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そんな会話から数日後――
リアーヌのギフトのことは、あの日のうちに学院に報告することが決定し、今は根回しや持ち上がるであろう様々な問題の相談を多方面に持ちかけている最中だった。
そんな中――本日、リアーヌたちは数少ない課外授業のため、学園外に出ていた――
(……見慣れた場所なのに、やっぱりなんかワクワクしちゃうなぁ……――教養学科や一般学科も騎士科や専門学科みたいに、もっとたくさん課外授業すれば良いのに……)
学業だけに専念する教養学科や一般学科の生徒とは違い、その個人のギフトに合わせて、さまざまなことを学ばなくてはいけない専門学科、あらゆる場面を想定してその肉体と精神を鍛え抜く騎士科の生徒たちは、比べ物にならないくらい課外授業が多かった。
(――まぁ、王族や有力貴族のご子息、ご令嬢がわんさか通ってる学科の生徒たちを、まとめて外に連れ出す授業なんか、年一だって多い説はあるんだけどねー……――でも絶対やるんですけどねー! なんたってゲームシナリオにドーン! と出てくるイベントなんで! 課外授業! 学院近くの紅葉が綺麗な場所で、こっそりデート! ゲームではスチル確定だし好感度爆上がりってことで『運営からの贈り物』とか『お慈悲イベント』とか言われるくらいの超重要イベントなわけですが……――私この人生になって、初めてといっても過言ではないほどの、ゲームの強制力というものの存在を強く感じている――……このイベントってうちの花園で発生してたんだ……? ゼクスがアウセレからもみじとか、サンドバルから綺麗に紅葉する木々とか準備してくれてたから良かったようなものの、これ本来はどうなってたのよ⁉︎ 手を入れる前の花園なんか、この季節枯れ木ばっかりだったんだからね⁉︎ スチルの背景の真っ赤なもみじが枯れっ枯れの茶色一色になることだったんだから! ……――アウセレからの植物植える時に、一緒に紅葉エリアも作っておいて本当に良かった……――なんなら新しく作ってもらった千本鳥居エリア、激格好良い! 私もあの背景のスチル欲しいっ!)
「……なに考え込んでるの?」
「あーっと……みんな、新しく作ったエリア喜んでくれると良いなぁって……?」
ゲームだのスチルだのと説明するわけにはいかないリアーヌは、ごまかすように首を傾げながら答えを濁す。
「――……隠し事?」
「いや……その――」
(どう説明しろと⁉︎)と焦るリアーヌが周囲に視線を走らせると、そこかしこに散らばった生徒たちと、そのお付きそして普段花園では見かけない、多くの警備部の人間の姿を見つけ、ごくごく自然に不満が口から漏れていた。
「……――これ、万が一なにかあったらちゃんと学院が責任取ってくれるんですよね……? うちに責任追及とか来ないですよね……?」
「あー……警備部の人たちがこれでもかってほど闊歩してるし、貸切だし……――それに今回の課外授業にここを推薦したのは国王陛下って話でね……? ――だから警備部も一段と気合いが入ってるし……――諸々を加味したらボスハウト家に不利益になるようなことはないんじゃないかな?」
「――陛下が……?」
「うん。 なんでもここのもみじエリア、王太子時代に訪れたアウセレの美しい風景と瓜二つだって、いたくお気に召したって話だよ? だから……」
そこまで言ったゼクスは、リアーヌにさりげなく近づきながら口元を手で覆い隠しながら声をひそめた。
「――ぜひとも息子たちに見せてやりたいって仰ったみたいでねー……」
「……それはつまり――?」
「上のほうはすでに、ね? ……それに、王太子時代アウセレにご一緒したのは前王妃様だったらしいから」
「なるほど……」
(亡くなってしまった奥さんと見た景色をその息子にも――ってことかぁ……それはぜひとも見てほしいところだけど……――もみじエリアでアウセレの風景と瓜二つって……もしかして千本鳥居だったりする……? アウセレだったらあってもおかしくないよね千本鳥居……)
リアーヌは気まずかな表情を浮かべながら口を開く。
「……――あの千本鳥居って、いわゆる“なんちゃって”なんですけど、陛下にがっかりされたりしませんかね……?」
「なんちゃって?」
「あの鳥居って、本当はアウセレ国の代表的な宗教に関わるもので……でもここに作ったものは神もなにも関係なく、ただ綺麗で素敵! アウセレっぽい! ってだけで作っちゃったものですけど……」
「――むしろ、それで良かったように思うけど……?」
「そう、ですかね? アウセレのものと同じだと思ったのに、全然関係ないの? ってガッカリされませんかね?」
「――さすがに国営の花園で他国の宗教のものは広められないでしょ? それは陛下も分かってるよ。 あくまでもあの鳥居はアウセレの文化の一つってことで、異文化に触れるきっかけにでもしてもらおうよ」
「――なんかそれっぽいですね⁉︎」
「……でも、アウセレ側から正式に苦情入れて来たらすぐ取り壊そうね……?」
ゼクスが言いにくそうに言った言葉に、リアーヌはキョトンとしながら答えた。
「――それは無いと思いますよ? そんな事態になるようなものだったら、提案した段階で父さんが反対すると思うんで」
「あー……子爵様の力、つくづく便利だね……?」
「――便利だとは思いますけど、ほぼ全ての理由が「そんな気がする」なんで……結構不安な時も多いですよ?」
「それは……周囲の信じる力が問われるね……?」




