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「あー……いやぁ、合うだの合わねぇだのの話じゃ無くてだな……?」
「別の色の方がいい……?」
困ったように言葉を濁す青年に、リアーヌは首を傾げながら思いついたたことをたずねる。
「いや、そういうことじゃなく……――あのな?」
答えを濁していた青年だったが、首を傾げるリアーヌとゼクスに、常識が違うのだと理解して、ゆっくりと唇を開いた。
「――この形……ここまで大きいリボンは、お嬢ちゃんよりもだいぶ若い嬢ちゃんらが付けるもんなんだ。 似合うとかそういう問題じゃねぇ。 嬢ちゃんらの国に帰れば好きに付けてかまわねぇと思うが……この国で付けてると……ちょっと変な目で見られるかもな……?」
「そう、なんだ……――じゃあ、別のにします……」
青年の話にしょぼんと肩を落としたリアーヌは残念そうに呟いた。
(……あのリボンめっちゃ可愛かったけどーー多分うちの国で言うところの『大きな花柄のドレスは子供っぽい』とか『年齢を重ねたらレースやフリル、リボンは控えめに……』とかの部類っぽい。 ――その国の常識なんだから変に思うなってほうが無茶なやつ……――教わった時は(なんじゃぞの変な決まり!)って思ったけど、今じゃ(その花柄結構大きいね? よく家族の許しが許したなぁ……)とか思っちゃうし……――そのぐらいには大勢と共有してる常識って身に染み込みやすいもん……――いくら旅先だからって、無理に付けてヒソヒソ笑われるのはイヤ)
「あれも貰おうよ? お兄さんが言ってたでしょ? うちの国なら問題ないって。 俺だってそう思うよ? ――リアーヌが気に入ったのが一番だって!」
「ははっそっちの兄さんが良いなら、嬢ちゃんがどこで付けようと問題ねぇんじゃねぇか?」
「……ゼクス様が?」
「詳しくお聞きしても?」
「どっちかっていうと、この国でこの髪飾りを付けてるような嬢ちゃんに不埒なマネするような男は……変態って言われるわな?」
「――そもそも婚姻まで手なんか出せませんが……?」
「……笑われませんかね?」
リアーヌは後ろを振り返りオリバーに確認を取る。
たずねられたオリバーは少し困ったような表情になりながらも、大きく頷いた。
「そもそもうちの国にそんな常識はありませんし……付けない理由が男性に対する配慮だというなら、お嬢様がそこまで気にされることはないかと……」
「……――じゃああのリボンのが欲しいです!」
「あいよー」
「あとはどうする?」
「……あ、そっちの金色の紐で出来た髪飾りと、そっちの布のお花を一緒につけたらおかしいですか?」
リアーヌの提案に、青年は驚きながらもその二つを組み合わせる。
「……二ついっぺん――へぇ? 良いんじゃねぇか? 嬢ちゃん趣味が良いねぇ?」
「えへへ……――ちなみにそれを更にさっきのリボンと合わせると、それはリボンの髪飾りでしょうか……?」
(問題なさそうな気もするけど、念のため……――だってこれ可愛いし。 誰にも文句言われず使ってたいし……――私のリボンが原因でゼクスがヒソヒソされるのもなんかちょっとだし)
リアーヌからの質問に、青年は唸るように「んー?」と言いながら更にリボンのが髪飾りと組み合わせ、色々な角度からそれを眺めた。
「……ここまで豪華になるとリボンが霞むは霞むが――……嬢ちゃん、気ぃ使いなくせに、どうあってもこのリボンが付けてぇんだな?」
「……だってそのリボンのが一番可愛いですもん。 ――あ、この髪飾りさっきの組紐にくくりつけて腰のワンポイントにしても可愛いですね⁉︎」
「――あり、だな……?」
そう言いながらアゴに手を当てた青年。
ゼクスはその青年の目がギラリと光り、商売の種を見つけたことを察知して、なんだかとても損をした気分になっていた。
「ふむ……小物で遊ぶってなら、着物はもっと地味目で良いんじゃねぇか? この矢絣なんでどうだ?」
(赤と白の初心者マークがいっぱい……――でもこれも可愛い! 大正ロマンっぽい!)
「……地味な着物だったら、このリボン付きの豪華な髪飾りでも目立たないですかね?」
「……あくまでも俺の意見だぞ? しがない露天の一商人の意見だが――悪くねぇ。 変わった着方で目を引くとは思うが、それは悪い目立ち方じゃねぇ。 それに嬢ちゃんにはよく似合ってると思う」
「……どう、でしょう?」
最後に意見をたずねられたゼクスは、困ったように苦笑を浮かべながら肩をすくめる。
「俺は気にしないって言ってるのに……――でも嬉しいし――すごく似合ってる」
「――えへへ……」
ゼクスからの言葉に、リアーヌは照れたように少し身体をくねらせる。
そんな婚約者の様子に、ゼクスはクスリと笑いながら青年に視線を移した。
「――では髪飾はその三点、あとそちらの矢絣の着物も追加でお願いします」
「……ちなみに着物だけで着るってぇなら帯も必要になるが……? あ、そこの金糸で桜の刺繍がしてあるやつなんてどうだい? それもお得なんだよー」
「……ではそちらも追加で」
「毎度ー!」
青年がそう声を上げた頃、アンナと女店主が店の奥から戻ってくる。
「お待たせいたしました」
「お買い物終わりましたよ!」
リアーヌの笑顔に笑顔で返しながら、アンナはオリバーの隣に控える。
「――どうだ?」
「……基本は覚えられたと」
「上場だな。 リボンの髪飾りは子供専用だが複数合わせて目立たなくすれば使用可能だそうだ」
「――分かりました」
小声で素早く情報交換を行うオリバーたち。
そんな二人をよそに、青年は祖母に向かって上機嫌に話しかける。




