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 その視線がリアーヌの後ろ、アンナやオリバーに向けられていることに気がついたゼクスは、肩をすくめながら二人に話を振る。


「それでリアーヌの気分が良くなるならかまいませんよね?」

「――外にいるほうが(らく)そうですからねぇ?」

「お嬢様がお望みなのでしたら……」


 二人はそれぞれの言葉で異論が無いことを伝えた。

 二人からの言葉にオットマーはようやく安堵し、ホッとしたように息をつきながら甲板少し後ろの一角、柵で囲われたスペース似向かって声を張り上げた。


「おーい! 臨時の助っ人が来たぞー!」


 その言葉に甲板に座り込んでいた男性たちが「おおおっ!」と、嬉しそうに歓声を上げたのだった。




「――今度は水平線に対して船が左に傾いただろ?」

「右から風当てる?」

「そうだ。 この傾きが無くなりゃ揺れは少なくなる」

「……っ――でも揺れるは揺れるね?」

「ははっ船だからなぁ? でかい波に乗りゃ揺れるわなぁ?」

「嬢、力使わなくても地平線は見とけよー。 いつどうやって揺れるか分かってりゃ酔いづらくなるからな」


 リアーヌは風魔法での船の動かし方を教わりながら甲板に座り込み、目の前で風魔法を受け大きく膨らむ三本の大きな帆を見上げながら「ほへー……」と感心したような声を上げていた。


「……あの三本のどれに当てるとかは誰が決めるの?」

「あー……長いことやってりゃ、真ん中より前だなぁとか、もっと下からか……とか出てくるんだ。 そんな時以外は一番近い帆のど真ん中に当ててりゃ問題ねぇ。 どの帆だろうと風が当たりゃ船は進むんだ」

「そーそー! 大体、あの帆は自然の風を受けるためについてるもんだからな? 魔法で風を自由自在に当てるようじゃねーんだわ」

「――そっか」


 船員たちの説明に納得したリアーヌは、少しの傾きを感じ、その反対方向に風魔法を当てるため、手を伸ばし風魔法を発動させた。


 リアーヌや他の風魔法持ちたちの活躍により、この商船団は風一つない穏やかな海の上をスイスイと順調に進んでいくのだった。


(――リアーヌ覚えた! 船は自分で運転してないと酔う! 少なくとも水平線は見てないと無理! ……これって原理は車の運転と一緒なのかなぁ? 車酔いしやすい人も自分の運転では酔わないって話、聞いたことあるし……)


「おっと、お嬢ストップ。 ……風が出始めたが――……まだ弱ぇか?」

「これじゃ凪とたいして変わんねぇな?」

「んじゃもうちょっと当てる?」


 リアーヌは渋い顔で話し合う全員たちに向かい、首を傾げる。

 これには親切心も含まれていたが(中入ったらまた気持ち悪くなるかも……)という、打算も多分に含まれていた。


「……おう。 無理はすんなよ?」


 リアーヌからの提案に頷いた船員だったが、すぐさま仲間たちと視線を交わし合い、心配そうな顔をリアーヌに向けていた。


「――お嬢まだ力使えるか?」

「うん? まだ全然余裕だよ?」

「マジかよ……俺たちだって力の量には自信があるが……――お嬢が一番多いんじゃねぇか……?」

「貴族ってのはそんなとこまでスゲーのかねぇ……?」


 そんな全員たちの言葉に、リアーヌは全員たちの見た目からその年齢を推測し、自分の年齢と照らし合わせる。

 そして自分の中の仮説を説明するために質問を口にした。


「働き出したのって十年ぐらい前?」

「あー……十六ん時だから……そうだな。 十年ぐらいにはなるな?」

「じゃあ、力の量は大して変わってないかも。 私も十年前にはもう力使ってバイトしてたから」

「……は?」

「おいおい、お嬢、冗談ならもっと面白いヤツ頼むぜ?」


 一人の全員が肩をすくめながら言うと、その言葉に船員たちがヘラリ……と笑いながら「冗談かよー」「そうだぞ!」と、口々に言い始める――が、リアーヌも困ったように肩をすくめながら口を開いた。


「残念ながら本当なんだなぁー? ……お菓子が欲しければ自分で働いて手に入れるというのが、うちの決まりでした」

「スパルタ……?」


 そう呟いた船員の顔が「貴族なのに……?」と言っているように見えたリアーヌは、小さく声を上げながらさらに詳しい説明を口にする。


「あ、あのね、私元は庶民なの。 それも下町って言われるような王都の端っこで暮らしてたような」

「……庶民?」

「下町って……」


 怪訝な顔つきになる船員たちに(あれ、もしかしてこの話しないほうが良かった……?)と思ったリアーヌだったが(でも隠してることじゃないし……それにアンナさんたちからも止められないから……)そう思いながら、チラリと柵の外で控えるアンナたちの反応を確認しながら口を開いた。


「うちの父さんが子爵家に入ったのは、私が十五の頃。 だからそれまでは“平民のお嬢ちゃん”だったんだー」


 リアーヌのその説明に、全員たちは顔を突き合わせ小声で意見を交わし合う。


「……え? 確か坊の婚約者って教養学科のSクラス……?」

「貴族だって難しいって……」


 漏れ聞こえてきた会話に、リアーヌは苦笑いを浮かべながらふぅーと、長く息を吐き出した。


「……まぁ、その……――いわゆるスパルタ(・・・・)なので?」

「――いや、それでどうにかなるレベルかよ⁉︎」

「みえだけで生きてる貴族でも無理なんだぞ⁉︎」

「そこをなんとかしてくれたんですぅー! うちの使用人たちが凄いから!」

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