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「……――つまり、風持ちをもっと多くすば、割増料金で往復1週間も夢じゃない……?」


 新たな商機を見つけたと目をギラつかせるゼクスに、オットマーは呆れた様子で口を開いた。


「……いくら風持ち雇ったって、嵐に見舞われたら迂回するか無理やり突破するしかありませんぜ? 復路で(まく)れりゃ良いですけど……――捲れなかった時は違約金でも支払うんですかい?」

「――あー……嵐かぁ……」

「それに今回は坊や嬢が乗ってたんで、今回がいつもより風持ち多めの状態なんです。 いつもは俺と他一人ぐらいしか乗せてませんよ」

「……船長が使えちゃうとそういう配置になるのか」

「風持ちは有事の際にしか必要になりませんからねぇ? わざわざ風持ち雇うなら水持ち増やしたいッスねー」


 肩をすくめながらそう答えたオットマーの意見に納得してしまったゼクスは、肩をすくめるだけで返事を返した。


 ――そんな時、甲板に上がってくるためのドアが開き、中から少しおめかしをしたリアーヌが出てくる。

 それに気がついたゼクスは、すぐにリアーヌの元に行くと、エスコートするように自分の手を差し出した。


「ずっとお天気良くって気持ちよかったですねー?」


 気持ちよさそうに潮風を吸い込んでいるリアーヌに、ゼクスはクスリと微笑みながらからかうように言った。


「……普通のご令嬢は潮風とか嫌がりそうだけどね?」

「……え、そうなんですか?」


(でもみんな海好きだよ⁉︎ 海水浴……は聞かないけど「浜辺をお散歩しましたの!」とか「婚約者と散策して貝殻を……」とかキャッキャッしてるよ? 休み明けなんかほとんどの口から浜辺って単語を聞きますよ⁇)


「――リアーヌは嫌じゃないの? ほら……髪とか肌とかがさ……?」


 リアーヌから視線を逸らし言いづらそうにしているゼクスに、不思議そうに首を傾げた瞬間、ようやく察しがついたリアーヌ。


「あっ! ……お肌とかはスパとパックがあるんで、特に問題は感じてないです」


 一般的に潮風は美容に良くないとされていた。

 髪質を悪くし肌のトラブルも起きやすくなるものだったのだが、毎日きちんと手入れをしてもらっているリアーヌには、そんな問題は感じることすらなかった。


「スパが効いたんですかね? それともアンナさんの特別マッサージ……?」

「……やっぱりリアーヌ、自分の浴槽にもスパ使ってたんだね……?」


 リアーヌの言葉に、ゼクスは少しだけ遠い目をしながら呟くように声をかけた。


「はい――……ダメでした?」

「ダメじゃないけど――リアーヌ一体どれだけの力使えるの……?」

「……この船旅では割と使い切ってましたけど……――あ、でも昨日なんかは風魔法もスパも使うのにちょっと慣れたんで使い切るのがちょっと大変でした」


(昨日なんか、アンナさんやオリバーさんに回復とか沢山かけて、ようやく使い切ったんだよねー)


「――使い切るまでやってたんだ……?」

「力使い切ると、そのままぐっすり眠れるんですよ。 揺れで起きることもなく毎日快眠でした!」

「それはなによりだけど……そっか、だから船員たちのお風呂の準備まで手伝ってだんだね……?」

「スパ結構匂いますから、嫌がられるかなー? とか思ってましたけど意外に好評でした! ……お世辞かもですけど……」


 ニコニコと話していたリアーヌだったが、オットマーからの視線を感じ取り、少し迷うように言葉を付け加える。 (雇い主の御曹司の婚約者にあんまり文句とか言えないか……)と考えながら。


「いやいやいや! みんな大喜びでしたよ! 風呂だけでも嬉しいのに最近ウワサになってるスパでしょう? 思い込みかもしれませんが、いつもより身体が軽い気がするってウワサにまでなって!」

「……俺も毎日風呂に入れるとは思ってなかったなー……スパの良さにも気がつけたし――あれ普通のお湯より身体があったまるね? 血行が良くなってたから健康にも効くよ」

「――普通は毎日シャワーですか?」

「……それも海水のね」

「ぇっ……?」


 ゼクスの言葉にリアーヌは目を大きく見開いて絶句し、ゼクスはそんなリアーヌに頷きながら肩をすくめてオットマーを見つめる。


「――海水が嫌なヤツは身体拭いて終わりッスね?」


 リアーヌはその答えに、さらに瞳を大きく見開く。


「今回はリアーヌも同行してたから水持ちも入れてもらったけど、居ないことのほうが多いんだ。 そうなると船の上での水は想像している以上に貴重なものになる。 今回みたいに快晴ばかりの船旅なら余計にね?」

「あ、雨水……?」

「そう――今回に限っていてば、二日以上も予定を前倒しにしてるから水の心配なんてしなくて済んだけど、陸も見えて無いのに、真水を風呂になんか使えないよ。 飲み水が無くなったら命に関わる」

「――こんな真夏で肉体労働で風呂無し……?」

「……しんどいことは確かだけど、日に日に空になってく水樽見てたら、それでも風呂に入りたいなんて思えないよ――予定が後ろにずれ込むこともあれば……万が一の可能性だけど、遭難する可能性だってゼロじゃないんだ。 そうなったら発見されるまで今ある水で生き延びなきゃいけない」

「――遭難……スパが飲めるかどうか確認しときます?」


(一応あるよね飲める温泉。 ……――硫黄系の温泉だったのかどうかは覚えてないけど……)


 リアーヌの提案にゼクスはまだ鼻の奥に残るスパの匂いを思い返しながら、頬を引きつらせ「それは最悪の事態が起こってから考えよ……?」と提案した。

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