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 ◇


 夏休暇も終わり残暑残る中、リアーヌの学院生活二年目、二学期が始まっていた――


(……学校が始まったばかりだっていうのに、なんでこの人たちは脱走の計画ばかり立てているんだろうか……)


 リアーヌは遠い目をしながら、友人たちが盛り上がっているのを眺めていた。


 今日は休暇中の報告をしあうという名目で、みんなでカフェテラスで昼食をとっていた。

 ――のだが、休暇中の話など早々に打ち切られ、大通りに繰り出す許可は降りそうか? 親の説得はどの程度進んでいるのか? という話になっていた。


(……あんまり社交に積極的じゃない私だって、休暇中にこの人たちとお茶会や勉強会したんだから、もうそれで満足しておけと……お茶会で家有名店のお菓子並べれば、ほぼ店ってことで、みんな納得したりしないかな? ――しないんだろうな……)


 きゃっきゃと盛り上がりながらも、親の説得が進んでいる者たちからコツや説得方法を聞いている少女たちの目は至って真剣だ。


(……これに行く原因が、どこぞの専門学科の新入生に対するストレスだっていうなら、休暇明けの今は休暇中に充分リフレッシュしてきているはずなんだよなぁ……いや、私だってみんなで遊びに行くのは全然良いんだけどね? こんな大人数でワイワイとか楽しそうだし……――でもさ? みなさんもう絶対に『言い出したのはリアーヌ』とか『リアーヌが責任者』的なスタンスでいらっしゃいますよね? なにか問題が起こったら私の責任にする気マンマンですよね⁉︎)


 そんなことを考えながら笑顔を貼り付けていたリアーヌに、ビアンカがコソリと声をかける。


「――気乗りしませんの?」

「……なにかしらの問題が起こった場合、最終的な責任を取らされるためだけに同行を求められている気がしてならない」

「――……そんなことあるわけないじゃない……!」

「さすがにその笑顔はウソだって分かるわー……」


 顔を歪ませながらジトリとした視線を向けるリアーヌに、ビアンカは小さく肩をすくめて紅茶のカップに手を伸ばした。


「――あなたがなんと言おうと、言い出したのがあなただという事実は変えられないわ? 今からしっかりと覚悟を決めておくのが良いんじゃないかしら?」

「そんなの一生決まらないもーん……」


 そう言いながらグデリ……と姿勢を崩すリアーヌだったが、すぐさま感じ取ったつま先の危険に、すぐさま姿勢を正した。

 そして無言のまま見つめ合う二人。

 ビアンカのほうはどこか満足げな空気を醸し出している。


「――安心なさいな。 今の話だと、よほどの奇跡が起こらない限り、今学期中は許可が降りないわよ」

「……そうなの?」

「いくら条件を付けたとしても、万が一がレジアンナやクラリーチェ様になにかありましたらどうしますの? ――皆様、その二つの派閥に属されていますのに……」

「――つまりみんなも責任なんか取りたくない……?」

「加えて言うなら、ミストラル家やシャルトル家だって、この程度のことで派閥の者たちを罰したくは無いはずよ」

「……そうなの?」

「――どう考えたって、首謀者はレジアンナ、そしてそれを止めらる可能性があったのはクラリーチェ様だけ――その程度のことはどこの家でも想像がつくわ?」

「――それ本当⁉︎」


 ビアンカの言葉にリアーヌの表情が明るく輝くが、その希望はすぐにビアンカによって打ち砕かれた。


「……なにかしらがあった場合、一番の矢面に立つのはあなたってことには変わりはないけれどね?」

「――詐欺じゃん……」


 再びグデリと姿勢を崩したリアーヌ。

 そしてその姿を見ながら、軽くため息をつくビアンカは心の中で言葉を続ける。

(……だからこそ、私はあなたのギフトに期待していますのよー――お父上譲りの『豪運』。 あなたの願いを叶えるため――レジアンナたちの許可が下りないほうに作用するのか、許可がおりた時あなたにいっさいの咎が無いように作用するのかは分からないけれど……ゼクス様の話を聞く限り、リアーヌが望まなくても幸運が舞い込むようになっている可能性は高い――頼むわよ……パラディール家が後ろ盾の私だけは、レジアンナの身になにかあるとフィリップの怒りを買う可能性が高いのよ……!)


 ビアンカはそんな内心の葛藤を丸っと隠しながら咳払いをして、リアーヌの背筋を正す。


「王都の大通り限定とはいえ、万が一が起こったら、文字通り国が荒れるもの……そりゃそう簡単には許可なんか降りないわよ」

「あー……レジアンナもクラリーチェ様も、実家大きいもんねぇ……?」

「そうね。 そしてそのせいでその二組の婚約が白紙に戻れば、その余波は計り知れないでしょう?」

「……ダメになっちゃったら代わりの人が必要……?」

「そりゃあね? ――そして……貴族ならば少しでも条件のいい家と縁付くべきだわ……たとえ婚約破棄を行うことになったとしても」


 ビアンカの言葉にリアーヌはヒュッと息を呑んだ。


「それって、つまり……」

「――婚約のかけ違いが行われることになるのよ。 ……私やあなただって例外じゃないわ? お相手のご実家が、うちより条件が良いと判断すればそうなる可能性は高い」


 そんなビアンカの意見に(……高そう。 業務提携なんかたくさんしてるけど、そこは商人だもんなぁー。 それはそれ。 これはこれとか言いましそう……)と納得してしまったリアーヌは思い切り顔をしかめる。


「――そんな危険があるんだから、そう簡単に許可なんか降りないって話よ」

「……いっそのこと無期延期にしない?」

「……なるように祈っててちょうだい」


 そう答えたビアンカの声色は、思いの外切実だった――

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