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 二学期が始まってから半月程度過ぎた頃、いまだにお出かけ計画に余念のない友人たちを、自分の席で頬杖を付きながら眺めていたリアーヌは、近くに座っているビアンカに声をかけた。


「……最近かの方、教養学科来てないじゃん? なのに、なんであんなにお出かけしたいんだろう……?」

「レジアンナが望んでるってのも大きいんでしょうけど……――きっと楽しいんだと思うわ? 街中にこんな多くの友人たちと繰り出すだなんて、きっと二度は経験できないことでしょうから」

「――それは確かに楽しそうだけど」

「……それにかの方がこれから先も、ずっと大人しくしていてくださる保証はありませんし?」

「――縁起の悪いことを……」

 

(フラグという存在を知らないのか……⁉︎ ――まぁ知らないんだろうけどー……)


 顔をしかめたリアーヌに不可解そうな顔つきになったビアンカが口を開きかけた時だった。

 ――昼休憩も終わりの時間が近づいて、続々と人が移動し始めた廊下や教室。

 そこにいつもとは違う、サワサワとした少しのざわめきが広がり始めた。


「……ウワサをすれば、なんじゃなーい?」


 盛大に笑った顔を歪めたリアーヌがビアンカに言うと(そういうこと……)と納得しながらも、しっかりと保身に走った。


「――あら? その話を持ち出したのはあなたの方でしょう?」

「……え?」

「あなたが先よ」

「――……迷信は迷信だと思わない?」

「……そういうことにして置いてあげても構わなくてよ?」

「あざッス」

「……その返事は嫌い」

「――ありがとうぞんじます」


 教室内の変化に気がついた者たちは、授業が始まるまでの短時間で少しでも情報を得て共有し合おうと、行動を開始し始めていた。

 教室内の人物たちが忙しなく動き始めた頃、ゼクスが教室に入ってくる。


「――やぁ皆さま。 充実した昼休憩を送っていらっしゃいますか?」


 リアーヌたちに近づきながら、少し離れた所で相談を続けていたレジアンナたちのグループにも声をかけるゼクス。

 レジアンナはそれをゼクスの好意だと理解して、リアーヌのそばに移動した。


「――たった今、少々気分を害しそうな気配を感じ取っている所ですの。 ……気のせいだと良いんだけれど?」

「おや……もしかして私が何かしてしまいましたかね?」


 おどけた態度と口調で答えたゼクスにレジアンナはクスリと笑いながら肩をすくめる。


「男爵はイジワルね、理由なんてご存知でしょう?」


 その言葉にゼクスは笑い声だけで答え、集まってきたレジアンナの友人たちやリアーヌビアンカをグルリと見ながら少しだけ眉を下げ、自分が持っている情報を話し始める。


「……今回の原因もかの方です。 場所も相変わらずです」


 ゼクスは言葉を濁しながらユリアがレオンやクラリーチェがいる教室で騒ぎを起こしたことを伝えた。


「――最近は平和でしたのに……」

「きっと新学期にも慣れ、余裕(・・)が生まれたんじゃございませんこと?」

「……まぁ、それって――」


 レジアンナの言葉にその友人たちが意地の悪い笑顔を浮かべながらユリアを貶していく。


(……今の感じはユリアに男漁りの余裕が出来たんだろって言ってんだろうな。 ――言ってる内容自体には納得できるけど……――その言い方とかで、完全にこっちが悪者なんだよなぁ……)


 リアーヌは唇を引き締めながら、少し肩をすくめる。

 保身のために“なにも喋らない”という選択肢を取るようだった。


「……どうも、少々分かりやすい手段でクギ(・・)を刺した方がいるようですね」

「クギ……」


 ゼクスの言葉にレジアンナがピクリと反応する。

 それに肩をすくめただけで応え、ゼクスは話を続ける。


「あー……己の立場というものを、もう一度考えてみてはどうでしょう? ……という忠告と共に――可愛らしいイタズラ(・・・・)を?」

「あら羨ましい……」

「レジアンナ?」


 リアーヌは無言を貫こうとしていたのを忘れ、レジアンナにツッコミを入れていた。

 そんなリアーヌの呼びかけに、可愛らしくチロリと舌を見せ、クスクスと笑いながら答えるレジアンナ。


「あら嫌だわ、(わたくしが)ったら……」


 そんなレジアンナに周りの友人たちが同調するようにクスクスと笑い始める。

 その笑い声が収まった所で、ゼクスはようやく話の続きを話しはじめた。


「どこのどなたが忠告したのかはまだ掴めていませんが……――いらぬ詮索は皆様も望まれないでしょうから、一応のご報告を……と思いまして」


 ゼクスは言葉を選びながら「ユリアに嫌がらせしたやつが出たってさ。 ユリアはみんなが犯人だって疑ってるみたい。 関係ないと思うけど一応教えとくね」と伝えていた。


「……わざわざありがとうございます」

「いえいえ」

「――どちらの方か分かりましたらリアーヌにも教えてあげますわね?」

「ありがとう……?」


 リアーヌに笑顔で話しかけたレジアンナはそのまま壁際に控えるメイドにチラリと視線を走らせた。

 その視線に小さく頭を下げそそくさと教室を出て行くメイド。


 根も葉もないウワサだからこそ、嫌疑を向けられた側がしていないことを証明するのは難しい――ならば真犯人を特定することのほうが、容易だとレジアンナは判断したようだった。

 情報提供の礼がわりなのか、特定した人物をゼクスにも伝える約束を取り交わす。

 ――リアーヌだけはよく理解できていなかったが、ビアンカが隣でその会話を聞いていたゼクスにはキチンと伝わっているかまわないのだろう。


「――今日、一緒に帰ろうね?」

「ぇ、あ……――はい?」

「じゃあ放課後」

「はい……」


 ゼクスとしては、ミストラル家の情報網ならば放課後まで待てば実行犯程度は見つけられるであろうと考えてのことだったが、リアーヌは首を傾げながら(今日はなんの話し合いするんだろう……?)と、疑問符を頭の周りに飛ばしているようだった――

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