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「はい! お祝いの時に食べる人もいますし、いくらやウニが乗ってるのは高級なんですよ⁉︎」

「いや、本当にお詳しい……」


 リアーヌたちのやりとりを聞いていた伯爵が感心したように言い、その隣で夫人も同意するように大きく頷いていた。

 それに謙遜するように答えたのはゼクスだった。

 ――本来ならばリアーヌが謙遜すべきだったのだが、自信満々に鼻を高くしたので苦笑しながらフォローを入れたのだ。


「知識だけですがとても勉強熱心で……――どうも、食に対しての興味がとても強いようで……」


 そんな冗談めかした言葉に夫妻は顔を見合わせて苦笑を浮かべ合う。


「……なんでも興味を持つことは大切さ、だろう?」

「そうですわね? ここまで興味を持っていただけて、アウセレ人として誇らしく思いますわ? ――それに……時間をかけて準備した料理をここまで褒めてもらえて、堪能してもらえるのはとても嬉しいことなのだと教えていただきましたもの」


 クスリと笑いながら夫人が言うと、伯爵も釣られるように食卓に並ぶ空の皿や器を見て、同意するように笑顔を浮かべた。


「どれもこれも美味しいものばかりで……――私もリアーヌも時間を忘れて食べてしまいました」

「喜んでいただけて光栄だわ?」

「とっても美味しかったです!」

「ふふふ なんとも微笑ましい二人だ。 次回の視察の時も是非、晩餐をご一緒に……」


 伯爵のその言葉をきっかけに、男性組と女性組に別れて、食後の話を楽しもうということになった。

 ――つまり、男性陣はここからビジネスの話を始め、女性陣は交流を深め情報の交換を始めるという合図だった。


(――くっ……一通り箸をつけたとはいえ、まだ食べ終わってないのに……! ――いやいけない! これは一応お仕事! それに結構お腹もいっぱいになってる!)


 名残惜しそうに料理を見つめながらゆっくり立ち上がったリアーヌに、夫人はクスクスと笑いながら声をかける。


「私たちはあちらで甘いものでもいただきながらお話ししませんこと?」

「――甘い……ぜひ!」


(さよならご飯! 残してごめんね? でもこれお仕事だから仕方がないの! ――そしてようこそ胃の隙間! 甘いものって別腹だって本当だよね!)


 キラキラと顔を輝かせながら、元気よく返事をしたリアーヌの後ろから、ゼクスが夫人に向かって声をかける。


「――お気遣い感謝します」

「気遣いなんて! 私だって甘いものは大好きなのよ?」

「――ほどほどにね?」


 釘を刺すようにリアーヌに話しかけるゼクス。

 リアーヌは少しだけ視線を揺らしながらコクコク頷いた。


「……もちろんですよ」


(――大丈夫。 いま隙間ができたところだから……まだ食べられるから……)




(――いやぁ……和菓子ってば最の高なんだもの……! 最中(もなか)もいいけどみたらしもね! あとわらび餅にどら焼き! 小さくってちんまりしてて、見た目も可愛かったけど、全部しっかりおいしくって……あー……緑茶がうめぇ……――あ、お茶も買って帰ろ)


「すごい幸せそうだね……?」


 リアーヌが和菓子を堪能していると、呆れたようなゼクスの声がかけられた。

 その隣にはクツクツと笑う伯爵の姿もあり――リアーヌはその時になってようやく、ゼクスたちの商談が終わったのだということを理解した。


(ぇ……ウソでしょ? え、お話し合い終わり? ――まだお菓子食べ始めたばっかりで……――え、食べ始めた、ばかり……?)


 リアーヌは少し顔色を悪くしながら、テーブルの上に用意されたお菓子の皿を見つめーーそしてその多くの種類を食べ終えているという事実をようやく理解した。


(――やっべえ……食べてばっかりで話なんてほとんどしてない……)


「えっと……その……」


 リアーヌは困惑させ、迷惑をかけたであろう夫人に申し訳なさそうな視線を向ける。

 しかし夫人はとても楽しそうな笑顔を浮かべてリアーヌを見つめていた。


「うふふっ リアーヌ様がとっても美味しそうに食べてくださるから……――ちょっと勧めすぎてしまったかしら?」


 楽しそうにコロコロ笑う妻に、伯爵も楽しそうに声をかけ、背後からその肩を撫でる。


「気に入っていただけたようで良かったね?」

「ええ! 選んだ甲斐がありましたわ? しかもリアーヌ様、本当に博識で「最中(もなか)の皮が焼きたてだ!」とか「緑茶にはこのぐらいの甘味が合いますよねぇ……」とか! 本当にアウセレのことにお詳しいの!」

「おやおや! これは料理人がますます喜んでしまうね?」


 楽しそうに会話を始めた夫妻に、リアーヌは身体を小さく縮めながら、囁くほどの小さな声で「……どれも美味しかったデス」と感想を伝えた。


「リアーヌ……」

「すみません……」


 ゼクスにたしなめるように名前を呼ばれ、さらに身体を小さくするリアーヌだったが、それはすぐに夫人によって止められた。


「あらダメよ。 リアーヌ様を叱らないであげて? 私は本当に光栄に思っているの。 ――人のことは言えないけれど、皆様どれほど頑張って料理やデザートを用意したとしても、ほとんど食べて下さらないでしょう? だから今回は努力が報われた気がして本当に嬉しいのよ?」

「……なんてもったいない」

「――リアーヌ?」

「あ、いえ、なんでも……」


(そうですね……? 伯爵夫人は喜んでくれてるみたいだけど、聞きようによっては『普通は一つか二つしか食べない』って言われてるようなもんですもんね……?)

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