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「……え、そのまま食べるの?」

「――昔は食べてましたよ。 そして母さんに怒られてました」

「――昔の話、だよね?」

「……まぁ、あの子だって砂糖よりお菓子で、お菓子よりうちの料理人の作ったデザートだと思います」

「――良かった……」


 そんな話をしながらバザール内をプラプラ歩いていると、店に置かれる商品に少しづつ野菜やフルーツが混じるようになり、店の形状も布を貼ったテント状のものから、台車や荷車を使ったものに変化していった。


「……スパイスとかも結構安いですよね?」

「あー……バザールのはもう混ぜられちゃってるかもなぁ……?」

「――! 混ぜ物ってやつですね……⁉︎」


 リアーヌはそう言うと、警戒するようにスパイスを取り扱っている店の者たちを見つめた。

 そんなリアーヌにゼクスはクスクスと笑いながら手を振る。


「違う違う、たくさんのスパイスを合わせて、その店独自のスパイスにして売ってるんだよ」

「……独自?」

「同じような品物をこんな近場で複数の店舗で売ってるだろ? どうしたって客の取り合いになる」

「あー……」

「食べ物はその傾向が他のものより強いからね? だからその店独自のものを多くするんだ。 だからスパイスはちゃんとした店を構えた卸問屋で買い付けるのが安全だと思うよ?」

「なるほど……」

「うちでもスパイスは買い付ける予定だから、その時一緒に行ってみる?」

「えっ、まとめて交渉してくれるってことですか?」

「――それ、リアーヌにとってなんの練習になるの……?」

「……なりませんかね?」

「ならないだろうねぇ……?」


(……まぁ、ならないだろうな。 私が交渉する余地なんかないだろうし……)


「――っと……掘り出し物、かな?」

「……スイカ? すごいあんなにたくさん」


 二人の視線の先には大きめの馬車を店がわりに、大量のスイカのような果物を売り捌く店があった。

 荷台にも店先に並べられた箱にもその果物しか置いていないにも関わらず、その店先には結構な人数が品物を吟味していた。


 「あんな大きなスイカ初めて見た……」

「――あれは農家さんか、そこからまとめて引き取った仲買人だねぇ」

「……仲買人?」

「農家が売りにくい訳あり品なんかをまとめて買い取って、ああやって少しの手数料乗せて売る人のこと」

「――農家の人は、自分で売ればもっと高く売れるのに、安く他人に売っちゃうんです……?」

「その人からしたら、仕事が終わって更に仕事に出なきゃいけないんだよ? めんどくさいなぁってなるだろ?」

「それは……――確かに?」

「そこで登場するのが、うちのような商人ですよ。 農家は楽して訳あり品をお金に変えられて、商人は儲けられる……ウィンウィンな関係だろ?」

「なるほど!」

「見にいってみようか? 多分かなり安いと思う」


 ゼクスの言葉に満面の笑顔で大きく頷くリアーヌ。



「おっ⁉︎ 仲が良いねぇご両人! だが、うちのメロンだってお二人さんに負けねぇぐらい甘ぇぞ? どうだいおひとつ!」


 店員はそう言うと、ちょっと大きめの犬ぐらいありそうな大きさで、スイカのように黒と緑の模様を持つメロンを掲げて見せた。


「これメロンなんです……?」


 目を丸くしながら呟くリアーヌに、店主は少し首を傾げながらゼクスたちに視線を動かし、もしかして……と、迷うように口を開く。


「お嬢ちゃんら、もしかして旅行者か?」

「ディスティアスからです」


 店員の質問にゼクスが答え、リアーヌが笑顔で頷いた。


「そうかい! いやーそんな格好してるから、この辺に住んでる娘さんかと……――いや、よく似合ってる! 着付けも完璧じゃねぇか」


 店員に褒められ、リアーヌはまんざらでも無さそうに、身体をくねらせながら「えへへー」と喜びを表した。


「良かったね?」

「はい!」

「――それで、これはメロンなんですか?」

「おうよ! この国でも一部の地域でしか作られてねぇジャンボメロンだ! 食ってみてくれよ! 本当に甘ぇんだから!」


 店員はそう言うと、リアーヌたちの答えも聞かずにその大きな実を大きな包丁でスパスパと捌き、リアーヌたちに一切れずつ配っていく。


「――甘い⁉︎」

「思った以上に美味しいね?」


 顔を見合わせて驚きの表情を浮かべる二人に店員は嬉しそうに声を上げる。


「そーだろそーだろ⁉︎ いやぁ……嬉しいねぇ? ここにあるのはちゃんと木で熟したメロンだからな! そこいらのとは甘さが違うんだよ! ……だからちっとばかし足は早ぇんだが……――それでも三日は持つ! どうだい一つ!」

「……そのジャンボメロンってここまで熟してなかったらどのぐらい持ちます?」

「あー……三週間――いやはっきり保証できるのは二週間ってとこだが……――あんまりでかい声じゃ言いたくねぇが……味は一段も二段も下がっちまうぞ……?」

「あー……」


 店員の説明にリアーヌは残念そうな声を上げながら肩を下げた。


「……ザーム様が好きそうなのにね?」

「はい……」

「――でも喜ぶんじゃ無いかな? こんな大きくてスイカみたいなメロン、貰ったら驚くし嬉しいと思うよ?」

「――ですかね⁉︎」


 その言葉に、ゼクスは(あの子なら食べ物はなんだって喜ぶんじゃ無いかな……?)と言う言葉を飲み込みながら大きく頷いて見せた。

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