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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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「――でもこれで少しは安心ね」


 しばらく空を見上げていたリアーヌたちだったが、大きく息を吸い込んだビアンカが深呼吸する様にそう言った。


「なの……かな?」


 リアーヌは心の中で(ヴァルムさんがこれで大丈夫だって言ったんだから大丈夫なんだとは思うんだけどさ……?)と考えながらも、いまいち何がどう安心なのか理解できず、曖昧にうなずいてみせる。


「陛下の認証を受けた契約よ? 当然ラッフィナート商会側から反故にできるわけがないし、王家だって簡単に反故にはできないでしょ? どう思っていようと国王陛下その方が認めた契約を否定できる人物なんかこの国に居ないわ――それこそ陛下自身だってね」

「確かに……?」

「私としてはパラディール家が横やりを入れにくくなったっていうのも大きいわ」


 ビアンカはそう言うと満足そうにニヤリと人の悪い微笑みを浮かべる。

 いつもの綺麗な微笑みを浮かべることを忘れるほど、上機嫌であるようだった。


「横やりも受けないんだ……」

「可能性は低いでしょうね。 どんな言い分を並べ立てたって、横やりを入れた時点で陛下のお決めになったことを否定することになるんですもの」

「……裏でコソコソやったりして……?」

「――その可能性は無いと言い切れないけれど……王家との交渉よ? いくら公爵家――いいえ、公爵家だからこそ代償は大きくなると思うわ」

「公爵家だから……?」


(――確かに、差し出せるものが他の家より凄そうではある……)


「――こうなった以上、ラッフィナート殿にいち早くお伝えすべきだと思うわ」

「えっ⁉︎ そうなの⁉︎」

 

 これまでの意見とは正反対と思える意見を言い出したビアンカにリアーヌは目を丸くしてたずね返した。


「横やりが入らなくなって、肝心の条件も分かった今、あなたに一番必要なものは強力な後ろ盾よ」

「……でも、もうすでに後ろ盾なんじゃないの?」


(だからこそ嫌がらせは無くなって、お茶会のお誘いがひっきりなしなんでしょ……?)


「だからこそよ。 事情があったとは言え、大切な後ろ盾に重要な事実を隠蔽してる状況でしょう?」

「……怒らせちゃうかな?」


 不安そうに眉を下げたリアーヌに、ビアンカも困ったように肩をすくめて見せた。

 普段は貴族然としているゼクスだったが、その本質はまごうことなき商人のソレであり、その判断基準を探るのが少々難しいと感じていたためだ。


「これだけ素早く契約を結んだのだから、本気で手放すつもりはないと思うけど……――契約の条件をラッフィナート商会にとって都合のいいものに変える――程度のことなら起こっても不思議ではないんじゃないかしら?」

「ええ、困るよっ! それに王様の許可があるのにそんな簡単に契約内容変えられるの⁉︎」

「――解釈を拡大させる、程度のことならば可能だと思うわ。 王家にも揺さぶりをかけられるほどの大商会でもない限り、叙爵の話なんか出てこないだろうし……」

「つまり、特大級のコネがあるってこと……?」


(――そりゃあるか。 だってうちにもあったぐらいだし……)


「いいこと? だからこそ、この事実を隠して色々根回ししたなんてことがバレる前に、さっさとラッフィナート殿に話を通して、厚い守りを確約してもらうのよ?」

「厚い守り……分かった、頑張る……!」


 ビアンカの言葉に、リアーヌは鼻息も荒く手を握り締めながら答えた。


「……本当にしっかり頑張りなさいね……?」


 本気で心配そうに念を押すビアンカに、リアーヌは不安に顔をこわばらせつつ確認する。


「え……結構ヤバい状況……?」

「あ、違うの。 そこまでの状況ではないのよ⁉︎」


 そんなリアーヌの態度に、ビアンカは慌てて手を左右に振りながら否定の言葉を口にする。

 そして少し迷いながら口を開いた。


「――ただ……相手は大商家の跡取りでしょう? ……あなたはちょっと――純粋だし……」


(……散々言葉に迷った挙句の“純粋”は、悪口だと思うんだけど……?)


 ビアンカはジットリとしたリアーヌの視線に気が付かなかったフリをしながら言葉を続けた。


「――いいこと? いくら雇い主だからって自衛しなくていいなんて話はならないの。 おかしいと思った契約は結ぶべきではないし、白紙にサインするなんて、もってのほかでしてよ⁇」

「さすがにそれはやらないって!」


 白紙にサインとはこの世界における、一般的な詐欺の手法だった。

 まっさらな白紙に、なんやかんやと理由をつけて署名をさせ、後からその紙に好き勝手な契約内容を書き込むと言う手口だったが、署名は本人が自分の意思でしているため、犯罪として立件しにくい手法だった。

 もちろんギフトを使えばウソだと証明することは簡単だったが――真実を見抜くスキルを持つ者たちは、その多くが貴族や王族に雇われていて、裁判のためにそんなギフト持ちを雇うことは予想以上に困難だった。


「新しい契約を付け加える――なんて話になってもすぐにサインせず、許されるならば一度持ち帰って執事に確認してもらうんですのよ?」

「分かった!」


 まるで小さな子供に言い聞かせるようなビアンカの言い方に、リアーヌも知らず知らずのうちに小さな子供のように元気よく首を縦に振る。


「おおー。 リアーヌ元気だねぇ?」


 急にかけられた言葉にギクリと身体をこわばらせた――いや、かけられた言葉自体に、ではなくその声の主に、だろうか。


「――ゼクス様……?」


 ギギギっとぎこちない動作で振り返りながら呟くリアーヌ。

 そのまま、まるで錆びついたブリキのような動作で、声のした方に視線を向ける。

 なんど瞬きを繰り返そうとも、そこには本日は一段と顔の良い未来の雇い主が、ニコニコとこちらを見つめながら立っている姿がそこにはあったのだった――


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