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 女性陣はセンスを使いながらニマニマと歪む口元を隠しながらも、興味深げな視線を隠そうともせずに二人を眺めていて、男性陣はどこか呆れを滲ませたような表情を取り繕いながらも、ニヤニヤと歪む口元を手で覆い隠していた。

 女性陣のほとんどはリアーヌと目が合っていながらも、ふふふっと笑うだけでその場を動くつもりは無いようで、男性陣に至っては、目が合う前に視線を逸らされていた。

 唯一、フィリップとだけは一瞬目があったのだが、助けを求めようとは思えないほどに、手で覆い隠したその後ろではイジの悪い笑顔を浮かべていた。


(――鼻につくわー……あの男……――ん? ……ゼクスとフィリップは仲が悪い。 つまりゼクスがフィリップを魅了して見せたら二人の仲は改善される……⁉︎ あれ、これナイスアイデアなのではっ⁉︎)


「――うん、リアーヌごめん。 謝るからそっち見ながら、閃いた! みたいな顔するのやめて……? もうからかったりしないから……」


 リアーヌの表情とゼクスの言葉に、事情を理解した面々は、モニュモニュと歪んだ口元を覆い隠しながら、それぞれ表情を取り繕う。

 ――唯一、ある意味では当事者のフィリップだけはくっきりとしたシワをその眉間に刻み込んでいた。


「……それを実現させてしまったら、明確な敵対行為と捉えられて、全面戦争になりましてよ?」


 リアーヌが暴走し、余計なことを口走る前に、ビアンカが素早く動いて(たしな)めの言葉を口にする。

 ――この意見はもっもとで、公爵家嫡男に『魅了』のギフトを使うなど、例えその力が、ほんの少しの好意を持たせる――程度のものだったとしても、決して許されない明確な敵対行為であった。

 さらに言えば、それをやったのがラッフィナート紹介の跡取りとなれば、パラディール家は絶対に黙ってはいない――そんな確信がビアンカにはあったのだ。


「あー、戦争はダメだぁ……」

「それはそうだけど、そもそも男になんて効かないからね⁉︎」

「――あら、そうなんですの?」


 ゼクスの言葉にいち早く反応を返したのはビアンカだった。

 新しくできた友人のせいか、ギフトについての知識欲が旺盛なようだった。


「……え、効かないだろ……? だって『魅了』だよ?」


 婚約者とその友人その二人から興味深げな視線で見つめられ、ゼクスは自信なさげに言葉を紡ぐ。

 これまで信じてきたものが崩れていくような、そんな居心地の悪さを感じていた。


「……試したことがないのであれば、結果は分からないのでは?」

「それは……」

「――ふむ……意外に有意義な実験になりそうですわね……?」

 ビアンカは実験動物を眺める時のような、無機質で機械的な視線をゼクスに送ると、頭の中でどのようなパターンの実験が効果的なのかを検討し始める。

 そのご令嬢あるまじき、研究者然とした態度にゼクスどころかリアーヌまで後ずさりを始めた頃、ようやくパトリックが止めに入った。


「――ビアンカ相手は選んで欲しい……相手は男爵だ……――ただのクラスメイトではない」

「――あら嫌だわ(わたくし)ったら……――ちなみにパトリック様に協力をご依頼した場合――」

「本当に選んでくれないかな⁉︎」


 頬をひきつらせながらそんなやりとりを見ていたリアーヌは、ビアンカのすぐそばに協力を惜しまなそうな男性が一人いることを思い出していた。


(……アロイス君、ゲームで攻略してた時よりも、ガチガチの研究者っぽかったし……そういう協力も惜しまなさそう……)


 そう考えながらゼクスに気の毒そうな視線を向けた。


「……もしかしてビアンカ嬢の協力者に心当たりがあったりする?」

「……この間お茶をご一緒したコルターマン伯爵家のアロイス様は、各国各地のギフトの研究に興味があるみたいで……――あ、ザームの友達なんですけど」

「コルターマン伯爵……――海岸沿いと国境を守る辺境伯の……?」

「国境……? クレバス湿地帯の近くの港町が地元だっておっしゃってました」

「うん、リアーヌ。 クレバス湿地帯はうちの国の国境だからね?」

「――えっ⁉︎ じゃあ……研究者の多くは国境近くの湿地帯に嬉々として調査に向かっている……?」


 そんな疑問に答えたのはビアンカだった。


「国境近くだからこそ、なかなか許可が降りないんですわ? ――けれどコルターマン家の許可があればその許可は随分と下りやすくなりますの……私がフィールドワークに出る際は是非とも許可をいただきたいです」

「……貰えるといいですね?」


 ビアンカの言葉に社交辞令としてそう答えるゼクス。


「――協力してくださいますか?」


 しかし、そう答えたビアンカの表情は、決してご令嬢が浮かべてはいけないほどにはギラついていて、周辺に少なくはない恐怖をもたらした。


「……と、申しますと?」

「アロイス様はギフトの研究がご趣味でして……」

「――独特な趣味ですね」

「アロイス様ならばきっとゼクス様の魅了にかかってみたいとおっしゃると……っ‼︎」


 そんな本気の目をしたビアンカの唇をパトリックが無言で押さえつけた。

 そして少々圧がこもった笑顔をビアンカに向けながら言い聞かせるようにゆっくりと口を開く。


「――ビアンカ少し落ち着いたほうがいいかと…… いくらゼクス様と親しいと言っても、今の君の言動は失礼だと取られても仕方のないものだよ? しかもアロイス様は港を守るコルターマン辺境伯のご嫡男……――万が一にもアロイス様が構わないとおっしゃっても、ご当主が許可を出さなければ正式な許可とは言えない……そうだろう?」

「……内密に――」

「危険すぎる」

「……――興味深い実験になったでしょうに……」


 パトリックからの説得の言葉に、大きく肩を落としながら残念そうに呟くビアンカ。

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