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「……私のギフトのことが王家に知られたら、ボスハウト家の迷惑になりますか……?」


 その言葉を聞いたヴァルムは、不安に顔を曇らせるリアーヌを安心させるように必要以上に大げさに笑って見せた。

 そして肩をすくめながら「ありえない!」という態度を全面に出して口を開く。


「ご心配には及びません。 ――我がボスハウト家は王家に(つら)なる家系にございますれば」


 そうにこやかに紡がれた言葉に、リアーヌは安心するどころか、余計に不安に駆られた。


(――ヤバい。 ヴァルムさんのコレ本気かもしれない……大奥様になにか意見する時とかもそう言ってたの聞いたことあるし……でもそれって今から百年ぐらい前の大昔の話なんですよね⁉︎ 今さらその話を出したって「あーそっかぁ……遠い親戚なんだー。 じゃあ無理は言わないよー」とは絶対ならないよ⁉︎)


「……ほんのちょっぴり、言い過ぎなのかなぁーって思ったり……?」


 自信満々なヴァルムにチラチラと視線を投げかけながら、言いにくそうにモゴモゴと伝える。


 リアーヌの父が突然継ぐことになったボスハウト子爵家。

 “王家に連なる”家系ということ自体は、言い過ぎでもなんでもなく、このボスハウト家は公爵家として(おこ)った家だった。

 当時の王弟が分家を作ることを許され、新しい公爵家として王家を盛り立てる役目を与えられたのだったが――

 先代――リアーヌが“大奥様”と呼ぶ人のおっとり――が最強の自由人だった。

 各方面で不祥事やスキャンダルを量産し、内部外部問わず不和の種を撒き散らし、家の財産を食い潰し続けた結果、ボスハウト公爵家は先代当主の代で三回もの降格処分を受け、現在の子爵のまであっもいうまにあ転がり落ちた。


 ――先代の訃報が各家々に届けられた際、ほとんどの家で「とうとう奥方が……」「我慢の限界……」などという話がまことしやかに囁き合われたほどには――自由をこよなく愛した方だった。


 ――つまりボスハウト家が子爵家になったのはここ三十年程度の話であり、貴族にも王族にも公爵家時代を鮮明に覚えている者たちは確実に存在している。

 ……ゆえにヴァルムの言い分も、単なる“言い過ぎ”だとは言い切れなかったのだが――

 リアーヌや現当主の父たちの世代では、当時の記憶を持ち合わせている人のほうが少ないため、それに自覚を持てというのも到底無理な話だった。


「言い過ぎなことなどございません。 そもそも、貴き血筋がその他の血筋に劣ることなどありえません」


 キッパリと言い切ったヴァルムにリアーヌは自分の頬が引きつるのをハッキリと感じた。


(わあ……なんて差別的なご意見――! ……ただこの世界この考えが「本当それなー」で常識だったりする。 ――ギフト持ち同士の夫婦の間にはギフト持ちが生まれやすい。 だから貴族階級の者たちは、こぞってギフト持ちを自分の子供の相手に――と望むのだ。 ――だからこそ、主人公のハーレムルートが許されたんだって話をプロデューサーたちがしてたし……――公式、ではないけど、公式放送で言ったならほぼ公式なんでしょ)


「……時間がたくさん経ったら薄くなる可能性とかも……」


 リアーヌがやんわりと紡いだ言葉にヴァルムはニコリと笑いながら口を開くが……

 その笑顔は普段のおおらかで優しい笑顔とはほど遠いほどの圧を放っていた。

 それを肌で感じたリアーヌはキュッと身を縮こまらせてゴクリとツバを無理矢理飲み込んだ。


(――私、この世で1番怖い笑顔ってビアンカのだと思ってたけど……これはすでに殿堂入りレベルの恐ろしさなんですけど⁉︎ あ、もう大丈夫です。 もう二度と逆らわないから許してください⁉︎)


「――そのような心配……(とうと)き血は百年程度の時間でどうこうなるような、(やわ)なものではございません。 この国で一番に(たっと)ばれる血筋なのですから」


(ニコニコ笑ってるけど目がマジ。 本気と書いてマジ! ……――これ完全にヴァルムさんの地雷踏んだでしょ…… でもリアーヌちゃんと学習済み! もう二度とうちが王家の血筋だってこと否定しない! ヴァルムさんに逆らわない!)


 リアーヌはヴァルムの圧に気圧されるように身体を後ろに押しながら、同意するように全力で首を縦に振る。


「ーーそうだったんですね! 勉強になります!」

「ご理解いただけたようで何よりでございます」


 そう言ってようやくいつもの笑顔を浮かべたヴァルムにリアーヌは、ホッと息をもらしながら知らずに強ばっていた肩をゆっくり下げた。


「――そういうわけがございますので、過去の伝手を頼り、王家の方々にはきちんと根回しさせていただきます。 なのでお嬢様がご心配なさることなどなに一つございませんよ。 このヴァルムめにどうぞお任せを……」


 そう言うとヴァルムは胸に手を当て深々と腰を折った。


(――ヴァルムさんがこう言ってくれるだけで、なんの問題も無くなった気がするから不思議……――でも実際のトコ、いつだってなんだって、ヴァルムさんがこう言ってくれた時はどうにかなってたんだから今回もそうなんだよね! ……まぁ、百年前のコネが王家に対して有効だとは到底思えないけど、ヴァルムさんや大奥様が繋いできたコネはあるんだろうし!)


 リアーヌが心の中でそんなことを考えていると、ヴァルムは顔を上げると「話はそれだけでございます。 こんな夜中に長々と申し訳ございませんでした。 それではおやすみなさいませ」と言って部屋を出て行った。


 それを見送ったリアーヌは、大きく伸びをしながらベッドに戻り、そのままボフンッと倒れ込む。


「――この地味スキルを王家が探してるかも……?」


(ヴァルムさんの話では、ヴァルムさんのご先祖様が初代ボスハウト公爵の執事さんで、その執事さんが残して、そこから代々伝わってきた初代執事さんの手記に“王のお気に召すギフト”って情報が書かれてて、その中の一つが【複写】――つまりは、コピーなわけだけど……――)


「――マジでなんでそんな設定がゲームに一度も出てきてないん……? いや、100年も前の話なんだから、もうそれなりに確保してて今の王族は全然欲しがってない説? なんたって王様だし100年も経ってるもんね……? だとしても少しぐらい出せる場面はあったでしょ……ルートによっちゃ主人公は王妃ですよ⁉︎」


 リアーヌはそんなことをブツブツと言いながらゴロリと身体を回転させ、天井を見上げる。

 そして大きく伸びをしながら息を吐き出し、小さく首を傾げた。


(――え、あのゲームで特別視されてたギフトって、主人公の【守護】だけだったよね? ――ゲームに関係ないから出さなかった? ……確かに王家が重要視してるギフトは20個から30個あって、その中の1番守護で――って言われるより、王家すら欲しがるギフト!【守護】のほうが特別感あるもん

ね。 じゃあやっぱりゲームバランスを考えて出してない? ……――ゲームに出てきてないのに存在してて、でもここはゲームの世界で……? あれ? 私もしかしてパンドラの箱開けようとしてる⁇)


「――だめだ。 考えがまとまらん……」


 リアーヌはそう呟くと、ため息のような息息を吐き出しながら瞳を閉じ――

 そのまま自分でも気がつかないうちに、夢の世界へとれ(いざな)われていったのだった――

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