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そして視線を揺らしながらも、いくつか浮かんだ考えを口にしていく。
「――その一、私が犯人だというウワサを小耳に挟んだので文句を言いに来た」
「……ありえない、と言い切れないのよね……」
「そのニ、コピーのギフト持ちなのでとりあえず潰しておきたい」
「――その場合、知っているということになるわよ?」
「……ヴァルムさんが、王妃がそれを知っていたなら、そこから情報が漏れている可能性も考えられるって……――まぁ王妃が知ってるって情報は掴んでないらしいんだけどね?」
(大体、極秘扱いしてるけど、ゼクスは『コピー』イコール『複写』って仮説を自ら立てて、『だとしたら、ギフトを写すことも可能だぞ⁉︎』ってなったからこその婚約なんですよ……他にもその仮説にたどり着く人がいたっておかしくないわけで……――ユリアのクラスメイトが冗談で「ギフトもコピーできたりしてー」とか言ったのを間に受けて――だなんて可能性だって充分に考えられちゃう。 知らないだろうから……って考えはちょっと危険な気が……)
「――王族、ですものね?」
「うん。 しかも第一王子はそういう教育だって受けてるかもでしょ?」
「……可能性としては高そうね?」
「うん。 うちとしても、そのニが有力だよねって話になった」
「――子爵様のご意見は?」
「あー……なんか――その辺り関係でこっちから動いたり、働きかけたりしようとすると、確実にややこしい事態になるっぽくて……だから今は動かないほうがいいだろうって結論になってた。 あ、でも父さんは、その一に大きく頷いてたんだよねぇ……「きっとお前にムカついたから文句言いにきたんだろうな」って言ってたし……」
「それは――……」
「でも、父さんの言葉が全部ギフトがらみなわけじゃ無いし、間違いがないわけでもないから……あれは父さんの思い込みなのかも。 ――そもそも父さんの『豪運』って、警告して不幸を回避させる系のギフトだから、もう起こっちゃったことに関しては発動するのかも微妙だと思ってるし……」
「もう起こってしまったこと……」
「嘘を見抜くスキルってその場でしないとダメでしょ?」
「そう聞くわね」
「父さんのスキルも、すでに起こっちゃった不幸の回避はできないの。 だけどそこから先の不幸回避はできるから、こんな事件がありました! さぁ対処法を考えましょう! なら間違いなく最適な答えが出る。 ――でもこんな事件がありました! 原因はなんでしょう⁉︎ だとギフトがうまく発動しないと思うんだよねー」
「……それならば、あなたの家の使用人たちも意見をたずねたりしないんじゃなくて?」
ビアンカは眉をひそめながら、その言葉が正しいならば、ヴァルムたちとてすでにそれに気が付いていてもおかしくはないと考えたようだった。
その指摘にリアーヌは思い切り顔をしかめると面白くなさそうに口を開く。
「――それがさぁ……うちの父さんリアルラックも高いから、なんとなく答えたことがその通りだったりするわけ……」
「あー……」
「……正直、それがギフトの力なのか父さんの直感力なのか分かんないんだよね……――でも弟には遺伝してるからギフトじゃない気がしてる……」
「――その点、その能力あなたには遺伝しなかったようね……?」
「――どうしてなのか私にも分からないけど、私……豪運のギフトの使い方、弟に教わってるところもあるから……」
「――どういうことよ?」
「……だってあの子、直感力だけで、ゾワッとかピリッとか理解してるんだもん……」
「――あなたのご家族どうなってるのよ……?」
「――一応身体強化持ちだから、感覚には私なんかよりずっと優れてるんだけど……――豪運のギフトを持ってるはずの私には分からない感覚が分かるの、なんでなんだと思う……?」
「……私に聞かないでちょうだい」
顔を見合わせ眉を下げ合うリアーヌたちの背後から、興味深そうなゼクスが質問を投げかける。
「ザーム殿って本当にリアーヌより運が良いの?」
「あ、ゼクス様……」
「あ、ごめんね急に話に割り込んで」
「いえ。 ――ゼクス様のご意見もお聞きしたいですわ」
「――俺はリアーヌのリアルラックも相当高いと思ってるんだけど……本当に今もザーム殿のほうがリアーヌよりリアルラック高いの?」
「……え、私のリアルラックって高いんですか⁉︎」
「――少なくともうちの商談的には相当高いよ? 冗談じゃなく毎回リアーヌ同行させてくれって言われるほどには、前回の仕入れは幸運に恵まれてた」
「――つまり『豪運』にはリアルラックを上げる効果もある……?」
「俺はそう思ってたんだけど……?」
首を傾げ合う二人を見つめ、ビアンカは心底残念そうに大きなため息をつく。
「……え、どうしたの?」
「こういう事態になると分かっていたら、以前のあなたと今のあなたとの違いをもっと細かく観察しておいたのに……!」
「――私のこと実験動物みたいに扱うじゃん……」
「それが巡り巡って、より良い未来への足がかりとなるかもしれませんのよ⁉︎」
「――ビアンカ……あんまりアロイス様の研究にのめり込むの、良くないと思うな……?」
「――いいえ、これは私の研究ですわ? 過去に失われてしまった部族や民族たちの中にだって、とくに大切にされていたギフトがあるんですの! それを紐解いてなぜそうだったのかを考えていけば、現代社会の問題を解決する糸口がみつかる可能性が高いんですのよ⁉︎」
「……そっかぁ?」




