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「――……ゼクス様、ビアンカの家とどうにか繋がりを作ることは出来ませんかね?」

「……それは家同士の繋がりだよね? 事業とか――婚姻とかの」

「はい。 つながりを強固にすべきだと考えています……!」


 鼻息も荒く詰め寄るリアーヌだったが、ゼクスはそんなリアーヌから視線を逸らしながら言いにくそうに答えた。


「――ムリ、かなぁ……?」

「ええ……?」


 情けない声を上げるリアーヌに、今度はビアンカが呆れたように声をかけた。


「――あなた、私にどんな後ろ盾があって、どこの家に嫁ぐか忘れていますの?」

「……――いっそパトリック様ごとごっそり引き抜きます?」

「……男爵の(くらい)の家が?」

「……その辺りは商会の力も借りてどうにか……」

「あー……それでもムリだねぇ?」

「ええ……?」


 そんな会話をしていると、ひきつった笑顔を浮かべているパトリックを伴ったフィリップが話しかけて来る。


「――なんだか楽しそうな話をなさっているようだね?」

「……おはようございますフィリップ様。 ……単なる冗談――本気ではございませんわ」


 ビアンカは軽く頭を下げながらほんの冗談であると強調する。


「おはようございます。 フィリップ様」

「リアーヌ嬢、災難でしたね? ご無事ですか?」

「はい。 驚きましたが、何事もなく……皆様のおかげですわ?」

「それは何より……――それとそちらも」


 フィリップはニコニコとした顔つきをガラリと変え、ゼクスにも話しかける。

 最低限の礼儀を尽くしたつもりなのか、敬意など払うつもりもないという感情の現れか……それは周りにいるパトリックたちにも分からなかった。


「――どーも?」


 そしてそれはゼクスのほうも同じようで、おざなりな返事をして、ヘラリ……と笑って見せた。


 途端に辺りになんとも言えない居心地の悪い空間が広がり――

 リアーヌはこっそりとため息をつきながらビアンカに小声で「――家同士のつながり、諦めようと思う……」と伝え、ビアンカも顔をひきつらせながら「そうね、ムリだわ」と同意するのだった――


 ◇


 そんな事件から数日後――


 ユリアから犯人であると名指しされてしまったリアーヌは(これからは私も悪者扱いされるのか……)と、ウワサの的になることを半ば覚悟して学院に通っていたが――

 少なくともリアーヌの生活圏では、そんなウワサ話は聞こえても来なかった。


(ちょっと拍子抜けだけど……――別に犯人扱いされたかったわけじゃないし。 ……――もしかしてこれって父さん譲りの豪運が仕事してくれて、私のリアルラックが上がってるってことなんだろうか⁉︎)


 リアーヌは今日も元気に登校し、いつもと変わらずクラスメイトたちと挨拶を交わし、なんの違和感もなく授業の準備を始める。


 ――リアーヌのギフトのせいなのかどうかは不明だが、リアーヌがあまり悪く言われなかった原因は、全てユリアだとされていた。

 教養学科の生徒たちの目がある中で、いきなり教科書を机に叩きつけ、犯人であると糾弾――しかも本人が『証拠はない』と認める発言もしていて――多くの者たちがユリアに対して不信感を、そしてリアーヌに同情心を向けていたのだ。

 

(あとからゼクスに聞いたけど、あの時廊下で聞き耳立ててた他のクラスや学年の生徒たちが結構いて、ユリアが喋るたびに「え……? なに言ってるんだあの子……?」と首を傾げあってたらしい……――先生方に噛みついちゃったから学院側も一気に私やクラリーチェ様に同情的になったっぽいし……)


 ――怪我の功名と言えるのか、ユリアの悪評が広まるのに比例するように、クラリーチェにも同情が集まっていた。

 曰く――

『あの方……あんな非常識な方の相手を一人でなさっていらっしゃったのね……?』

『証拠がないって公言なさってたらしいけど……――まさか公爵家のご令嬢相手にも言いがかりを……?』

 などと囁かれているらしい。


(――だけど、それもまだ教養学科の生徒を中心に、なんだけどねー。 専門学科の生徒や一部の騎士科や一般学科の生徒たちはやっぱりユリアに同情的な人が多いらしいし……――一応、オリバーさんたちが調べて来てくれた証拠とか証言とかをまとめて学院側に提出して、ベッティや友人たちが嫌がらせの犯人ですよーって報告して、ユリアにもちゃんと説明するって話になったとは聞いてるんだけど……――あの感じだと百パーセント「学院までグルになって犯人を庇ってる! しかも私の友達に濡れ衣を着せた!」ってなってるんだろうなぁ……)


 リアーヌは遠い目をしながら窓の外を見つめ、青く広がる空を眺めながら、少しだけささくれだった心を癒した。


(……でもさ? 悪役令嬢にされたのが私ってことはだよ? ――ユリアの攻略対象ってゼクスになるってことなんだけど……――え、レオンは……? え……? だってこれさ? もし仮に私が断罪されたとして、ゼクスと婚約破棄するじゃん? そしたら……ユリアはレオンと幸せに――は、なれないよねぇ……? ――それとも私が断罪された後ならクラリーチェ様を黒幕ってことに出来る……? ……可能性は無くはないだろうけど――それでレオンとユリアが幸せになる未来とかやって来る? だってそんなことになったらシャルトル家はレオンの敵になる……――どころか、もしかしたら第一王子にだって味方するかもしれない……――私だって父さんに土下座してでもレオンを王様になんかしてやらない……――あ、その時は私、犯罪者になってる可能性高いのか……――せめて修道院行きとかで済むといいなぁ)


 リアーヌは大きく息を吐き出しながらそっと手元に視線を落とした。

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