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 しかし、急に元気を無くしてしまったリアーヌに調子が狂ったのか、店員はガシガシと頭をかきながら、少々乱暴な口調で言い放った。


「あーもう……まとめて値引いてやるから、んな顔すんな!」

「――! じゃあ生姜は大袋で一袋で、ローリエが小袋で五袋! あと胡椒は大袋二つ!」

「あー……――そうだな、じゃあ……まとめて――五〇でどうだ?」

「……端数切り上げた?」


 妙に切りのいい数字に、リアーヌはショボ……と眉を下げながらも、ジトリとした視線を店員に向けた。


「……四九と六銀だ」


 図星だったのか、店員はバツが悪そうに顔をしかめながら言い直した。


「端数切り捨て……」


 やはり切り上げられていた! と考えたリアーヌは、咄嗟にいつもの調子で答えていた。


「切り捨ててこれだろうがよ⁉︎ どこの世界に六銀を端数にするヤツがいるんだよ⁉︎」

「……いない、ですかね?」


 店員の言葉に少し納得しながらも、端数を切り上げられていたことに引っかかっているリアーヌは、窺うようにゼクスに視線を向けた。


「……入る場合も、あるにはあるけどね……?」


(――ただ、こんな少額のやり取りじゃ絶対に切り捨てにならない桁だけどー)


「兄さん……あんた、そろそろ切り上げろって……」


 店員はこの期に及んでリアーヌを助長させるようなことを言うゼクスに、裏切られたかのような視線を向けながら言った。


「いやぁ……一般的に入る場合もあるのかなぁと……」


 店員の視線に苦笑しながら肩をすくめるゼクス。


「あーっ! ったく……オーケー分かった! 四九だ!」

「やったぁーっ!」


 青年の言葉にリアーヌが腕を振り上げて飛び跳ねる。

 それと同時に「おおおおー⁉︎」とギャラリーたちから歓声が上がる。

 要求が通った嬉しさや、宿題をやり遂げた開放感からか、リアーヌは満面の笑顔でギャラリーたちの歓声に腕を振り回して応える。

 陽気な者たちが多いのか、集まっていた多くの者たちはそれに手を上げ返すと、ケラケラと笑いながら愉快そうに散っていく。


(――なんか私、今ものすごい人気者っぽい!)


「おーおー……味方までわんさか付けやがって……――兄さん、次はもうちょい早めに止めてくれや……」

「あはは、これは彼女のおつかい(・・・・)なものでして……――でも良かったねリアーヌ? 大勝利だよ」

「……本当ですか?」


 リアーヌは少し不安げにたずね返す。

 ゼクスに止められる前の自分の言動が正解だったのか、自信が無いようだった。


「……危なっかしいトコもあったけど、最終的には上手い落とし所に収まったと思うよ」

「――なら、良かった……」

 ゼクスの言葉にホッとしたように、えへへーと笑うリアーヌに、ゼクスもへにゃりと笑い返す。


「ったく……――それで? 荷物は兄ちゃんが持つのか?」

「それは俺たちが」


 店員の言葉に反応したのはゼクスの護衛たちだった。


「――おう……?」


 一歩進み出したその護衛に大きな荷物を受け渡しながら、店員は首を傾げた。

 その護衛が荷物を肩に担ぎ、馬車は運ぶ背中をチラリと見つめながら、ゼクスはにこやかな笑顔を浮かべながら、その店員に話しかけた。


「――ついでに俺も買っていっていいですか?」

「……今日は厄日かよ……」

「もちろん……同じ値段で構いませんよね?」

「兄さん、そりゃ――」

「おや……それじゃ……昼食が遅くなっちゃうかなぁ……?」


 ゼクスは芝居が勝った様子で眉を下げ、言外に「希望額になるまで俺も粘りますけど?」と伝える。

 店員は思い切り顔をしかめながら再び髪を掻きむしる。


「あーもう……なんつー客に捕まっちまったんだか……――嬢ちゃんより少ねぇなら諦めな。 ありゃ少なく見積もっても大袋五以上になったからこその値段だ」


 手をパタパタと振りながらぞんざいな態度で言う店員。

 そんな店員に、ゼクスは楽しそうにニンマリと笑いながら口を開いた。


「――では三百で」


 その発言にピタリと動きを止める店員。

 しかしすぐにため息をつきながら呆れたように言った。


「――うちは量り売りはしてねぇ。 グラム買いがしてぇならよそ行きな」

「いえいえ、胡椒を大袋で三百お願いします。 あ、レッドペッパーとナツメグは大袋で二百にして下さい」

「……冗談だって言うなら、もう少し分かりやすい調子で言ってもらえるか?」

「あいにくと本気なんですよねー」


 ニコリと笑うゼクスの態度に、本気で買うつもりなのだと、ようやく理解した店員は、顔を引き締めながら口を開いた。


「――今は無理だ。 ここにはそんなに置いてねぇ」

「……それは数日の猶予があればスパイスを準備していただける――ということでいいんですかね?」

「ああ。 二日待ってくれ、準備させる」

「――では準備が整いましたら伝言をいただけますか?」

「……分かった。 どこに使いを出せばいい?」

「港近くにある波ノ屋と言う宿で――ラッフィナート商会と言っていただければ、確実に伝わります」


 そう言いながら、ゼクスはニヤリと意味ありげに微笑む。

 店員はゼクスの言葉にギョッと目を見開き、ハクハクと口を開閉する。


「……ラッフィナートだと?」


 そんな店員の態度にニヤリと笑ったゼクスは、握手を求めスッと右手を差し出しながら口を開いた。

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