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 気まずそうにリアーヌに視線を向けたゼクスだったが、ベッティはそんなことはお構いなしに、花が綻ぶかのように幸せそうな微笑みを浮かべゼクスを見つめ続けていた。


「――じゃ、行こっか……?」


 ゼクスはそう言いがらリアーヌをエスコートしつつ散歩を再開させる。

 それでもベッティは幸せそうに見つめ続けていたのだった――




「――リアーヌ?」


 しばらく明日いた時にのち、ゼクスはチラリと後ろを振り返りベッティの姿が見えなくなったことや周りに人がいないことを確認してからリアーヌに話しかけた。


「……なんでしょう?」


 ゼクスに思うところのあるリアーヌは、視線を花園の湖に固定しながらシラッと答える。


「……この先、彼女がなにを言って来ても信用しないでね?」

「……え?」


 思わず足を止めてキョトンとした顔でゼクスを見つめ返すリアーヌ。

 そんなリアーヌにゼクスは「あー……」と言葉を濁しながら頭をかいた。


「うん、あのね……?」


 言いにくそうに言葉を選ぶゼクスの様子に、リアーヌは(あ……これ、完全に私がなにかに気がついてないパターンのヤツだ……)と気がついたのだが、それがなにかまでは理解が及ばなかった。


(くそう……――別に私だってあの子が言ってたこと全部を信じてるわけじゃないのに!)


「彼女がさっき言ってたことはウソだらけだ。 信用になんて値しない」

「……え? ウソだらけ?」


(――どこから? ……さすがに助けてほしいは本当でしょ……?)


「そもそも、彼女がフォルステル家の人間に脅されてる事実なんて無い。 自慢じゃないけど、うちの人間とヴァルム殿たちが事実確認を行なってるんだよ? 実は黒幕がいましたーなんて、そんな大きな見落としあるわけがない」

「――そこは……まぁ、気にはなりましたけど……」

「ま、かの方からうちに鞍替えしたいってのは本当っぽかったけど――散々やらかした後に言われてもね……? かの方に嫌がらせして、それをリアーヌのせいにして? それでこっちに鞍替えしたいとか……お荷物でしかないでしょ」

「……それってつまり、やっぱり彼女が自発的にかの方に嫌がらせをしてて、自発的に私に罪を着せたってことですよね……?」

「そうなるね?」

「もはや友達って段階でウソじゃん……」


 やけに打ちひしがれている様子のリアーヌにゼクスは肩をすくめながら言葉をかけた。


「――もし仮に、本当に脅されてたんだとしても、あれだけ毎日嫌がらせが出来る友達(・・)ってこの世に存在しないと思わない?」

「……それはそう」

「大体、リアーヌに罪をなすりつけておいて、よく俺に――ラッフィナートに助けを求められたよ……――ま、あっちが勝手に自滅してくれそうだったから利用させてもらったけどー」

「利用……?」

「あの子は脅されてなんかない――つまり証拠なんか絶対に出せない」

「あ……」

「でもあの子は、今度はフォルステル家に罪を着せて自分の保身をはかってる――ありもしない証拠を捏造してくるかもしれない」

「……今度はフォルステル家とやり合うつもりってことですか?」

「あの子の力だけじゃ敵わないだろうね? ――だからこそのラッフィナートなんだとは思うけど……それにしたってどのツラ下げて、だよねー」

「……じゃあさっきの『魅了』は……?」

「あー……ダメ押し? ありもしない証拠を渡してくれれば、彼女を本格的に排除できるから……」


 あまり褒められた行為ではないと理解しているのか、ゼクスは言いにくそうに前髪をいじりながら答えた。


「――そう、なんだ」


(……ってことはつまり――別に仲良くなっときたいなーみたいな、そういうことじゃないほうの魅了なんだ……)


 ホッとしたようなリアーヌの表情でゼクスはようやくリアーヌが嫉妬していたという事実に思い至る。

 ニヤケそうになる口元を隠しながら「そうなんだよー」と相槌を打った。

 そして軽く咳払いをしつつ表情を取り繕うと再び口を開く。


「俺もまだ疑ってるところはあるから、様子見だね」

「……疑ってる?」

「――本当に彼女の後ろに黒幕がいないのか……?」

「……でもさっき、ありえないって」 

「――隠し切れてしまう人たちがいないわけじゃない」


 そこまで考えて、リアーヌが戸惑いの視線を自分に向けていることに気がついたゼクスは慌てて笑顔を取り繕う。


「リアーヌはいつも通り、言質取られないように気を付けてくれたらいいよ。 あ、でもどんな時でもあの子の呼び出しやお誘いがあったら俺に報告しないで行っちゃダメ。 分かった?」

