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「……いいもなにも……――だって彼……」


 そう言ってゼクスは男に視線を移し、その姿を上から下までじっくりと観察したあと、クスクスと笑い始めた。


「なるほど……リアーヌこの人が誰だか分かんないんだね?」

「――お、知り合い……――その、えっと……――お久しぶりですね……?」


(――待って⁉︎ このタイミングで知り合いだよ? とかある⁉︎ ――え、誰? この人どこであった人⁉︎ ……港か? 船乗りならセハの港で会った、ってのが有力? ハッ⁉︎ あの時はアンナさんたちも一緒だったから覚えてるかも⁉︎)


 リアーヌは前髪をいじりながら後ろを振り返りチラリと二人に視線を送るが、アンナたちも困惑したように視線を交わし合い目の前の男の素性を検討しあっている様子だった。


(――詰んだ!)


 もうなにも打つ手がないと悟ったリアーヌは、ヤケクソのように満面の笑顔を貼り付けて見せる。

 笑って黙っていれば相手が動いてくれる――授業で一番最初に習得したリアーヌなりの対処法だった。


「ぶふふ……本当に気が付かれてない」

「……坊、人が悪いですよ。 ――お久しぶりでございます。 お嬢様のおかげで、こうして船を持たせてもらえるまでになりました。 あー……髭や服装に関してはご勘弁を……――その船乗りの正装のようなものですので……」


 リアーヌはその喋りかたと『船を持たせて貰えるまで……』という言葉に既視感があった。

 しかしそれ以上は思い出せず、答えを求めるように肩を震わせているゼクスに視線を向けた。


「ーー会うのは風魔法をコピーした時以来、かな?」


 その言葉でようやく目の前の人物が自分に風魔法をコピーさせてくれた男性店員だということに気がついた。


「――えっ⁉︎ わぁ……なんか、別人ですね?」


 どれだけ思い返しても目の前の人物とあの時の男性店員が結び付かず、目を丸くするリアーヌ。

 ゼクスはそんなリアーヌの反応を見て、再びクスクスと笑い始める。

 そして男にからかうような視線向けて話し始める。


「ずいぶん人相変わったもんねぇ?」

「髭は船乗りのたしなみなんで?」


 ずいぶんと気安い関係なのか、男はゼクスに向かい、圧が強めの笑顔を浮かべながらぞんざいな口調で言い放った。


「そんなたしなみが……」


 リアーヌは初めて聞いた話に、感心したように頷く。

 ――そんなリアーヌの反応に、男は視線を揺らしながら曖昧に頷き返した。

 言われていることは言われていたのだが、髭を伸ばし、強面に見せる者たちが多かったことから言われて始めたことだったので、本気でたしなみだと考えている船乗りが少ないのも事実だった――


「リアーヌ、力を貸してくれたらボーナスとして向こうで好きなもの買ってあげる」

「――お刺身⁉︎」

「まだ諦めてなかったの⁉︎」

「だって美味しかったんですもん……」


 ぶぅ……と唇を尖らせるリアーヌにゼクスが呆れたように肩をすくめた時、近くでその会話を聞いていた男が「あー」と声を上げながら同意するように口を開いた。


「アウレラの魚料理美味いですもんねぇ? 最近じゃ生で食うやつも――」

「――少ないよねぇ? だって生だし!」


 ゼクスはその言葉を遮るように声を上げる。


「……え?」


 男――オットマーとしては、リアーヌたちの会話から、リアーヌがアウレラの魚料理が好きで、尚且つ食べたこともあるのだと認識し、それに相槌を打ったつもりだったのだが、そんな情報をリアーヌの耳に入れるわけにはいかないゼクスはに、睨みつけるような笑顔を向けられ「えっと……?」と、視線をうろつかせることになってしまった。


「食べる人いるんですか⁉︎」

「ええと……」


 これ以上ないほどに瞳を輝かせたリアーヌからたずねられ、オットマーは自分が口にすべき答えを求めて周りに視線を走らせる。


「――ごく少数のやつが、味見程度に食べただけ、だよね? ほとんどの人間は食べたりしないよ。 ――だって生なんだから」


 ゼクスが代わりに答えながら、オットマーに向けて『生はダメだ』と言外に警告する。

 それを受け、大きく首を動かしながら「――そうですね! 生で食うやつは少ないですよ!」と、わざとらしいほどの笑顔で答えるオットマー。


「……意見の強要とかイジメなのでは……?」

「ここで君をちゃんと止めないと、帰ってから俺がチクチクいじめられるですぅー」


 そんなゼクスの言葉に、リアーヌは面白くなさそうに顔をしかめ、アンナを振り返る。


「……食べる人いるみたいなんですけど……?」

「――火を通した料理はたくさんお召し上がりくださいませ」

「腹でも壊したら、食べたい! って言ってた料理まで食べられなくなっちまいますよ?」


 アンナにたしなめられ、オリバーから諭されたリアーヌは不満そうな顔を浮かべ、最後にもう一度ゼクスに視線を向けてぽそりと呟いた。


「ボーナスって言ったのに……」

「……カフェでアウレラのスイーツか軽食が食べられるようにするから、ね?」


(――……それはそれで有り寄りの有り……)


 リアーヌは顔をしかめつつも、嬉しそうに口元をモニョモニョと歪ませた。

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