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 ◇


 商談相手となる酒問屋の店舗兼事務所前、そこに到着した馬車の中でゼクスたちは最後の確認を行なっていた。


「もう一回確認ね? 約束通り見学だけだよ。 挨拶が終わったら、リアーヌは座ってるだけ」

「お口チャックは得意です!」


(扱える単語は少し増えたけど、私の社交の基本スタイルは今でも笑ってごまかす、です!)


「うん。 なんか貴族とも取引あるところっぽいからいつものお嬢様スマイルで乗り切って欲しい」

「……本当に喋りませんけど大丈夫ですよね?」

「むしろ喋らないでほしい、かな……? 商談じゃ、一つの返事が命取りになったりするから――あまり意見をコロコロ変えると信用ならないやつってレッテルも貼られちゃうし」

「……そのあたりは貴族と同じなんですね?」

「どっちも信用勝負で、舌戦(ぜっせん)だからねぇ……そう言った意味では似てる(・・・)のかな?」

「――それ以外でもフォローしてくれますよね?」

「言質さえ取られなきゃなんとかして見せる」


 力強く頷いたゼクスに、リアーヌは安心したように頷き返した――




(――完全にフラグだったじゃん……)


「お嬢様もそう思われるでしょう⁉︎」

「……うふふ?」


 もう何度目になるか分からない酒屋問屋の店主からの問いかけに、リアーヌは曖昧に首を傾げながら微笑んだ。


「――違うみたいですね?」


 そう答えたゼクスは冗談めかしながらケラケラと笑い会話を引き取るのだが、店主は「いやいや!」と粘りさらにリアーヌに視線を向ける。


(……なんかめっちゃ話しかけられますけれど⁉︎ いや、フォローはしてもらってるけど……――このおっさんめっちゃしつこい! これが商談じゃなくお茶会だったら、黙って席を立っても許されるレベルでしつこいんだけど⁉︎)


 リアーヌは戸惑いながらゼクスに視線を送り助けを求める。

 ゼクスのほうも精一杯フォローは入れているのだが、ここまであからさまにリアーヌをターゲットにしようとしてくるとは考えていなかったようで、その笑顔の奥に少しの焦りと不快感が見え隠れしていた。


(話引き取るのこれで五回目……六回目? どっちにしろ限界じゃない……? さっきから商談なんかが進んでるように見えないし……――大体、このおっさん私がゼクスの婚約者だって分かった瞬間から目の色変えて私に話しかけて来て――完全に私から失言引き摺り出す気満々ですよ……?)


 ――リアーヌの初めての交渉見学のお相手は、アウレラでも大きめの酒問屋の店主だった。

 アウレラの貴族相手にも商売をしているこの男はラッフィナート商会のことも、ゼクスの婚約者のことも知っているようで、しきりに子爵令嬢であるリアーヌを刺激するような発言を繰り返し続けていた。


「いやいや! そのお年で男爵になられ、そして子爵家とも縁を結ぼうとされるお方が! こんな値段まで値切ったと分かったら他の方々に馬鹿にされてしまいますよぉ?」


(……その発言はギリギリすぎない? ちょっとした軽口でしたー、じゃ済まないと思うけど……――なんならあそこの商人に脅されて……って()(ごと)言いえちゃうレベル……――え、これ挑発って認識で合ってるよね? 「商人にとってはこんなの挨拶代わりだよー」とか言ったりしないよね……?)


「ここには商人の端くれとして来ていますのでねぇ? 逆に評価してもらえるんじゃないかなぁ? ――どう思います? 未来の女将さん⁇」

「……うふふふふー」


 ゼクスからのパスを笑顔で受け止め、リアーヌは気を抜くと下がってしまう口角を上げ続けた。


「ふふっ僕と同じ考えだって言ってる?」

「ふふふー」

「あ、当たりだー」


 相手のペースに巻き込まれないようにするためか、まだリアーヌをからかっている余裕があるのか、ゼクスはこの商談中、ちょくちょくこんな風にリアーヌを構っていた。


「おやおや……男爵ともあろうお方が、私のような小物を牽制などせずとも……――あまり度が過ぎるとお嬢様が困ってしまいますよ? ――そうだ! お嬢様はどのようにお考えですか? 末端(・・)におられる男爵とはいえ、お嬢様の婚約者は貴族階級に身を置くお方……――やはりそれ相応(・・・・)の取引内容というものがあるとは思いませんか……?」


(いやぁー……流石に喧嘩売りすぎでは……? いくら貴族とやりとりしてるって言っても、この人自身は貴族でもなんでもない人なんでしょ……? ――つーか取引相手に男爵がいて、今の発言が耳に入っちゃったらこの人詰んじゃうけど……?)


「リアーヌは――」


 約束通りその話をゼクスが引き取ろうと口を開いたところで、店主は大きく笑いながら、強引に二人の会話に割り込んできた。

 身分差を考えてもあり得ない行為だが、その差が無かったとしても非常に失礼な行為だったのだが――店主としても一向に進まない商談にジレていたのかもしれない。


「男爵様、リアーヌ様とて立派なレディ、そのように可愛らしいお口も付いていることですし、自分の意見くらい言えますとも……そうでございましょう?」


 店主の言葉に曖昧に首を傾げながら助けを求めるようにゼクスを見つめた。


(……このおっさんが失礼なのは置いておいて、これ逃げ道塞がれてますよね……? ここまで言われて私が対応しないのダメじゃない? ――まぁコイツが超失礼なヤツってのは絶対に揺らがないんだけど!)

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