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――幼い頃からの付き合いの彼女は、フィリップの機嫌が下降していることを理解していた。
「うーん……でもそうすると、私よりも力の弱い大人が沢山いることの説明がつかなくなっちゃうよ?」
「……個人差、とかかしら?」
「確かに個人差はあると思う。 ――私はその差がどれだけ使って来たか、どれだけ慣れているか、だと思ってるってだけ」
「――……一理ある気が致しますわ?」
レジアンナはリアーヌの意見に戸惑いながらも、フィリップにそっと話しかけた。
「しかし……」
「元にスパの方々は……」
そう話し合うレジアンナたちを横目に、ゼクスはリアーヌに話しかけた。
「――ちなみにリアーヌは力を伸ばそうと思ったら、どんな方法が効果的だと思ってる?」
その質問にビアンカたちやレオンたちの注目を集めていたが、リアーヌはそんなことには気が付かず、あっけらかんと自分の考えを口にし始めた。
「これ私の場合なんですけど、何度も使ってその力に慣れないと、上手く使えないです。 ……その――弟を癒すのに初めは何回も掛け直ししないとダメでしたが、最近は疲労回復程度なら一回で済むようになりましたし……?」
リアーヌは少しだけ声をひそめながらゼクスに説明する。
人前で話してはいけないと言われていたギフトコピーに関連する話題だったが、この場にいる関係者には全てバレていると思っての発言だった。
そしてそれはゼクスも同じように判断したようで、特に咎められることも無く、リアーヌの言葉に「なるほど……」と声を漏らしていた。
「――つまりギフトを使えばその分、力が増えるというのは、慣れて効率が良くなるから……ってことだと考えているんだね?」
「……えっと、それはそれで増えると思ってます。 ただ、ほんの少しずつだから長く続けないと効果はあまり……――あ、これに関しては父さん「それは続けろ」って言ってたんで、もしかしたら本当に増えるのかもしれません」
「――確定情報じゃないそれ⁉︎」
「……いや、それによってギフト使うのに慣れて、力が安定する。 ……とかでも父さんのギフトは反応するんで……」
「ええ……?」
「多分、父さん自身も理屈は分かってないんです。 でも今までの経験からその感覚の時はこう! みたいな対処法を確立してて……あの人はそれに従って生きてるだけです」
「――それが正解なんだろうけど……ちょっと――俺にはマネ出来ないかな……?」
ゼクスとて直感に従い行動することはあるが、直感だけで行動を決められるのかとたずねられれば、答えはノーだ。
言葉巧みに自分にとって都合のいい選択肢を選ぶよう仕向けるノウハウを知っているだけに、余計に直感に頼りすぎることには恐怖を感じているようだった。
「私もムリです……――だってこの間父さんに「豪運のスキル上手く使えないんだ」ってグチったら……「あんま考えないで行動してみろ」って言われて……」
「うわぁ……」
声には出さなかったが、その会話に注目していたすべての者たちが、同じようにげんなりと顔をしかめていた。
「――ちなみにその時近くにいたアンナさんには「豪運のギフトを練習なさる時はお家の中だけですると約束してくださいませ……!」って懇願されました。 私だって入学当時ならともかく、今は考えなしに行動するとかちょっと無理です……」
「……俺はそれを“成長”って呼ぶんだと思うな?」
「――豪運のギフトは上手くなりませんけどね?」
「……ゆっくりやろ? 俺の心臓も持たないって……」
どこか哀愁を漂わせ始めた二人の会話を聞きながら、レジアンナたちをはじめとした、この会話に注目していた面々はそっと顔を突き合わせながらヒソヒソと意見を交わし合う。
「……意外に重要な情報だと思いますわ?」
「事実だとすれば大事だ……」
レジアンナの言葉にフィリップが神妙な顔つきで頷き返す。
「――こちらのお話、知り合いのギフト研究家に検討していただこうかと……」
「アロイス様だね? 私も意見を聞いてみたい」
「まずは手紙を送ってみますわ」
ビアンカの提案にパトリックが頷き、ほんの些細な時間で、研究者たちの意見を求めることが決定していた。
「……訓練次第で力が伸びる――それが事実であれば……」
「――将来が変わる人や家も多く出るかと……――それをもたらしたのがレオン様ならば、きっとあなたの助けになってくださいますとも……!」
「もし事実であれば、だがな……」
「子爵様の助言付きです。 決して悪い手札ではございません!」
こんな会話で、この情報が第二王子派閥の切り札の一枚に加えられたのだった――
「……――その練習方法、うちの社員たちにも教えて良いかな? 水持ちがより一層多く水を出せるなら船旅は快適になるし、万が一にも備えられる」
「構いませんけど……――社員さんたち使い切ってくれますかね?」
「……え?」
「だって……ギフトで雇われてる人たちって、基本的に力を使い切るの嫌がるじゃないですか? 使い切ってそのまま帰れるなら良いですけど、駆け込みで仕事が舞い込んで「もう力使えないから無理!」って言いたくないから……」
「あー……」
「関係性によっては、言ってもどうにもならないから回復するまで残業とかも考えられますし……」
「なるほど……その危険は考慮しないとだね……――じゃあまずはグループ分け……いや、研修と称して力を使い切る期間を設けるか……?」