「あの子からお誘いされたり呼び出されたら、確実にそうすると思うので平気かと……――言質はいつも通り「うふふー」で乗り切りますし!」

「……意外にその返し有効だったりするもんね……?」


 ゼクスは最近、リアーヌのニュアンスを変えた「うふふー」のバリエーションの多さと使い勝手の良さに、若干の羨ましさまで覚えていた。


「父さんが本物の社交界で本物の貴族たちに使ってる手なので実用的なんです!」

「実用的、かぁ……?」


(――実用的ってなんだっけ……)


 そんな会話をしながらのんびりと散歩を楽しんだのち、再び紅葉エリアにやってきた二人はアウセレの甘味と緑茶、そして美しい紅葉景色を楽しんだのだった――


 ◇


 課外授業から数日だったある日――

 その日ようやく、全ての根回しが完了し、私のギフト『コピー』が文字や絵だけではなく、他人の持つギフトもコピーできるものだということが、学院側から発表された。

 それに付随して国側も事実確認のために人をボスハウト家に派遣して、リアーヌの『コピー』が本当にギフトをコピー出来るのか? そしてその方法は真実なのか? という検証がされ、本日めでたく、リアーヌたちの主張が全て真実であると国に認められることとなった――


 確かにまだ学院の生徒たちは、その情報を得ていない者たちが多いのか騒ぎにはなっていなかったが、学院が季節外にギフトの情報を出し、しかもそのギフトの内容にまで触れた発表をしたことに違和感を感じ、詳しい情報を得ようとした者たちは決して少なくはなく、国中に周知されるのも時間の問題のようだった――


(調べるにあたって、治癒ギフトをコピーしちゃったんだけど……タダで治癒とか、こんなにお得で良いんだろうか……?)


 リアーヌは無料でギフトをコピー出来たことに戸惑っていたのだが、その周囲は、この件が誰からの妨害もなくあっさりと終結してしまったことに戸惑っていた。


 ボスハウト家では、例え王妃が手を出そうとしてもそれに対抗すべく策を考え、人員を配置していたのだが……それのどれも使うことなく無事に発表されてしまい、こんなにスムーズに運ぶわけがないのに……と、根拠のない不安に苛まれていた。

 そしてそれはラッフィナート家もそうで、大勢の者たちを使いユリアやベッティ、フォルステル家を監視していたのだが、こちらもなんのトラブルもなく無事に発表されてしまい「なんなら、ボスハウト家側が公言するという動きを知らなかったんじゃ……? ――いや、先に仕掛けておいてそんなはずは……⁇」と首を傾げあっていた。


 そんな話を聞いてリアーヌは(あやふやな……)と内心でゼクスに対し呆れていたが、ゼクスはそれが事実だった場合、誰がどう動くべきかを必死に考えていた。


 ――ゼクスの今一番の懸念は、ベッティが……レーレン家が元から王妃側の人間だった場合、だった。

 そう仮定すれば今のこの状況に、ほとんどの説明が付いてしまう。

 最初からユリアに近づくために友人になり、ユリアの恋路を言葉巧みに妨害。

 ――例えユリア本人が助言(・・)だと認識していても、レオンに心底嫌われている現状では、その言葉は妨害(・・)以外の何者でもない。

 そしてユリアにさまざまなトラブルを起こさせ続け、それを治めるのが王妃であり続けるならば、ユリアは王妃の――第一王子の派閥であると認識される。

 本人がどう思っていようと、例え否定をしようとも、周囲はそう扱う。

 そうして身動き取れなくされてしまえば、ユリアは第一王子と縁付くしかなくなるのだ。

 それを踏まえ、ゼクスは自問自答する。


(……そう考えれば、被害を被ったシャルトル家やボスハウト家は王妃に取って邪魔な家々だった――……けど今回うちに近づいた目的はなんだ……? うちまで派閥に入れようとしてる……?)

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