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「――実にいい取引となりました。 そうは思いませんか? ……フセヤ殿?」


 “フセヤ”と呼びかけられた店員は、差し出されたを見つめ、警戒心たっぷりにゼクスに視線を移しながら口を開いた。


「――兄さん、名前は?」

「申し遅れました。 私はゼクス・ラッフィナートと申します。 ああ……こちらでは、ラッフィナート・ゼクスでしたね?」


 ニコリと笑いながら自己紹介を始めたゼクスに、店員は思いきり頭を抱え「うっそだろ……」と呻くように言う。


「――お忙しいと聞いておりましたが、まさかこうしてシンイチ殿にお会いできるとは……偶然とはいえ、実に幸運(・・)でした。 しかもこんなスムーズに取引が決まるなんて……我が婚約者に頭が上がりません」


 ニヤリ……と笑いながら話を続けたゼクスは、リアーヌに向かいニコリと微笑みかける。


「……お知り合い?」


 いまだに「うあー……」と、うめいている店員――シンイチをチラチラと見つめながら、リアーヌは首を傾げる。


「お知り合いになりたかった方、かな?」

「……良かった、ですね?」


 リアーヌはいまだに呻き、頭を抱えているシンイチに、少し気を使いながらゼクスに声をかける。


(……この人的には良くなさそうだけどー)


「あはは、またリアーヌのお手柄だよ。 ありがとう」

「いやいや、そんな……」

「今回のお礼は屋台巡りなんてどう?」

「――ぜひ⁉︎」

「……そのついでに、うちで臨時に出したメロンシャーベットのお店も視察に行こうねー?」

「あー! あのシャーベット美味しいですよねー!」

「……――そのお店で気になることがあったらなんでも言って? ほら……これお礼だからさ!」

「ありがとうございます!」


 純粋に喜ぶリアーヌと、少しでも儲け話にあやかりたいゼクス。

 そんな二人の会話に水を刺したのは、ようやく頭から手を離したシンイチだった。


「……イチャ付くのは後にしてもらってもいいかー?」

「おや、これは失礼を?」


 その言葉を軽くいなしたゼクスに鼻を鳴らしながら、シンイチはリアーヌに視線を向けた。


「……この店、嬢ちゃんが選んだって言ってたよなぁ?」

「そう、ですけど……?」


 シンイチは今までに起こったことが全てゼクスのシナリオだと勘違いし、見事自分を騙して大幅な値引き交渉をやってのけたリアーヌに、苛立ちと賞賛が入り混じった声をかけた。


「初めから全部分かってたのかよ?」

「……えっと――私が喜ぶくらいには値下げしてくれるって確信くらいはありましたけど……?」

「くらいって……」


 リアーヌの答えにシンイチが顔をしかめた頃、その勘違いに気がついていたゼクスがニヨニヨと笑いを堪えながら口を開いた。

「――リアーヌはギフト持ちなんです。 今回はその能力でこの店を選ぶことができました。 ……誓って言いますが、今回私がやったことは、婚約者に付き添っておこぼれに預かっただけですよ?」

「ギフト――?」


 シンイチはそう呟きながら、ゼクスに視線だけで詳しい説明を求めた。

 普通ならばこんなに軽々しく聞くような話題では無かったが、今回の場合はゼクスから先に情報を出しているので、少しくらい踏み込んでも問題無いと判断したようだった。


「かまいませんね?」


 ゼクスはその視線を受け、一応の筋を通すためにアンナたちに確認を取った。

 それに軽く頷き返すアンナたち。

 それを見てリアーヌも話を合わせるかのようにコクコクと頷いて見せた。


「……じゃあ自分で説明してみる?」

「えっと……――やりくりの説明をすればいい?」

「うん。 俺から説明するより分かりやすいかなって……見えたことをそのまま説明すればいいと思うよ?」

「その程度の説明でいいのであれば……?」


 そう答えたリアーヌは、少し緊張気味にシンイチに向き直り、説明を始めた。


「えっと……私『やりくり』というギフトを持っていまして……」

「――やりくり?」

「使うと――主に、買い物とかでのお得な情報が見えたりします」

「お得……」

「この店を選んだのは、この店で嬉しそうにしている私が見えたからですし……――その……あんなに頑張ってしまったのは、私が買い物をして喜んでいたから……――満足できるぐらい値切れるんだと思ってしまいまして……すみません……」

「――あの値段まで値切れば、そりゃ笑いも止まんねぇだろうよ……?」


 笑い混じりに言ったシンイチの言葉にリアーヌは「あはは……?」と、愛想笑いで返す。

 そして数回「やりくり……」と呟いたあと、ふふふっと肩を震わせ始めた。


「……ふっハハッ! アハハハッ! ――あー……なんだよその能力? とんだ商人殺しじゃねぇか! クククッ……――あー……とんでもねぇ客もいたもんだ……」


 そこで言葉を切って、大きなため息と共にゼクスに視線を移し、大きく肩をすくめた。


「こんなことになるなら、もったいぶらねぇでさっさと会っとくんだったなぁ……」


 顔をしかめながらしみじみと言ったシンイチにゼクスも大きく肩をすくめて見せた。


「――ではそちらの要望もある程度はお聞きするというのはどうでしょう? 色々持ち込んでおりますよ?」


 その言葉にシンイチの目がギラリと輝いた。


「なにがある?」


 短く鋭い言葉でたずねられたが、ゼクスは満足そうに笑いながら口を開いた。

 ――ゼクスが思っていた以上の食いつきだったようだ。

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