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 リアーヌはそう考えながら笑顔を深めつつ心を落ち着ける。

 商談のノウハウは分からなくても、お茶会での交渉ごとの基本くらいは身についていた。


(とりあえず深呼吸、交渉ごとは落ち着いてから……アウレラの貴族って平民に優しい人ばっかりなのかなぁ……? それにしたってゼクスはラッフィナート商会の跡取りなわけで……――海外の店だから関係ないとナメてる……?)


「おや……それともその口は飾りなのですかな?」


 ニタリ……と意地の悪い顔で攻撃的な笑顔をリアーヌに向ける店主に、ゼクスは心の底からアンナたちの同室を断っておいて正解だった……とほんの一瞬遠くを見つめていた。

 そしてリアーヌに向かい困ったようにほんの少し肩をすくめる。

 ――それをゼクスの諦めの合図だと的確に理解したリアーヌはかすかに顔を歪め、そしてそれをすぐさま笑顔で覆い隠し心の中で毒づいた。


(リアーヌ学習。 ゼクスの「笑って座ってれば良い」はもう絶対信じない! ……えっとつまり、このおっちゃんは値切られたくなくて私に話をふってきているんだから……)


 リアーヌはゆっくりと深呼吸してから店主に向かい直り、ニコリと笑顔を浮かべた。


「――(わたくし)、お二人のお話を伺っていて、あなた様がとてもお優しい人だとお見受けいたしましたわ?」

「――ほほう?」


 嘲るように歪む笑顔で答える店主。

 その顔には隠しようのない侮りの色が滲んでいて(世間知らずの子供が……)という店主の脳内を映し出しているかのようだった。


「――なのでもう少しおまけしていただけます? 男爵家は今、資金繰りが厳しいんですの」

「――はい……?」

「あら! よろしいんですのね⁉︎ 嬉しいですわぁっ!」

「ぁっいや、今のは……!」


 慌てて否定する店主だったが、そこから会話を引き継いだゼクスの畳み掛けるような話術も加わり、想定以上の成果を上げることに成功した――

 リアーヌが口を開いてから5分も経っていない間の出来事だった――


(――正直者が一番だ、ってよく聞くけど、本当に正直に言ってみるもんだなぁ……?)




 カタコトと揺れる馬車の中、ゼクスはリアーヌに向かい申し訳なさそうな顔を向けていた。


「ごめんねリアーヌ、もうちょっと上部(うわべ)の――挨拶代わりみたいな取引ができると思ってたんだ……――俺が見誤ったせいで嫌な思いさせちゃったね?」

「最終的にスッキリしたのでそこまで気にはしてないですけど……――あの人、貴族の親戚でもいるんですか?」


 リアーヌからの疑問にゼクスは困ったように「あー……」と呟きながら、答えに迷うが、リアーヌからの疑問の眼差しに、諦めたように肩をすくめながら口を開いた。

「この国ってちょっと(いびつ)でね?」

「歪……?」

「うん――貴族として機能してない貴族が多いんだ」

「……貴族として機能してないってことは――昔のボスハウト的な感じですか?」

「……それ俺的には否定せざるを得ないんだけど……?」


 ゼクスはリアーヌの隣に座るアンナに視線を移しながら頬を引きつらせる。


「あ……――えっと、周りの人間に騙されて予算とか食い物にされてる感じですか?」

「――そもそも騙されて奪われる金すら無い感じ……かな? 事業が失敗したとか、トラブルの賠償金が莫大すぎて支払いきれない……とかね?」

「あらら……」

「そんな貴族に金を持ってる平民が金を出してやる。 さっきの店主もそんなことしてる奴の一人なんだと思う。」

「……? アウレラの貴族は商人から援助してもらえる……?」

「……そんな優しい関係じゃないよ? ――金が無いならくれてやる、だからうちの店が有利になるよう取り計らえよ? って後ろで操るんだよ。 ここの貴族もお抱えを作ってそれを保護してるからね」

「……保護されてる店の方が貴族を操る……?」

「――そんな貴族や商店、資産家が一定数いるんだ」

「……え、国としてはノータッチですか? そんなの階級制度崩壊の第一歩ですよ?」

「この国の王様の考えは分からないけど……そこに手を出そうとしたら、決して無視できない数の貴族がお取り潰しになるわけで……――そう簡単には手が出せないんじゃないかなぁ?」

「……そういう首の回らなさっぷりも昔のうちみたいですね……?」

「――だから俺は絶対に同意できないんだって……!」

「あー……」


 ハッと口を押さえたリアーヌはチラリと隣のアンナに視線を走らせた。

 アンナは困ったように「昔のことでございますから……」と言いながら微笑んで見せた。


「もちろん名実ともに貴族――金回りのいい家も沢山あるし……――ディスティアスにもそんな関係の貴族や商人がいないわけでもない……――ただこの国は……そんな話がちょっと多いんだよね」

「……あの人、全力で煽ってきましたもんね?」

「俺だって男爵とはいえ現役の貴族、それに加えてラッフィナート商会の跡取りだろ? ……あんな扱い受けるとは思ってなかったよねー……」

「――思いっきりナメられてましたね?」


(……まぁ、ナメられてたのは私も、だけどー)


 その言葉に頷きながらため息と共に肩を落とすゼクス。

 しかしすぐさま大きく息を吸い込むと、その口元をニヤリ……と大きく歪ませる。


「――でも! リアーヌのおかげで大満足の取引が出来たよー! ちょっとナメられたぐらいであの値段まで落とせるなら、あと二、三回ナメて欲しいぐらいだね!」

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