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(――許してもらわないと、私が『使用人に手伝って貰わないと、何にも解決できない人』認定されちゃうって話ですけど……――事実な部分もあるし、そもそもこの人の相手一人でやるのは荷が重そう……)
そんなことを考えながら、周りの反応を見るようにあたりを見回す。
その時偶然、教室の入り口から中をうかがっているビアンカと目が合った。
条件反射のようにリアーヌはパァッと顔色を明るくし、当然のように助けを求める視線を向けたのだったが――
(――ちょっと⁉︎ なんでまた廊下に出たの⁉︎ あなたの親友が要注意人物に絡まれてますけど⁉︎)
「――入学試験が間に合わなかっただけよ。 来年は私も教養学科に編入するつもりなの。 そのためにちゃんと勉強もしているし……――大体私がどこの学科に通おうが、あなたたちに関係ないじゃない! 大きなお世話よ!」
「ああ! それで社交のお勉強に力を入れておりますのね?」
「うふふ、特に殿方との社交に熱心でいらっしゃいますものねぇ?」
クスクスと笑いながら言った二人に、ユリアはカッと頬を赤くしながらムキになって言い返す。
「わ、私はただ話をしに行ってるだけよ!」
「あらそうでしたのね? それで……今日はどういったご用向きで?」
「っ――私は! その子に話があるの!」
そう言いながらリアーヌに指を突きつけるユリア。
その礼を欠いた行為にカチヤたちどころか、そのやりとりを見ていたクラスメイトたちの視線も不愉快そうに鋭く細められる。
「……ソノコ? カチヤ貴女そんな方ご存知?」
「――いいえ? 聞いたこともないわ? ああ、お人違いをなさっていらっしゃるのでは?」
「ちがっ……⁉︎」
「――お帰りはあちらでございましてよ?」
「あらやだわ。 いくらなんでもドアくらい見えていらっしゃるわよ」
「バカにしないで! ――どうせあなたたちが実行犯なんでしょ⁉︎」
カチヤたちを睨みつけながら言ったユリアの言葉に、二人は鼻を鳴らしながら顔を見合わせながらたずね返した。
「実行……?」
「犯……?」
「そうよっ とぼけたって無駄よ! 今まで私に嫌がらせをしてきたのはそいつだってもう全部わかってるんだから!」
その言葉にカチヤたちの目つきがいっそう鋭くなり、ハッキリとユリアを睨みつけながら口を開いた。
「――当然、それはフォルステル伯爵家の人間としての発言でおよろしいですわね?」
「つまり、フォルステル家の人間が当家の――ボスハウト家の人間を犯罪者だと告発した――ということになりますわね?」
その言葉に教室内がざわり……とざわめき、それに気がついたユリアが不安そうに数歩後ずさる。
そんなユリアの袖を引きながら口を開いたのはベッティだった。
「や、やめようよユリア……だって――証拠とかないじゃん……」
「証拠がなに⁉︎ この子が私にひどいことしてたんだよ⁉︎」
「その……一度帰ろうって……」
ヒートアップするとユリアとは対照的に、周りの者たちをチラチラと確認しながら、そこが完全なるアウェーだと気がついているベッティだけは、ユリアの袖をクイクイと引っ張りながら気まずそうに告げるが――
ユリアはその手を強引に引き剥がし、机に手をつくとズイッと身体ごとリアーヌに近づけながら言い放った。
「――いま謝るなら許してあげる。 ……ねぇ、こんなことしちゃダメなんだよ? 私になにか言いたいことがあるんだったら、ちゃんと言葉で――」
「――そこまでだ」
リアーヌに顔を近づけているユリアを手で押し返しながら、二人の間に身体を滑り込ませたのはゼクスだった。
どこかでこの騒ぎのことを聞いて急いできたのか、髪型が少し崩れ、息も少し乱れていた。
「ゼクス君……?」
「――無抵抗の人間に詰め寄り自白を強要する――これは明らかな強迫行為です。 ――ですね?」
ゼクスはユリアを睨みつけながら言うと、入り口付近に視線を送りそこに佇む教師に確認をとった。
教師はため息混じりに軽く首を振り、ヒタリとユリアを見つめ静かに口を開いた。
「そのようですね」
「……ぇ? 待って……? 脅迫って……」
「――これだけの証人がいる前でとぼけるつもりなのかい? わざわざ教室まで乗り込み、証拠がないと理解しながら自白を迫ったんだろう? 曲がりなりにも伯爵家の人間が。 ――嘆かわしいことだ……」
ゼクスは少々オーバーなリアクションを取りながらユリアを糾弾する。
その言葉でユリアはようやく周りの人々の反応に気がついたのか、辺りを見回し、その多くが自分に非難の視線を向けていることを理解し、言い訳するように口を開いた。
「ちが……! 私そんなつもりじゃ無い! ただ謝って欲しかっただけで!」
周囲に向かって主張するが、それは教室内に入っていていた教師によって止められる。
「どういうつもりだったのかはこれからお聞きいたします。 ――ユリア・フォルステルついて来なさい」
「――なんで私が⁉︎ 私は被害者です!」
「いいえ。 この件に関してはあなたが加害者です」
教師の言葉に手を握り締め、唇を噛み締めていたユリアだったが、ハッとしたようにリアーヌを見つめると、そのまなじりをギリギリと吊り上げた。
(……今度はなにが君のカンに触ったと言うんだね……?)
「――あなた! 恥ずかしくないの⁉︎ 権力を使って先生たちまで操って!」
「ええ……?」




