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「――は?」

「え……?」


 リアーヌとシンイチは同じような表情と仕草、そして同じタイミングで、驚いたようにゼクスを見つめた。

 そんなリアーヌの反応にいち早く気がついたシンイチは、面白くなさそうに眉をひそめながら口を開く。


「……本人が驚いてっけど?」


 疑わしげなシンイチからの視線に、ゼクスはそっと視線を逸らしながら軽く肩をすくめる。

 そして大きく息を吸い込むと、気を取り直すように、吐息と共に言葉を吐き出した。


「あー……いわゆる生粋の(・・・)とは呼ばれないとは思いますが……――リアーヌは正真正銘のボスハウト子爵家のご令嬢です。 ……でしょ?」

「……まぁ、括りとしてはそうなりますね?」


 リアーヌは少し不本意そう頷いて、ゼクスの言葉を肯定する。


「……変わりもん同士で、似合いのカップルに見えてきたな……?」


 シンイチの言葉にゼクスはニコリと笑顔を浮かべるだけで答えた。


「――彼女が貴族だったんで、俺も貴族に食い込まないと、婚約が許されなかったんですよ」

「――俺その話知ってるわぁ……」


 ゼクスの言葉にシンイチは頭をのけぞるように抱えながらうめいた。

 詳しくはなくとも、有名商店の嫡男が貴族入りし、どんな名前の貴族と縁を結んだ――程度の情報は知っていたようだ。


「海外のことなのによくご存知なんですね……?」


 リアーヌは目を丸くしながらシンイチを見つめる。

 リアーヌからすれば、この国の有名な商店や紹介の名前どころか、この港を治めているタカツカサ家の名前ですら数日前に知ったほどだった。 そのため、海外で普通に暮らしているだけでは他国の情報など分かるわけがないと知っていた。


「ここいらにゃ、ラッフィナートと取引してるとこなんざ、ゴマンとあるからなぁ? そこの(ぼん)が貴族になって貴族と婚約だろ? ウワサにだってなるさ」

「――ラッフィナート商会の知名度凄いですね……?」


 リアーヌは驚きと尊敬が入り混じった眼差しをゼクスに向ける。


「今後の課題は、そこに男爵家も付け加えることだよねぇー?」

「男爵家には借金もありますし……?」

「――早く返したいよねぇー?」


 ラッフィナート商会の財力を少しでも減らすこと――

 それこそがラッフィナート男爵家を興す時の決め事であったはずで、ゼクスやゼクスの父、祖父母もそれを了承していたはずだったのだが――やはり商人の血が借金をそのまま受け入れることを拒否するのか、リアーヌの『借金は敵だ!』という考えに引きずられているのか、ゼクスは男爵家の借金を減らすことに、多大な意欲を見せていた。


 眉を下げながら借金について頭を悩ませている二人の様子に、シンイチはプッと吹き出し、クスクスと笑いながら肩をすくめた。


「なんだよ、俺は政略結婚だって聞いてたぜ?」

「……政略結婚、ですよね?」


 リアーヌはゼクスに向かって首を傾げながらたずねる。

 しかし、ゼクスがリアーヌに言葉を返す前にシンイチが言いにくそうに言葉を続けた。


「イヤだから……その、そっちの良い関係のほうじゃなくてだな……?」


(――政略結婚とは、良い関係だった……?)


 言葉を濁すシンイチと、訳が分からず首を傾げているリアーヌを見比べ、ゼクスは肩をすくめながら口を開いた。


「――彼女の持参金に目が眩んだ……もしくは、婚姻を足がかりに彼女の実家を乗っ取り、もしくは傀儡(かいらい)にしようとしている――ですか?」

「……その、うちの国の基準で考えちまうとな……? ――もちろん、そうは見えねぇから言ってるんだぜ⁉︎」


 慌てて言葉を付け足すシンイチニに、ゼクスは困ったように笑って返す。


(……持参金? ――そっか。 私が嫁ぐ側で、しかも貴族なんだから私が持参金持っていくのか……――え、ラッフィナート商会相手に、うちが持参金持ってくんです……?)


 持参金とは、娘や息子が嫁ぎ先、婿入り先で不遇な扱いを受けないよう、子供達に持たせる現金や財産のことだ。

 ――逆に、貰い受ける側が支度金を払う場合もあったのだが、この場合は金銭的な援助を見越した婚姻や身分が違いすぎる場合が多く……一般的には、あまり幸せになれないと言われていた――


「――うちに、ラッフィナート商会が満足できるほどの持参金を用意とか、できる気がしないんですけれど……?」

「……うち持参金なんか貰わなくても充分儲けてるよ……? ――知らなかった?」

「それは……知ってる気がしますけど……――いや、待てよ……男爵家としては借金いっぱいなわけだから……⁉︎」

「――なにに閃いたか知らないけどまちがってるからね?」

「えっ⁉︎ ――私の持参金で借金返済……」

「……リアーヌ、自分の持参金いくらか知ってる?」


 そんなゼクスの質問に、リアーヌは首を傾げながらオリバーたちを振り返った。


「えっと……百金貨――とか?」


 持参金は大金である――という知識だけは知っていたリアーヌは、自分にとっての大金を口にしたつもりだったが、ゼクスはモゴリ……と唇をすぼめ、シンイチは呆れたように小さく肩をすくめた。

 そんな中、アンナが軽く頭を下げながリアーヌの疑問に答えた。


「――ラッフィナート家たっての希望で結ばれた婚約ですので、持参金は五百金貨ほどでございます」

「そんなに⁉︎」

「それっぽっちで⁉︎」

「それっぽっち⁉︎」


 アンナの言葉に驚きの声をあげたリアーヌだったが、同時に驚きの声を上げたシンイチの言葉に、今度はギョッとしながら振り返る。

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