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(――うん。 その注意、甘んじて受け入れようじゃないか……)
そんなビアンカとリアーヌのやりとりに、レジアンナたちはコロコロと楽しげな笑い声を上げる。 しかしテキパキと予定を組み上げていく。
その数日後――
レジアンナたち主催の勉強会はつつが無く開催され、レジアンナの部屋の中に飾り付けられた、クラリーチェ好みの内装やお菓子に花――自分が好ましいと感じるものたちで埋め尽くされたその部屋に、クラリーチェはいたく感激し、とても楽しい時間を過ごしたのだった――
そして、やはりこの事件に巻き込まれたことでご両親からお言葉があったらしく、出来うる限り自分で対処する! と、決意を新たにしていた。
(……いやぁー。 なにかあったら向こうのおばあさまやヴァルムさんに泣きつく気満々な私には耳の痛い話だったぜ……――でもほら! ゼクスは『頼って欲しい』って言ってたわけだから、ちょっとぐらい頼っても……――うん、ちょっとだけだから……)
◇
そんな楽しかった勉強会から数日――
学院に登校したリアーヌは廊下を行き交う生徒たちの姿を眺めながら廊下を歩いていく。
(ユリアが来てから、ウワサ話してる子たち極端に増えたなぁー。 ――ま、目立つ行動多いし話題には事欠かないよねー……)
そんなことを考えながら、なんとなく聞き耳を立てながら廊下を歩いていくリアーヌ。
――現在、学院の中ではユリアに対する、とあるウワサが流れるようになっていた。
いわく……
『なぜだかは知りませんけれど……ーーあの方がイタズラされるものや盗まれるものの中に、本当に大切にしているものは絶対に入らないらしいですわよ……?』
だとか、
『部屋を荒らされたっていうのに、されたことは服を床に散らかされただけなんだって! ……別に不幸を願うわけじゃないけど……ちょっと、お粗末じゃない……?』
というもの。
――つまりは、ユリアの自作自演を疑う者たちが増えてきていた。
そのウワサを爆発的に広めたのは、ユリアの部屋が誰かに荒らされた際、ユリアが大切にしていたスクラップブックや家族からの手紙にはなんの被害もなく――もっと言ってしまえば、服は床に投げ捨てられただけで大した汚れも無く、部屋自体も少し家具を荒らされた程度で、なんの被害も無かったことが原因だった。
(――まぁ? 鍵をかけたはずの部屋が誰かに荒らされてたらそれだけで恐怖だけど……――話を聞く限り、ちょっと生ぬるいよねぇ……? だって、イメージとしては服はズタボロ、踏みつけられた跡とか付いちゃってて、大切なものは全部壊されて――ってのが普通……というか王道? ……まぁ、犯人がお嬢様方たちだったらワンチャンありそうだけど……――なんなら私が受けたイタズラより生ぬるい気がしてるんだよね。 ……だって犯人はユリア傷つけたくてやってるわけでしょ? ……じゃあやっぱり違和感じゃない⁇)
そして、そんなことを思っていたリアーヌすら、思わず(ごもっとも⁉︎)と納得してしまったウワサが――
『――大体、守護のギフト持ちなんでしょ? なんでこんなに被害に遭ってるわけ?』
という意見だった。
(――正直、盲点だった……だってゲームですらガッツリいじめられてた子だったから……もう主人公イコールいじめられる子、的な構図出来上がってましたよねー……守護のギフトが嫌がらせを防いでくれるかどうかは……――どうなんだろう? 大きい括りで見たら攻撃になるから防がなきゃダメ? でもそんなのでいちいち反応してたら日常生活送れないだろうし……――それとも『危ない! 守らなきゃ!』って強い思いがないと発動しないギフトなのかな? ……使う力も多そうだし、そう簡単には発動しないものなのかも……?)
そこまで考え、教養学科の教室にたどり着いたリアーヌは、気合を入れて口角を上げながらその中に入っていった。
目があった者や挨拶をしてくれた子に挨拶を返しながら、比較的喋ったりする良好な関係を築けているクラスメイトに仕草や手で合図を送り挨拶代わりにする。
席に着くとカチヤたちから鞄を受け取り、授業の準備を進めながらチラリと教室の出入り口に視線を走らせながらビアンカの到着を待つ。
――待ちながらそっと息を吐き出し、ほんの少しだけユリアを気の毒に思っていた。
(……ユリアの友達ってあの子だけって言っても過言じゃなかったのに……――アイツあの子になにしたんだよ……)
リアーヌはゲームの中で親友だった少女のことを思いながら、ほんの少しだけ眉をひそめた。
――リアーヌのこと態度には原因があり、昨日ようやく背後関係の裏付け作業が完了し、今回のユリアに対する嫌がらせの主犯がユリアのクラスメイトでもあり、友人のベッティ・レーレンであると確定したからだった。
以前から実行犯はベッティを含む、ユリアに近しい生徒たちだという報告は上がっていた。
しかしその背後に誰がいるのかまでは把握できず、誰が糸をひいているのかボスハウト家の総力を上げて探っていたのだが、その相手が全く見つからず、ヴァルムが子爵の助言を求めたところ「……この娘っ子が動かなきゃ被害は無さそうだぞ?」と発したことから探り直した結果、黒幕などはおらずただただ一人の生徒がクラスメイトに嫌がらせをしていただけだった――ということが判明したのだ。
(……ベッティはいつだって質問に答えてくれて、好感度とかまで調べてくれる良い子で……――攻略対象者の居場所もちゃんと教えてくれて……――あれ? これ友達か……? ――いや、いやいや! だって他に話しかける選択肢なんかなかったし⁉︎)




