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「あ、いや……すまん」


 リアーヌの反応に、シンイチは気まずそうに言葉を濁しながら視線を逸らした。


「――うちから望む条件は金銭ではなかったので? ……今では実に良い縁を掴んだものだと、自分の幸運に感謝していますよ」


 ゼクスはリアーヌを見つめながら、ふにゃりと照れ臭そうに笑いながら言う。

 それをリアーヌは少し照れくさく感じながら前髪をいじる。


(――……いや、イイハナシダナー風にまとめたけど、この人当時は完全に騙し討ちしてきたんですけどねー? ――まぁ……今となっては、そこまで気にしてないんだけどさぁ……?)


 視線を揺らしながら前髪をいじっていたリアーヌは、チラリとシンイチを見つめた後、ゼクスに向かってそっとたずねた。


「それっぽっちじゃ無いですよね……?」

「――……まぁほら、商家に嫁ぐって考えれば、そんなもんなんじゃないかな……?」

「――ですよねぇー⁉︎」


 ゼクスの言葉にリアーヌはホッとしたように同意する。


「いや、そこ平均以上……」


 呆れながらそう喋り始めたシンイチだったが、仲の良さそうなリアーヌたちの姿に(……別にそんなこと、どうでも良いか)と考え直し、少し芝居がかった口調で話を変えた。


「いやぁ……――その、誤解しちまって悪かったな? ……金の話だけじゃなく嬢ちゃんのこともさ?」


 へらり……と笑いながら、すまんすまんと顔の前で手を立てているシンイチの仕草に少しの懐かしさを感じ、和んだリアーヌはフンスッと一つ鼻を鳴らすと、少し芝居がかった口調で「分かれば良いんですよ」と、大袈裟に胸を張った。

 その冗談めかした態度から、気分を害しているわけではないと理解したのか、シンイチはホッとしたようにヘラリ……と微笑みを浮かべた。


「いやぁ……――人の好みなんて分かんねぇもんだなぁ……」


 ポソリと呟かれたシンイチの言葉に、リアーヌの顔が盛大に歪む。


「――精神的に苦痛を感じたので慰謝料としてもう一割値引いて――」

「悪かった! 謝るっ!!」


 ぶっすりと頬を膨らませるリアーヌの言葉にシンイチが慌てて声をかけ、ゼクスもリアーヌを宥めるように声をかけた。


「……リアーヌ、本当にそんなに引いちゃうと、次からの取引消える可能性があるから……」


 そんな二人の説得に、リアーヌは面白くなさそうにフンッと盛大に鼻を鳴らしたのだった――


 ◇


 宿の部屋の中――

 早いものでリアーヌたちがアウセレを旅立つ日になっていた。

 帰り支度をしているアンナたちを眺めながら、リアーヌは最後のアウセレ料理として、屋台で買ってきた食べ物たちを堪能している。


(お土産はこれでもかってぐらい買い込んだし、お米や味噌、昆布にかつおぶしもたくさん買ったから、これでおにぎりとお味噌汁ぐらいは向こうでも食べられる!)


 そんなことを考えながらオム焼きそばを堪能していたリアーヌの元に、ゼクスからの伝言を預かってきたと、ラッフィナート商会の人間が訪ねてきた。


 伝言の内容は『運良くアウセレの固有の植物や木の苗が手に入ったので、良かったら花園でお使いください』というもので、その場ではにこやかにお礼の言葉を返したリアーヌだったが、扉が閉じた瞬バツが悪そうに顔をしかめた。


「――わたし……木の苗探すとか、そんな気全くありませんでした……」


 そう言いながら渡された苗のリストが書かれた紙に視線を落とす。


(桜に梅にもみじ……それから竹に曼珠沙華……ゼクスさんってば仕事が出来すぎる……たけのこは一家総出で掘りに行こう。 そうしよう……――うちの花園に千本鳥居的なの勝手に作ったら怒られるかな? 紅葉で真っ赤に染まった道を抜けた先には千本鳥居があって曼珠沙華が満開――的な。 やば。 その光景、私が見たいんだけど! ……それもこれもゼクスが見つけてくれたからこそ、なんだけどさ……)


「……今回は奥様から頼まごとをされたわけではございませでしたから……」

「花園もだいぶ入園者が増えて、見どころも充実してきましたし……な?」


 アンナたちも考えに無かったのか、少しバツが悪そうに顔を見合わせていた。


「――これ、お返しとかお礼は向こう着いてからで大丈夫ですよね?」


 少し心配そうにたずねるリアーヌにオリバーは首を傾げながら口を開いた。


「……この木の苗が、男爵からの“お礼”なのでは?」

「……なんに対する?」


 そんなリアーヌの言葉にオリバーは思いつく限りのことを挙げていく。


「まず、大きなところではタカツカサ家との強い繋がり。 それから酒問屋やスパイス問屋との繋がりもお嬢様がいたからこそ作れた縁です。 それ以外でも布問屋や、果物問屋とのそこそこの規模の商談がまとまったようですよ」

「……身に覚えのない商談にまで感謝されている……?」

「お嬢様と買い物に行って作った縁なので、お嬢様に感謝していてもおかしくないかと……」

「――私と買い物……?」


(つまり――布問屋は、袴や髪飾り買った所で、果物問屋は……――もしかしてメロン買ったとこか⁉︎ ……いやでも、ゼクスあそこのメロンを勝手にジュースやシャーベットにして屋台で売り捌いたら結構儲かったって話してたけど……――喧嘩にならなくて良かったね……? つーか……)


「――商人って、なんでも商談にしちゃうんですね……?」

「……商人というか――ゼクス様が、というか……?」


 リアーヌの呟きに、オリバーは困ったように笑いながら首を傾げ、その言葉にリアーヌは納得したように「あー……」と呻きながら大きく首を縦に振った。

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