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そんな会話をしながら、二人はのんびりと花園を散策しながら紅葉エリアに移動する。
花園を自由散策ということで、リアーヌはビアンカやレジアンナたちと周る気でいたのだが、花園に移動する前から婚約者たちと回る話で盛り上がっているレジアンナたちの会話で(あ、これ婚約者が学院にいる人は婚約者と回るのか……)と理解していた。
(……ゲームでも屈指の好感度爆上がりイベントだもんなぁ? そんな素敵な場所、そりゃあ……みんな自分の恋人や婚約者と周りたいですよねぇ……?)
「リアーヌ!」
「あ、レジアンナだ」
多くの生徒たちが行き交う通路を、道沿いに植えられたもみじを楽しみながら、千本鳥居のあるほうへと歩いて行くと、反対側から歩いて来たレジアンナたちとバッタリ出会う。
その隣には当然のようにフィリップもいて、リアーヌは略式ではあったが礼の姿勢をとった。
「フィリップ様もごきげんよう」
「ええ……そちらも」
「どうもー?」
(最近、挨拶すらまともにしなくなったんだよなぁ……?)
そんな二人からそっと視線を外したリアーヌに、レジアンナは楽しそうにはしゃいだ声で話しかける。
「凄いわ! とっても素敵! 神秘的で――私あんな空間初めて見たわ⁉︎」
「喜んでもらえて良かったよ……?」
大興奮のレジアンナに、ニコニコと営業スマイルで答える。
しかし、もみじと千本鳥居のエリアはリアーヌが思っている以上に好評だったようで、いつもはほとんど会話に加わらないフィリップにまで声をかけられた。
「紅葉などうちの庭でも……と思っていましたがここの趣向は素晴らしいですね。 千本鳥居ですか? 大変ミステリアスで心踊りました」
「あそこの中を通っていると、現実ではない場所を歩いてるみたいで……夢のような空間だったわ」
フィリップの言葉に同意しながらうっとりと言うレジアンナに、リアーヌはクスリと笑いながら、うろ覚えの知識を披露する。
――少しくらい違っていても、そこまでアウセレに詳しい者はいないから許されると考えながら。
「ありゃりゃ……それは危ないかもよー? あんまり魅入られちゃうと現実に帰って来られなくなるかも……」
芝居がかった口調で話し始めたリアーヌに、レジアンナたちは顔を見合わせながら興味深そうに会話を楽しむ。
「どういうことですの?」
「魅入られる、とは……?」
「んふふー。 あのね? 本物の鳥居って、アウセレでは神様の世界と人間の世界を繋ぐゲートだって言われてるの。 だから鳥居を潜った向こうの世界に興味を持ちすぎると、こっちに帰って来られなくなっちゃうかもよー?」
リアーヌの話にレジアンナは瞳を輝かせる。
「まぁ……そんなお話がございましたのね!」
「――でも、ここのは単なる置き物の鳥居だから、そんな心配はいらないんだけど――」
「異国の神にレジアンナが見初められてしまったら大変だ……!」
リアーヌがネタバラシのように話し始めた言葉を遮るように喋り始めたフィリップは、自分の腕に添えられていたレジアンナの手を取り、ギュッと力強く握り締めた。
それは単なるお芝居のようにも、本気でそれを危惧しているようにも見え、レジアンナは頬を染めながら戸惑うように口を開く。
「そんな心配……――私はずっとお側におりましてよ……?」
「本当かい? 決してこの手を離してはいけないよ? ――私の女神……私だけのレジアンナ」
「フィリップ様……」
広くとってあるとはいえ、道のど真ん中で人目も憚らず見つめ合う二人に、リアーヌはチラリとゼクスに視線を送りながら小声でたずねた。
「――これ、私のせいでしょうか?」
「……きっかけはなんだって良かったんじゃないかな……?」
「――……あ、お二人ともアウセレの甘味が楽しめるカフェには行きまして? アウセレで仕入れた向こうのお茶も楽しめて、二階からは千本鳥居を上から眺められるようになってるんですよ。 風通しもいい場所なんでゆっくり休めると思います」
「――行ってみたいですわ⁉︎」
リアーヌの言葉にすぐさま反応したレジアンナは、ねだるようにフィリップを見つめる。
「――仰せのままに? ……けれどこの手を離してはいけないよ?」
「っ……はい!」
ニヨニヨと歪みそうになる顔を必死に取り繕うレジアンナと、そんなレジアンナを見つめながら幸せそうに顔を溶かしているフィリップたちの背中を見送りながら、リアーヌは思わず呟いていた。
「――さっさと結婚しちゃえばいいのに」
「……結婚したらあれよりパワーアップしたりしてね……?」
「…………」
「…………」
そんな光景がありありと思い浮かんでしまった二人は、無言で顔を見合わせ、そしてそっと逸らしあう。
そして――
「――俺たちも散策しよっか⁉︎」
「ですね⁉︎ わー千本鳥居楽しみー!」
先ほどまでの会話は無かったことになったようだった。
「――では、お手をどうぞ?」
「ありがとう存じます」
手を取り合い、ゆったりとしたペースで歩き始める二人。
「花園に二人で来るのは久々だね?」
「そういえばそうですね? 前回は――……」
そこまで呟いて、前回来た時の騒動と、ゼクスとの約束をようやく思い出したリアーヌ。
「……えっと」
「――もしかしてなにか思い出したりしたー?」
のんびりと歩きながら、ゼクスはニコリとリアーヌに微笑みかける。




