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「お嬢様! 急に走り出したら(あぶ)のうございますよ⁉︎」

「アンナさん! まずはおにぎりに行きましょう! その次がおそばです!」


 自分の肩に担がれながら、それでもジタバタとおにぎり屋を目指すリアーヌに、オリバーは怒りを通り越しながらハッキリと呆れた視線を向けながら口を開いた。


「……いい加減落ち着いて下さいって……」

「うわぁ……いい匂い! たくさん食べましょうね!」


 そこかしこから漂ってくる美味しそうな匂いを、胸いっぱいに吸い込みながらリアーヌは瞳を輝かせる。

 そんなリアーヌを肩に担ぎながらオリバーはアンナに向かってげっそりとした声をかける。


「――次はうちの人間をもっと増やそう……二人じゃ無理だぞこれ」

「泣き言は後よ! いつまでも肩に担いでるわけにはいかないんだから! お嬢様! お嬢様しっかりなさってください⁉︎」


 そんなアンナたちの言葉を聞きながらリアーヌは頭のどこかで(あ、これあとで絶対怒られるヤツだ……)と感じていたのだが、それよりも目の前に広がる日本食に心を奪われ続けていた。


(もう本当いい匂い! これだよこれ! 日本食の匂い! ソースの焼ける匂い美味しい!)


 ◇


「――落ち着かれましたか?」

「はい……」


 ゼクスがタラップを降りしばらくした頃、ようやくリアーヌの興奮がおさまり、アンナからの注意を受けながらシュン……とその肩を落としていた。

 そんな婚約者に向かい、ゼクスは困ったように笑いながら声をかける。


「もう平気?」

「……わりと」

「急に走り出すのばダメでしょ?」

「ごめんなさい……」

「――次やったら帰る日までホテルでお留守番だよ?」

「絶対走りません⁉︎」

「……俺の手を離すのもダメです」


 そう言いながらリアーヌに腕を差し出すゼクス。

 リアーヌはその手に飛びつきながら大きく何度も頷いた。


「絶対離しません!」

「――……俺のそばから離れない?」

「離れません!」


 リアーヌの返事にニマニマと口元を緩ませたゼクスだったが、近くから聞こえてきたオリバーの咳払いに顔を引き締める。


「……これからは気をつけようね?」

「――もう食べに行っていい……?」


 伺うようなリアーヌからの質問に、ゼクスはアンナたちに視線を移しながら首を傾げる。


「どうなんでしょう?」


 その問いかけにアンナたちは視線を交わしたいながら諦めたような表情を浮かべる。


「……仕方がないんじゃないか? これで我慢は可哀想だろ」

「――そうですね」


 ため息混じりの答えにリアーヌが顔を輝かせるが、それにキッと厳しい視線を向けさらに言葉を重ねるアンナ。


「――ですが! お夕飯が食べられないほどはいけませんよ?」


 その言葉にリアーヌは視線を揺らしながらそっと口を開く。


「……私、お夕飯がここのでも……?」


 その言葉にアンナがピクリと眉を上げたのを見て、オリバーは大袈裟に肩をすくめながら口を開いた。


「お嬢様、ここはアウレラですよ? つまり宿の料理だって、全部がアウレラの食材を使ったアウレラ料理ってことですが本当に良いんで?」

「――ご飯も残さず食べます!」


 鼻息も荒く言い切ったリアーヌに、ゼクスはボソリと「食べそう……」と呟いていた。


「――ほどほど、ということであればお好きなものを召し上がって構いませんよ」

「――本当ですか⁉︎」

「あくまでほどほど(・・・・)でございますからね?」

「やったぁー!」


 アンナの言葉に大きく両手を振り上げながら喜ぶリアーヌ。

 いつもならばそこで小言の一つでも挟むであろうタイミングだったが、アンナもオリバーもどこか疲れた様子で視線を送り合うだけだった。

 ――興奮状態のリアーヌを落ち着かせるために多くの労力を使ったからなのかもしれない。


「ゼクス様! 最初はおにぎりです!」

「はいはい……リアーヌ、料理は逃げないから……」

「売り切れちゃったらどうするんですか⁉︎」


 その後リアーヌは、大はしゃぎをしながらツナマヨのおにぎりと焼きおにぎり、そして少なめに盛り付けてもらった天ぷらそばなどを食べ、たい焼きやベビーカステラも買い求めてから、ようやく屋台街近くのベンチの一つに腰を落ち着けていた。


「――へー結構弾力があるんだね?」


 ゼクスはベビーカステラを齧りながら、意外そうな表情を浮かべる。


「甘くって美味しいですよね!」

「ソースもかかっていないし、中にクリームも入っていないって言ってたから、パンかケーキのスポンジみたいなものかと思ってたけど……――結構味付けがしてあるんだね?」

「ここのはハチミツ入りだから美味しいですよって売り子のお姉さんが言ってました!」

「――ハチミツかぁ……これ、向こうじゃ見ないし……花園のプチシューに並ぶ商品になりそうだね?」

「――花園に行ったらベビーカステラが毎日食べられる⁉︎」

「……飽きちゃうから一週間に一度ぐらいにしようね?」

「――好きな時に食べられるってことですよね⁉︎」

「特殊な形に加工した鉄板……銅板かな? あれが作れるか手に入るかすれば、だけどね?」

「探します⁉︎」


 そう言いながら立ち上がったリアーヌの腕を慌てて掴んだゼクスは「今じゃない、今じゃないから!」と言い聞かせながらリアーヌを再びベンチに座らせた。

 後ろで日傘をさしていたアンナがホッと息をつき、オリバーやゼクスの護衛たちはさりげなくその配置を、リアーヌ捕獲のためのものに切り替えた。

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