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「……お嬢様はこう仰ってますが?」


 オリバーはそう言いながら小さく肩をすくめ、アンナに視線を送った。


「けれどっ ……――お嬢様がそうおっしゃるのでしたら……?」


 ギリギリと釣り上げた眉を、鍛え上げた自制心で沈めて見せ、アンナはリアーヌに笑顔を向ける。

 ――いくら気に入らなくても相手は婚約者。

 リアーヌの外聞に傷が付かないのであれば、極力主人の望みに沿うべきであると考えたようだった。


「……これからしばらくは俺か君の同席を求めるし、次回があるならばうちの馬車を、先触れには使わせないようラッフィナート家に求める……それでよろしいですか?」


 オリバーはアンナとヴァルムを宥めるような案を出しながら、最後にリアーヌにたずねる。


「えっと……――そのようにしてください……?」


 心の中で、この答えで合ってますか⁉︎ とうろたえながらも、リアーヌはご令嬢らしく答えて見せる。

 それにオリバーたちが頭を下げたところで、アンナが改めてリアーヌに湯浴みを促した。


「お嬢様、お疲れ様でございました。 湯浴みの準備は整っております……――お疲れでしょうから本日は念入りにパックもいたしましょうね?」


(……あ、清める云々の話はまだ有効なんだ……?)


 その言葉でアンナがまだ怒っているのだという事実を改めて理解したリアーヌは、浴場に歩きながら小声で伝える。


「……私、本当に抗議とかして欲しくないです――その、あんまり私の両親や向こうのご両親に知られたくないというか……――あ、別にそこまで大変なことはされてないんですけど! その……その前段階? みたいなのしたとかしないとか、その……恥ずかしいと言いますか……?」


 話の途中で再び目を釣り上げ始めたアンナに誤解のないよう、言葉を重ねたリアーヌだったが、そのはずみであまり喋らなくていいことまで喋ってしまって、気恥ずかしさからその頬を赤く染め上げる。

 しかし、その説明でリアーヌがどう感じているのかを知ったアンナは(確かにその話のやり取りを、自分の両親と相手方の保護者の間で交わされるのはいたたまれないわね……?)と、ある程度の理解を示した。


「……ですが、旦那さまには報告致しませんと……」

「ええ……」


 困ったように眉を下げたアンナの言葉に、リアーヌは不本意そうな声を上げる。


「さすがに内密には……――旦那さまにお任せすれば悪いことにはなりませんから……そうでございましょう?」

「それは……そうなんですけど……」


 リアーヌはそうモゴモゴと答えながら、湯浴みの準備のため、ドレッサーの前に座り、その複雑に編み込まれた髪をアンナに解いてもらう。

 その作業を鏡越しに眺めながら心の中でグチった。

(……これでも私、お年頃の娘さんなわけで……――父親にそういう報告されるのとかは、ちょっと避けたいかなって思ってるんですけれども……?)


「――そういえば、本日はダンスに社交に、休む暇がなかったとか……――お食事はどうなさいますか?」


 リアーヌの不機嫌さを感じ取ったアンナは、機嫌を取るように食べ物の話を向ける。


「食べます!」

「ではそのように……」

「あ! 一言も口聞いていないんでデザートもですよ⁉︎」

「ええ、もちろんですとも。 本日のデザートはフルーツタルトだそうですよ」

「タルト!」

「お嬢様が氷をたくさん出してくださるおかげで、よく冷えたものがお出しできます。 きっといつもよりも美味しいですよ」

「……フルーツは冷えてるのが美味しいですよね!」


 リアーヌはほんの一瞬、そこまで冷たいのが食べたいのであればかき氷でよかったんじゃ……? と感じたものの、冷たいタルトとかき氷は全くの別物であると考え直し、笑顔で答えた。


(あ……かき氷の上にソフトクリーム乗っかってるやつ食べたい……――ってかソフトクリームが無いな⁉︎ え……あれが無いとか……――でも見かけないな……アイスキャンディーやアイスはあるけど、あの形状のアイスは見たことない……――こっちに無いってことはアウレラにはあったりするかも……? ゼクスにもお願いして探してもらおーっと! ……あれ? ちょっと待って……? ――私……ゼクスとアウレラ行くよね……? え、あのゼクスと旅行に……⁉︎ いや、名目上は視察同行だし、馬車の中みたいに二人っきりになんかならないけど……――え、大丈夫? 私の心臓爆発するんじゃない……?)


「……お嬢様終わりましたよ?」

「ぁ……はい、あの……ありがとうございます!」

「……湯殿の中での考え事はおやめくださいませ?」


 アンナは「使用人にそこまで軽々しく感謝をしてはいけません」と言う小言をグッとこらえながら、疲れた様子のリアーヌに笑顔を向けた。


「……気をつけます」


(深く考えるのはやめよう。 アンナさんやオリバーさんだって一緒の視察旅行だもん! きっと今回みたいなことにはならない! ……多分。 つーか……あの人のギフト、本当に『魅了』なんだろうか? どちらかというと、『フェロモン』とか『お色気』とかそっち系のものなんじゃ……――いや、やっぱりあの赤い目がこっちを見てるとドキドキしちゃうんだから、やっぱり『魅了』なんだろうなぁ……? つまり……――そっか。 あの色気は時前か……――私の婚約者の色気が私の十倍はあってツライ……)

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