが全くの見当違いだとは気が付かずに……


「宿屋なら部屋はものすごく離すし、夜営の時もテントは別だし、侍女や護衛をつけろっていうならそうするよ⁉︎」


 自分に不名誉な疑惑がかからないようにと、気を配ろうとしてくれているゼクスの態度に、リアーヌは(良かった自意識過剰ってわけじゃなかった!)と胸を撫で下ろしながらも、その上で感じたら疑問に首を傾げながら口を開いた。


「あれ? じゃあ……勤務地が王都ってのは……?」

「――ぁっ」


 遠慮がちに紡がれた質問に、ゼクスは目を見開いて小さく声を漏らした。

 ――元々その辺りの取り決めは、仕事を始めてから、少しずつ仕入れにも同行するように仕向けていけばいいだろう……と考えていたようだった。


「勤務時間とか……」


 ゼクスの反応にさらに不安を感じたリアーヌはさらに質問を重ねる。


「……えっとぉ……――特別手当は弾むよ⁉︎」

「えぇー……」


 苦肉の策として、別の解決策を提案するが、リアーヌの反応は芳しくない。

 これまでのゼクスの反応から、王都での仕事もそこそこに、仕入れの旅とやらに同行させられ続けるのでは……? という疑念を持ったためだ。


「もちろん振替休日だって取ってくれていいし!」

「うーん……」

「げ……現地で暇になったら観光してくれても構わないし!」


 なかなか納得してくれないリアーヌに焦れたゼクスが、やけくそ気味にそう言った言葉に、リアーヌがピクリと反応を示した。

 そして口元に指を当て、ブツブツと何事かを呟くと、すぐに瞳を輝かせてゼクスのほうに体を乗り出した。


「――海外にも行けますか⁉︎」

「……う、うん! 色んな所に行こうね⁉︎ もちろん旅費はこっちで出すからさ‼︎」

「――行きます‼︎」


 そう言い終わるとどちらともなく手を差し出し合い、グッと固い握手を交わす二人。


(ゲームじゃ名前くらいしか出てこなかった海外にも行けちゃう! しかも会社の経費でっ! ――私ってば、大当たりな職場を見つけてしまったのかもしれない……‼︎)


 そんな二人のやり取りを見ていたビアンカは、呆れたように二人から視線を外しつつ、フルフルと静かに首を振った――




「貴女……旅行先で一人で買い物とかやめておきなさいね? ――口の上手い商人(・・・・・・・)に言いくるめられるわよ」


 ゼクス、ビアンカと三人並んでサロン棟から教室へと移動する最中、周りに人気がないことを確認したビアンカがからかい混じりに忠告する。

 先程のゼクスとのやり取りを見ていたビアンカはリアーヌが他人に流されやすい性格なのかもしれない……と感じていた。


「いやいや、なにを仰います? 私が母さんから仕込まれた値切りスキルは中々のもんですよ⁇」


 本心から値切り交渉には少しの自信を持っていたリアーヌは少しムッとしながらも胸を張る。


「――あ、そうだったわね。 あなたお母様のギフトを貰ったんでしたわね」


 ビアンカはリアーヌが、母さんのギフトがあるから大丈夫だという意味合いの言葉を言ったのだと理解して納得の声を上げたが……実際のところ、リアーヌはこの瞬間までギフトのことを綺麗さっぱり忘れ去っていた。


「……あっ! そっか、これからはそれも使えるんだ⁉︎」

「えっ――今、気がついたの?」

「……――まさか? そんなわけなくない⁇ 私、ずっとギフトの話してたし」


 白々しい演技でリアーヌがそう言うと、ビアンカは呆れたように顔を歪めて肩をすくめる。

 そしてその会話を聞いていたゼクスが興味深そうに会話に加わった。


「え、なになに? リアーヌ嬢そんな素敵なスキルが使えるの⁉︎」

「はい、そうなんです! ――あっ……⁉︎」


 ゼクスに聞かれるがままに素直に答えたリアーヌだったが、ビアンカに自分が使えるギフトについて他人にペラペラ喋らない方が良いという助言をもらっていたことを思い出し、しまった⁉︎ という表情を作った。


「――ラッフィナート殿には今更よ。 ……そもそもあなたに隠し事が出来ると思えないし、これからのこともあるわ。 正直に話して、しっかり契約内容を吟味してから大人しく守られていなさいな」

「……分かった!」


 コクコクと頷きながらビアンカの話を聞いていたリアーヌは、そう元気よく答えると、体ごとゼクスに向き直りモジモジと伝え始めた。


「あの……私の母が【やりくり】ってギフトを持っていたので、私もそれが使えるんです」

「やりくり……値段交渉に使えそうだね……?」

「母さんはよく使ってました」

「へぇー」


 ゼクスはギラギラと光る捕食者の瞳をリアーヌに向けながら、その整った顔に満面の笑みを貼り付け、リアーヌに気がつかれないよう隠して見せた。

 ――しかしビアンカは不運にもそんなゼクスをしっかりと見てしまい、ヒクリと頬を引きつらせたのだった――

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