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 ◇


 ボスハウト邸、リビング――

 ヨッヘムから提案をたずねるため、ラッフィナートに使いの者を出したところ、詳しい話が聞きたいから……と、ゼクスがボスハウト邸を訪れた。

 そしてその話を受けるかどうか検討するための条件の一つとして、ヨッヘムとの面会の希望を出した。

 その話を聞いたリアーヌたちは(せっかく涼みに行ったのに……)と、心の中でヨッヘムを不憫に思った。


 すぐさま家に駆け込んできたヨッヘムは

多少顔が赤く、いつもよりほんの少しだけ上機嫌に見えた。

 ――本人はゼクスを前に緊張していたようだったが。


「――その……お願いできますでしょうか?」


 子爵夫妻も同席した話し合いの席、ほんの少しだけ赤い顔にうっすら汗をかきながら、ヨッヘムはうかがううようにゼクスを見つめる。


「……お話自体は悪くないご提案だとは思ってるんですけれどねぇー?」


 含みを持たせつつ、ニコリと笑いながら答えたゼクス。

 その答えに一番に反応を返したのはリアーヌだった。


「本当ですか⁉︎」

「……うん。 このお話()ね?」

「……()?」


(すっごい含むじゃん……)


「うん。 リアーヌの練習に――って言うのも納得できる話だし、ボスハウト家のお抱えの店だしね? ――ですが、今回限りです」


 キッパリとしたゼクスの言葉は、ヨッヘムと自分との間に明確な線を引くものだった。


「――ま、それがいいだろうな。 アイツが良いなら俺も! とか、前はやってくれたじゃねーかよ、ってのは無しってことだ。 かまわねぇな?」


 ゼクスの言葉を肯定するように頷いたサージュが、ヨッヘムに詳しい注意事項を話していく。


「もちろんッスわ! 嬢にも言ったんだが、ダメ元の話、子爵様たちに迷惑かけてまで儲けようなんて思ってねぇんだ」

「――だそうだ」


 サージュはそう言いながらゼクスに答えを促す。


「リアーヌが経験を積むというお話はこちらとしても大歓迎です。 婚約の段階でそこまでの口出しはしにくいですし……ですが子爵様のご指摘通り、この話はあくまでも特例であると言うことだけ、理解しておいていただきたいと……――ボスハウト家から見ればお抱えの店でも、こちらから見れば商売敵(しょうばいがたき)ですので……」

「いやいや! 天下のラッフィナート商会とやり合うつもりなんか、これっぽっちも!」


 慌てるヨッヘムにゼクスはにこやかな笑顔を向けて答える。


「――ですが、この辺りにラッフィナートが店を構えることは不可能に近い……そう考えれば立派な商売敵と言えるんですよ」

「それはそのー……棲み分けというか――うちは小さな個人店です。 勝負になんてとてもとても……」

 へらり……と愛想笑いを浮かべるヨッヘム越しにサージュの姿が見え、ゼクスは思わず本音を吐露していた。


「――子爵が動けばどうなるものだか……」


 ゼクスは笑顔でごまかしながら、小さくボヤくように呟かれた言葉は隣に座っていたリアーヌの耳にもハッキリとは届かなかったが、なにか呟いたことは伝わり、リアーヌやヨッヘムはたずねるような視線をゼクスに向けた。


「んー? なんだヨッヘムの店に手ぇ出すのか?」

「いやいや、ボスハウト家と争うだなんてそんな恐ろしいこと出来ませんよー」


 困惑したようなサージュの言葉に、ゼクスはおどけたように答えるが、その頬はヒクリ……と、引きつっていたのだった――


「――あくまで、今回限り。 そしてそれはリアーヌが経験を積むためのものだった……ということを理解していただけるのであれば、こちらは問題ありません」


 気を取り直すかのように咳払いをしながら、最終確認のように言えば、ヨッヘムの顔がジワリジワリと明るく変化していく。

 その変化を見たリアーヌはようやくゼクスのお許しが出たのだと、笑顔で確認した。


「じゃあ、私が買い付けやってもいいんですね⁉︎」

「良いですよー」

「やったー!」


 両手を振り上げて喜ぶリアーヌ、そしてソファーの上でヘタリ……と気が抜けたようになっているヨッヘムが呆然と呟く。


「はぁ……言ってみるもんだわ……」

「――私頑張ってくるからね!」

「お、おお……――おう! せいぜい値切ってきてくれよ!」


 リアーヌの声に、ヨッヘムはそこが子爵家で目の前には男爵までいるという事実を思い出し、気合いで自分の背骨を伸ばしてみせた。


「頑張る!」

「――じゃあ……こっちが予算で、これがリストだ」

「――金五十……」


 ヨッヘムが懐から取り出し、テーブルの上に置いた皮袋を見つめ、リアーヌはゴクリと唾を飲み込んだ。


「――僭越ではございますが、お嬢様……」

「お願いします! 私にはこんな大金の管理とかムリです!」

「――念の為、あちらで中身の確認をさせていただければと……」


 そう声をかけたアンナにコクコクと頷きながら、ヨッヘムは席を立った。


「あ、リストもアンナさんに渡しとくか?」

「あー……それは貰う」

「はいよ。 あー……さっき値切れって言っちまったけど、良いモンを安く、だからな? 混じりモンは買わねぇでくれよ?」

「……買わないつもりだけど……――それってちゃんと見れば分かるもの?」

「――俺は分かるが……」


 不安そうな顔で見つめあった二人は、そろり……とそっくりの仕草でこの場で一番頼りになる人物に視線を移した。

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